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コラム

自転車も車両です!―自転車の運転規制と刑事責任

簡単に言うと…
  • 宅配代行サービスの従業員が、配達中に運転していた自転車で高齢者に衝突し、死亡させたという交通事故で、裁判所は、従業員に禁錮1年6月、執行猶予3年の判決を言い渡した。
  • 自転車も道路交通法規の規制対象であり、事故態様によっては刑罰が科せられることもある。
  • 自転車事故の加害者は民事上の責任も負うことがあるため、日頃から道路交通法規を守るほか、保険に加入するなどしてリスクに備えることが必要である。
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 宅配代行サービスの従業員が、配達中に運転していた自転車で高齢者に衝突し、死亡させたという交通事故で、裁判所は、その従業員に禁錮1年6月、執行猶予3年の判決を言い渡しました。この事案では、雨が降る中、夜間に無灯火で、スピードを出して、横断歩道歩行中の高齢者に衝突しており、裁判所は、基本的な注意義務を怠った過失は重いと判示しています。
 自動車の歩行者に対する死傷事故は報道でもよく見かけると思われますが、自転車の歩行者に対する死傷事故も少なからずあります。統計によると、令和3年に自転車で人を死傷させた交通事故は全国で2733件あり、ここ数年は同じくらいの件数で推移しています。
 自転車は、免許も要らず、老若男女が使用できる便利な交通手段ですが、場合によっては民事責任だけでなく、刑事責任を負うこともあり得るのです。今回のコラムでは、自転車の交通事故によって発生し得る代表的な刑事責任について、概説いたします。

1.道路交通法

道路交通法

(定義)
第2条
1項 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
 8号 車両 自動車、原動機付自転車、軽車両及びトロリーバスをいう。
 11号 軽車両 次に掲げるものであつて、身体障害者用の車椅子及び歩行補助車等以外のものをいう。
 イ 自転車、荷車その他人若しくは動物の力により、又は他の車両に牽引され、かつ、レールによらないで運転する車(そり及び牛馬を含む。)
 11号の2 自転車 ペダル又はハンド・クランクを用い、かつ、人の力に より運転する二輪以上の車(レールにより運転する車を除く。)であつて、身体障害者用の車椅子及び歩行補助車等以外のもの(人の力を補うため原動機を用いるものであつて、内閣府令で定める基準に該当するものを含む。)をいう。

⑴ 道路交通法上の自転車の位置付け

 道路交通法上、車両とは、自動車、原動機付自転車、軽車両及びトロリーバスをいうとされています(同法2条1項8号)。そして、自転車は、軽車両の1つに位置付けられています(同項11号イ)。つまり、自転車は、道路交通法上の「車両」に当たります。そのため、「車両は」などのように、適用対象が「車両」となっている条項は、原則として、自転車にも適用があります。
 なお、道路交通法上の「車両等」とは、車両及び路面電車をいうので、当然に自転車も含まれます(同法2条1項17号)。

⑵ 代表的な違反事例

 以下では、世間でもよく見られる道路交通法に違反する代表的な事例を紹介します。

ア 信号無視

 信号の表示に従わずに自転車を走行した場合には、刑事罰の対象となります(道路交通法7条、119条1項1の2号)。うっかり信号無視をしてしまっても、処罰の対象です(同法119条2項 過失犯の処罰)。「赤信号だけど、自転車だし、渡ってしまおう。」というのは、処罰の対象になるのです。

イ 通行禁止場所の通行

 自転車は、道路標識や道路標示(道路標識等)で通行が禁止されている場所を通行してはいけません(道路交通法8条1項、119条1項1の2号)。うっかり通行禁止場所を通行しても、処罰の対象です(同法119条2項 過失犯の処罰)。道路標識や道路のペイントで通行禁止とされている場所の通行は止めましょう。

ウ 軽車両の並進禁止

 自転車が並進することとなる場合においては、原則として、他の自転車と並進してはならないとされています(道路交通法19条、121条1項5号)。友人同士で自転車を並進しながら会話している場面はよく見掛けますが、道路交通法上では規制されていますので、注意が必要です。
 なお、道路標識等で、(一定の基準を満たす)自転車の並進が可能とされていることがあります(同法63条の5)。

エ 一時停止無視

 自転車は、一時停止の道路標識等がある場所では一時停止をしなければなりません(道路交通法43条、119条1項2号)。うっかり一時停止無視をしても、処罰の対象です(同法119条2項 過失犯の処罰)。道路標識等に従った運転が必要です。

オ 夜間無灯火

 夜間にライトも点けずに自転車を走行することは、道路交通法の規制対象です(同法52条1項前段、同法施行令18条1項5号、道路交通法120条1項5号)。うっかりライトを点けていなくても処罰の対象です。(道路交通法120条2項 過失犯の処罰)。

カ みだりに警音器を鳴らす行為

 自転車には手動のベルが搭載されていることが多いですが、このベルは、道路交通法上の「警音器」に当たります。この警音器は、法令で鳴らすように命じられている場合や危険を防止するためやむを得ない場合を除き、鳴らしてはいけません(道路交通法54条2項、121条1項6号)。歩行者が歩道を通行中に、後続の自転車が道を開けることを目的としてベルを鳴らしていることがありますが、道路交通法の規制があるので、注意が必要です。

キ 酒気帯び運転

 道路交通法65条1項は、「何人も、酒気を帯びて車両等を運転してはならない」と規定しています。もちろん、自転車も「車両等」ですので、酒気帯び運転は処罰の対象です(同法117条の2第1号、117条の2の2第3号)。「自動車を運転するわけじゃないから、大丈夫。」というわけではありません。自転車も「飲んだら、乗るな」です。

ク スマートフォン等のながら運転

 スマートフォンを見ながら自転車を運転した場合、よそ見をして車両を運転しているわけですから、前方を注視することなく運転したという評価が可能です。そのため、態様によっては、刑事罰に当たることがあります。

⑶ 自転車の通行方法の特例

 道路交通法では、自転車の通行方法の特例が定められています(同法63条の3以下)。
 道路に自転車道が設けられている場合、自転車は、原則として自転車道を通行しなければなりません(同法63条の3)。わざと通行しなかったような場合には、刑事罰の対象となります(同法121条1項5号)。
 また、自転車は、自転車通行可の道路標識等がある場合に歩道を通行することができますが、基本的には自転車が歩道を通行することはできません(同法63条の4第1項)。歩道を通行する際も、車道寄りの部分を徐行する必要があります(同条2項本文)。車道寄りの部分を徐行しない場合には、刑事罰の対象となります(同法121条1項5号)。

⑷ 傘差運転

 傘差運転もよく見かける運転態様ではありますが、道路交通法そのものには、傘差運転が規制されると書かれているわけではありません。
 しかし、道路交通法は、「道路又は交通の状況により、公安委員会が道路における危険を防止し、その他交通の安全を図るため必要と認めて定めた事項」を規制対象としており(同法71条6号)、各都道府県の公安委員会がそれらの事項を定めています。
 例えば、東京都の場合、自転車の傘差運転の規制が明記されています(東京都道路交通規則8条3号)。そのため、傘差運転は、罰金刑の対象となっています(道路交通法120条1項9号)。

⑸ あおり運転(自転車の妨害行為)

 令和2年6月の道路交通法改正で、自転車も他の車両等を妨害する目的の行為(いわゆるあおり運転など)が規制されました。妨害行為の内容如何によっては刑事罰の対象となり、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金が科されることがあります(道路交通法117条の2の2第11号)。

2.過失傷害の罪(刑法第28章)

刑法

(過失傷害)
第209条1項 過失により人を傷害した者は、30万円以下の罰金又は科料に処する。
2項 前項の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。
(過失致死)
第210条 過失により人を死亡させた者は、50万円以下の罰金に処する。
(業務上過失致死傷等)
第211条 業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、5年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に処する。重大な過失により人を死傷させた者も、同様とする。

 今回の報道のケースでは、業務上過失致死罪(刑法211条前段)が適用されています。ここでいう「業務」とは、本来人が社会生活上の地位に基づき反覆継続して行う行為であって、かつその行為が他人の生命・身体等に危害を加えるおそれがあるものをいうとされています(最判昭和33年4月18日刑集12巻6号1090頁)。
 報道のケースに引きつけた上でごく簡単にいえば、宅配代行サービス業務を行っている者がうっかり人に怪我をさせてしまい、その結果、怪我をした人が亡くなってしまった場合に適用される罪が、業務上過失致死罪ということになります。怪我をさせるにとどまった場合には、業務上過失傷害罪が適用されます。これが、宅配代行サービス業務を行っている者ではなく、買物途中の一般の方となると過失致死(傷害)罪の適用となります。過失傷害罪の場合には、被害者の告訴が必要となります(刑法209条2項)。
 自転車事故が刑事裁判になるケースは、多くは、業務上過失致死傷罪の適用が問題となっている印象があります。

3.その他の刑法上の罪

刑法

(傷害)
第204条 人の身体を傷害した者は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
(傷害致死)
第205条 身体を傷害し、よって人を死亡させた者は、3年以上の有期懲役に処する。
(器物損壊等)
第261条 前3条に規定するもののほか、他人の物を損壊し、又は傷害した者は、3年以下の懲役又は30万円以下の罰金若しくは科料に処する。
(親告罪)
第264条 第259条、第261条及び前条の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。

 自転車を使い、わざと怪我をさせたり、怪我の結果、死亡させたりした場合には、傷害罪や傷害致死罪が問題となりますが、ケースとしては非常に稀でしょう。
 また、自転車でわざと物を壊すと、器物損壊罪に当たります。こちらも、自転車でわざと物を壊すというケースが多くなく、あったとしても被害者の告訴が必要なため、ケースとしては稀でしょう。

4.民事上の責任の概説

 なお、刑事罰の対象となる道路交通法規に違反して、被害者に損害を与えた場合には、その被害者から加害者に対して民事上の損害賠償請求をされることがあります。加害者は、道路交通法規に違反しているわけですから、故意又は過失で事故を引き起こし、被害者に損害を与えたとの評価はなされやすい傾向にあります。自転車を運転する方は、運転に当たっては刑事罰の規制がある上、刑事罰の対象となると民事上の損害賠償責任も負いやすくなってしまうということを理解しておく必要があります。
 もっとも、自転車を運転している際にうっかり人に怪我をさせてしまうという事態は少なくないことも事実です。近時は、条例で自転車保険(又は個人賠償責任保険)の加入を義務付ける自治体もあるところです。自転車保険の加入を行い、日頃からリスクに備えることも重要です。ご自宅の火災保険が個人賠償責任保険をカバーしていることもあります。そして、自転車保険(又は個人賠償責任保険)には弁護士費用特約が付されていることもあります。有事の際には自分のケースで保険の使用はできないか、弁護士費用特約が付帯されていないかなどを加入の保険会社に確認してみましょう。

5.自転車事故と刑事事件の弁護士

 自転車の性能が改善されていき、通勤等で自転車を使う方も増えてきました。それだけ自転車が便利なものとなり、速度の出せる乗物となってきている一方で、人力で作動する乗物であるということもあってか、バイクや自動車と比較すると、安全に十分に配慮して運転するという意思が不十分な方も一定数見受けられます。
 しかしながら、夜間に自転車を制止させられた上で、職務質問を受けている姿を見かけた方も多いと思いますが、自転車であっても捜査の対象となることは全く珍しいものではありません。
 そして、車であれば、自らの運転行為に過失がなかったことについて、ドライブレコーダー等で明らかにすることが一定程度可能になってきていますが、自転車にドライブレコーダーを搭載している方はほとんどいないように思います。ですから、何かの事故があった時に、必要以上に過失を咎められる可能性が大きく残っているといえます。
 客観的な証拠が残っていない以上、刑事事件の弁護士は被疑者の方から聞いた話を前提に、犯罪が成立し得るのかどうか等について検討し、弁護方針を定めることになります。  
 自動車の場合と異なり、保険に入っていない方も現段階では珍しくなく、被害者となった方との示談交渉についても、刑事事件の弁護士の重大な役割となることも多く認められます。
 さらに、過失を否定する場合には、捜査機関がどのような態様での過失を前提に捜査を進めているのかを適切に判断し、そのような注意義務違反がないことについても、適切に説明する必要があります。
 逮捕、勾留を避けた上で、不起訴処分等を勝ち取るためには、適切な弁護活動が必要だといえるでしょう。

6.まとめ

 自動車と比べると、自転車は出すことのできる速度も重量も異なります。そのため、運転については軽く考えがちになってしまいやすいです。
 しかし、自転車も、道路交通法規が適用される車両であり、罰則をもって規制がなされている事項もあります。自転車で事故を起こしてしまえば、民事事件、刑事事件に発展してしまうこともあります。
 自転車は、生活を便利にする交通手段です。本コラムから、改めて、自身やご家族の自転車の利用方法を見直してみる機会になれば幸いです。

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