ネットギャンブルの違法性
- オンラインカジノやスポーツ・ベッティングについては、基本的に賭博罪に該当する。
- 賭け事への参加が適法となるのは、公営ギャンブルか、極めて定額の物品を対象とするようなケースに限られる。
- 賭博罪に該当するとしても、胴元としての関与でない場合には、不起訴処分となる可能性もある。

弁護士
岡本 裕明
最近(令和7年3月)、賭博を理由に活動を休止する著名人に関する報道を目にする機会が増えています。賭博を理由に起訴されるようなケースは、昔から一定程度散見されますが、あまり犯罪だという認識が広まっていないように思います。
その背景には、競馬や競艇等、適法なものとして取り扱われている公営ギャンブルや、低レートの賭け麻雀や食事代を賭けたジャンケンのように、身近に行っている行為との区別が付きにくいという点もあるように思います。
そして、手軽にギャンブルを行う方法の一つとして、スポーツ・ベッティングというものも存在します。実際にギャンブルを行わない方であっても、大きな国際大会が開催される際に、特定の国が優勝する可能性について、倍率が示されているような記事を見たことがある方は少なくないのではないでしょうか。
このようなスポーツ・ベッティングのように、スマートフォン一つで参加できるネットギャンブルについては、適法であるかのような説明が付記されているケースもあり、犯罪行為であるということを十分に把握できずに関与してしまうケースが非常に多いように思います。冒頭でお伝えした最近の報道の中にも、被疑者の弁解として「違法な賭博だとは知らなかった」というような供述が紹介されているものが散見されます。
他方で、何かを賭けて勝負をするという行為自体が全て違法だということには、違和感を抱かれる方が多いように思います。友人と共に試験勉強に励んでいた学生同士の間で、「点数が高かった方に、ジュースを奢る」といった約束をすることさえも、許されないのでしょうか。
今回は、賭博罪が成立する範囲を中心に、最近話題になっているネットギャンブル等について解説したいと思います。
1.賭博罪とは

弁護士
岡本 裕明
まずは、賭博罪という犯罪がどのようなものなのかについて、刑法の条文を確認してみましょう。
刑法
(賭博)
第185条
賭博をした者は、50万円以下の罰金又は科料に処する。ただし、一時の娯楽に供する物を賭かけたにとどまるときは、この限りでない。
(常習賭博及び賭博場開張等図利)
第186条
1項 常習として賭博をした者は、3年以下の懲役に処する。
2項 賭博場を開張し、又は博徒を結合して利益を図った者は、3月以上5年以下の懲役に処する。
刑法では、上述した条文の他に、富くじの発売等を禁止する条文も定められていますが、今回のテーマとは少し異なるので省略することとします。
さて、刑法第185条は「賭博をした者」に対して賭博罪を成立させる旨しか定めていませんから、「賭博」の意味が問題となります。
この点については、偶然の事情に関して財物を賭けて勝敗を争うことを意味するものと理解されています。
能力差があったとしても、「偶然の事情」であることに差はありません。競馬や競艇等においても、能力によって異なる倍率が定められていることを考えればイメージし易いかと思います。にも拘わらず、「偶然の事情」という条件が求められるのは、必然的な事情に関連するような場合(どちらが勝つか負けるかが決まっている場合)で、賭金を受け取るのは、単なる詐欺で賭博ではないからです。騙されている側としては、賭博をしているつもりなのだとは思いますが、そのような詐欺の被害者との関係では、賭博罪は成立しないものと理解されています。
なお、必然的な事情かどうかは、賭け事に参加している当事者の認識から判断します。例えば、既に結果が出ているサッカーの試合結果を対象とする場合であっても、参加者全員がその結果を知らなければ賭博罪にあたりますし、誰かが既にその結果を知りながらも、賭け事の対象にしたのであれば詐欺罪にあたるという理解になります。
このように、賭博の定義は極めて広く理解されているため、何かを賭けて勝負に及んだ場合には、そのほとんどは賭博に該当することになります。麻雀や将棋等については賭博になり得ますし、ジャンケンについても賭博に該当し得るのです。
2.一時の娯楽に供する物

弁護士
岡本 裕明
しかし、冒頭で述べたように、学生時代に飲食物を賭けて、何かを競ったことがある方は多くいらっしゃるのではないでしょうか?そのような行為が、全て犯罪だったかというとそういう訳ではありません。
刑法第185条は、「ただし、一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるときは、この限りでない。」と例外規定を設けているからです。
極めて豪華な食事が対象となっていなければ、飲食物を賭けて競うようなケースが賭博として処罰されることはありません。
一方で、金銭が対象となっている場合、少額であっても「一時の娯楽に供する物」にあてはまるかというと、一時的にしか利用できないものではありませんから、賭博罪に該当してしまいそうに感じられます。とはいえ、数百円の飲食物を対象にした場合と実質的な差異はありませんから、少額の賭け事についても、賭博罪として刑罰が科されることは原則としてないものと考えられるでしょう。
麻雀等でお金を賭ける行為が、一律に違法になるとまでは言い切れないのも、そのような理解が前提になっているものと思われます。
とはいえ、大正時代の古い裁判例になりますが、金銭については「一時の娯楽に供するもの」に該当しないと判断したものは存在しますので、基本的には公営ギャンブル等以外で、金銭を対象に賭け事を行うことは控えるべきでしょう。
3.裁判例

弁護士
岡本 裕明
そうすると、賭博として刑罰の対象となる行為と、許容される賭け事の境目は、非常に不明確なものとなってしまいますし、法律の文言を眺めるだけでは、その境界線を把握することができません。
そこで、実際に、賭博罪として扱われた事例がどのようなものなのかについて、裁判例を探してみましたが、そのほとんどが賭博を主催している胴元側として関与していた被告人のもので、賭け事に参加しただけの被告人に関する裁判例は多くありませんでした。
例えば、広島高等裁判所岡山市部平成3年10月18日判決は、野球賭博に関与していた被告人についての常習性を検討する中で、被告人が過去にも賭博罪で罰金10万円の刑罰が科されていたことを認定しているのですが、その内容は、一口を1万円として合計21口を賭けて野球賭博を行ったというものです。もっとも、野球賭博で21万円を賭けたというだけでなく、胴元としても関与していたことを窺わせる事実も認定されており、賭博を行っていたことのみで有罪判決を受けているのか判然としませんでした。
また、東京地方裁判所平成2年10月12日判決は、ポーカーゲームに関する賭博の事案において、顧客としてポーカーで賭け事を行っていた被告人に対して、懲役4月執行猶予2年の有罪判決を宣告していますが、胴元からの依頼によりポーカー店の名義人になっていたなどの事情が認定されていますので、単に賭博をしただけで有罪判決を宣告された訳ではありません。
このように説明すると、賭博を主催する側ではなく、賭け事を行うだけであれば有罪判決を宣告されることがないかのように聞こえるかもしれませんが、公表されている裁判例が多く存在しないだけで、オンラインカジノを利用していたことによって有罪判決を宣告された被告人に関する報道は多くなされています。その中には、略式手続によって罰金を支払うだけでは済まず、正式な裁判で懲役刑を言い渡された事案も含まれていました。
4.賭博罪と弁護活動

弁護士
岡本 裕明
上述した事案の他に、店舗で行う賭け麻雀についても摘発例に関する報道が散見されます。店舗の経営者のみが処罰されているケースも存在するものの、常習的に利用している場合には、顧客に対しても刑罰が科されている事例も存在するようです。
オンラインカジノや店舗が主催する賭け事に参加したことで、賭博罪の容疑がかけられている場合、賭博罪に該当しないことを理由に無罪を主張できるケースは極めて限られてしまいそうです。むしろ、胴元との関わり合いや常習性を否定するなどして、起訴猶予処分を狙っていく弁護方針が多くなるように感じています。
逆に、賭博の主催者がおらず、参加者の合意のみで何らかの賭け事が行われている場合には、事実関係を精査した上で、賭博罪の成立を争う余地が残されているように思いますから、まずは弁護士に早期に御相談いただければと思います。
5.まとめ

弁護士
岡本 裕明
以上のとおり、賭博罪について、法律は極めてシンプルな形の定めしかおいておらず、犯罪となるケースと犯罪とならないケースのボーダーラインは不明確なものとなっています。少なくとも、賭博の主催者がいるような形でのギャンブルについては、競馬や競艇等のように、法律で適法なものと定められているもの以外は行うべきではないでしょう。
特に、スマートフォン一つで利用できる、海外のサイトを用いたスポーツ・ベッティングやオンラインカジノについては、特に摘発されることなく利用できている方も多いかもしれませんが、仮に捜査の対象となった場合には、犯罪の成立を否定することは困難なように思います。そのようなサイトへのアクセス履歴や、賭け金の入出金の記録が残されてしまうことを併せて考えれば、店舗等で行われるギャンブルと比較しても、刑罰が科されてしまう可能性は高度に認められます。
とはいえ、胴元等として関与している訳ではない場合には、賭博罪の成立を争うことができなくとも、前科が科されることを回避できる可能性は残されていますから、早期に弁護士へ御相談いただければと思います。
