飲酒運転周りの罰則について。
- 飲酒運転を助長する行為については、飲酒運転とは別個に罰則が設けられている。
- 態様如何で危険運転致死傷罪の共犯者として責任を問われることもある。
- 同乗罪との関係において、同乗者側からの「要求」があったと認められるかによって犯罪の成否が変わるなど、微妙な問題も多く、専門家への相談が不可欠。

弁護士
岡本 裕明
昨今、信じられないような危険運転の結果として、周囲の方の生命が失われたり、大怪我をされたりするような事件についての報道を目にすることが多くなったように感じます。
そして、そのような危険運転の背景に、飲酒という事情が認められる事件も、残念ながら後を絶ちません。
「のんだらのるな のるならのむな」というスローガンは、毎日新聞社が公募している交通安全スローガンで、昭和41年に入賞した作品のようですが、運転者には広く認識されている内容だと思いますし、運転者の常識として定着しているように思います。
では、実際に飲酒した上で自動車を運転した方以外にも、飲酒運転を助長するような行為についても罰則が設けられている点は御存知でしょうか。この点も、飲食店等においてアルコール類を注文する際等に注意される機会が多くなっており、知識として御存知の方は多いかもしれません。
もっとも、飲酒した上で自動車を運転することはあり得ないという考えをお持ちの方であっても、飲酒運転に及ぶ可能性がある方々に対して、飲酒運転に及ぶことがないように、常に注意しているという方は多くないのではないでしょうか。
しかし、つい先日も、高速道路を逆走して事故を起こした事件について、運転手だけではなく、同乗していた人間も逮捕された旨の報道がされていました。
このように、逮捕されることがあるほどに違法性の高い行為なのだという点まで理解されている方は多くないように感じています。
そこで、今回は、飲酒運転に関して、実際の運転手以外の方に科され得る罰則について解説していきたいと思います。
目次
1.道路交通法の定め

弁護士
岡本 裕明
まずは、飲酒運転に関して、運転手以外の方に対する罰則として、どのようなものが定められているのかについて確認してみましょう。
道路交通法
第65条1項
何人も、酒気を帯びて車両等を運転してはならない。
第65条2項
何人も、酒気を帯びている者で、前項の規定に違反して車両等を運転することとなるおそれがあるものに対し、車両等を提供してはならない。
第65条3項
何人も、第一項の規定に違反して車両等を運転することとなるおそれがある者に対し、酒類を提供し、又は飲酒をすすめてはならない。
第65条4項
何人も、車両…の運転者が酒気を帯びていることを知りながら、当該運転者に対し、当該車両を運送して自己を運送することを要求し、又は依頼して、当該運転者が第1項の規定に違反して運転する車両に同乗してはならない。
第117条の2第1項
次の各号のいずれかに該当する者は、5年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金に処する。
2号 第65条第2項の規定に違反した者(当該違反により当該車両等の 提供を受けた者が酒に酔った状態で当該車両等を運転した場合に限る。)
117条の2の2第1項
次の各号のいずれかに該当する者は、3年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金に処する。
4号 第65条第2項の規定に違反した者(当該違反により当該車両等の 提供を受けた者が身体に前号の政令で定める程度以上にアルコールを保有する状態で当該車両等を運転した場合に限るものとし、前条第1項第2号に該当する場合を除く。)
5号 第65条第3項の規定に違反して酒類を提供した者(当該違反によ り当該酒類の提供を受けた者が酒に酔った状態で車両等を運転した場合に限る。)
6号 第65条第4項の規定に違反した者(その者が当該同乗した車両の 運転者が酒に酔った状態にあることを知りながら同項の規定に違反した場合であって、当該運転者が酒に酔った状態で当該車両を運転したときに限る。)
第65条1項が基本となる飲酒運転の禁止を定めています。2項は、自動車を貸すような行為が想定されていますが、あまり問題となるケースは多くないように思います。そうすると、問題となる可能性が高そうなのは、運転手に飲酒を勧めることを問題視する3項と、飲酒運転に同乗する4項が問題となります。
そして、それぞれの行為に対して、第117条の2の2で罰則が定められています。括弧書きが付されており、読みにくい文章となっていますが、運転手に飲酒を勧めた場合等であっても、実際にその運転手が飲酒運転に及ばなかった場合にまで処罰する必要がないので、括弧書きが付されているだけですので、そこまで難しい内容とはなっていないかと思います。
なお、引用を省略しておりますが、第117条の3の2においても、より軽い罰則が設けられておりますが、これは運転手のアルコール保有度が酒気帯び運転に止まる程度のものか、酒酔い運転にまで至る程度のものかによって区別されているものです。
このような罰則について、実務上、飲酒運転関連(周辺)三罪等と呼ばれています。
2.飲酒運転関連三罪における争点

弁護士
岡本 裕明
飲酒運転関連三罪の成否が問題となる場合、まずは客観的に運転手が飲酒していることが求められます。もっとも、飲酒運転自体が発覚しなければ、飲酒運転関連三罪についても立証ができないでしょうから、この点は当たり前の話かもしれません。
その上で、飲酒運転関連三罪の被疑者として扱われている方が、車両の提供や酒類の提供等に及んだ事実が立証される必要があります。この点についても、実際に飲酒運転に及んだ方の供述を前提として、その供述を裏付ける証拠を収集することに、大きな支障はないように思われます。
他方で、飲酒運転関連三罪との関係でも、当然ながらそのような犯罪に及ぶことについての故意が必要となります。過失犯について処罰する定めはありませんので、酒類の提供に関していうと、酒類の提供先が、実際に自動車を運転することについての認識がなければいけません。車両の提供との関係でも、提供先である運転手が飲酒していることを認識していなければ、飲酒運転関連三罪についての故意を認定することができないことになるのです。
この故意の認定の部分が、飲酒運転関連三罪との関係では問題となることが多いといえそうです。
3.危険運転致死傷の共犯者にはならないのか

弁護士
岡本 裕明
ここまで、実際に飲酒運転に及んだ運転手だけでなく、運転手に対して車両や酒類を提供する行為について、道路交通法が罰則を設けていることについて説明をさせていただきました。
しかし、皆様も「共犯」という言葉は聞いたことがあると思います。そこで、運転手が運転すると分かっていながらお酒を飲ませた結果として、運転手が危険運転に及び、人を轢いてしまったようなケースにおいて、危険運転致死傷罪の共犯者として処罰することができないのかという点が問題になるかと思います。
例えば、金沢地方裁判所令和5年6月21日判決は、酒酔い運転の事案ではありませんが、赤信号を無視して交差点に突入し、自転車と衝突して自転車に乗っていた被害者が亡くなってしまった事案において、急いで目的地に到着させるために赤信号を無視して走行するように指示していた同乗者に対して、運転手と同じ懲役6年の刑が言い渡されています。
そして、飲酒運転に同乗した者の責任として、最高裁判所平成25年4月15日決定は、飲酒運転を了解して、その走行を黙認しただけでは危険運転致死傷についての共犯は成立しないとの弁護人の主張に対して、運転手と同乗者間の人間関係(同乗者が先輩だったようです)などを指摘した上で、危険運転致死傷の共犯者としての責任を認めています。
逆に、仙台高等裁判所平成21年2月24日判決は、6時間にわたって飲酒を続けて泥酔状態になっていた運転手に対して、自宅まで送り届けるように依頼した上で自動車に同乗していた被告人について、危険運転致死の共犯ではなく、酒酔い運転の共犯として扱っています(裁判所がそのように判断したのではなく、検察官がそのような罪として起訴しているようです)。
また、飲酒運転関連三罪が新設された以降については、共犯者としてではなく、正犯者としてそのような行為に及んでいる以上、危険運転致死傷の罪の共犯者としての責任は負わないとの見解もあります。
以上のように、飲酒運転関連三罪に及んだ場合において、どのような犯罪が成立するのかについては、一律に判断することが困難な状況にあるものといえそうです。
4.飲酒運転関連三罪と弁護活動

弁護士
岡本 裕明
御自身が運転するのでなくても、飲酒運転を助長するようなことは厳に差し控える必要があります。人の生命を失わせるような、重大な結果が生じてしまう危険性が高いからです。
他方で、飲酒運転関連三罪において問題とされている行為は、車両や酒類の提供等、それ自体は犯罪として非難されるような悪質な行為ではありません。ですから、酒酔い運転をするとは知らなかったにもかかわらず、飲酒運転関連三罪としての罪に問われるの不当です。
また、飲酒運転車両に同乗する行為との関係でも、最も運転手を止めるべき立場にあることは否めませんが、運転手の誘いを断りきることができずに、やむなく同乗したようなケースについて、刑罰を科すことも酷なものといえます。
ですから、道路交通法も、同乗者との関係においては、運転手に対して、「自己を運送することを要求し、又は依頼」という要件を求めているのです。
もっとも、同乗者から「要求し、又は依頼」したのか、運転手から同乗するように求めたのかについては、その区別が非常に困難そうだということは、皆様も想像し易いのではないかと思います。
例えば、長野地方裁判所平成23年11月5日判決は、「乗せていってほしい」という言葉を具体的に発していなくても、黙示的にそのような意向を運転手に伝えた上で同乗した場合には、同乗罪が成立する旨を判示しています。
他方で、明示的か黙示的かに関係なく、運転手から同乗するように働き掛けがあり、そのことを承諾するだけでは同乗罪は成立しない訳ですから、弁護人としてはこの点について、同乗者からの「要求」や「依頼」ではなかった可能性を十分に吟味した上で、弁護活動を行うことになるでしょう。
5 まとめ

弁護士
岡本 裕明
以上のとおり、飲酒運転を助長する行為については、様々な問題点があり、どのような罪が成立するかという点についても、一律に判断することができません。飲酒運転関連三罪の成立に止まることもあれば、その関与の仕方如何によっては、危険運転致死傷罪の共犯者としての責任を負う可能性も否定できないのです。
どのような責任を負うのが妥当なのかという点だけでなく、そもそも刑事責任を負う必要があるのかという点についても、専門家による判断が高度に求められます。お悩みがあるようでしたら、御気軽にご相談ください。
