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コラム

選挙犯罪における買収、利害誘導の罪とは 。

簡単に言うと…
  • 「買収、利害誘導」の罪が公職選挙法違反の罪の中心である。
  • 許容される金銭の供与については細かく定められている。
  • 選挙権・被選挙権に影響する重大な問題であり、適切な弁護活動が早期に求められる。
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弁護士
岡本 裕明
大きな選挙が終わった後は、公職選挙法違反の罪で被疑者が逮捕された旨の報道を見る機会が増えると思います。公職選挙法違反の罪として、最も検挙されている「買収、利害誘導」の罪が、どのような犯罪なのか確認してみましょう。

 最近、政治家の発言を切り取ったショート動画を見る機会が非常に増えました。実際に、各政党も、自党の政策や候補者を浸透させるために、SNSをどのように活用すべきかという点を強く意識した上で、選挙に臨んでいることが、2024年に行われた衆議院選挙や、2025年に行われた参議院選挙で明らかになってきているように思います。
 他方でSNSが広く活用されることになった結果、政党や立候補者自身が運用するアカウントだけでなく、立候補者から委託されているように思われるアカウントに加え、一般国民との関係でも、自身の政治的主張をSNSで自由に投稿されるようになってきたように感じます。
他方で、単なる政治的思考について表現するのではなく、選挙に関連した内容を投稿する場合、選挙について定められたルールに意図せず違反してしまう可能性は存在します。
 2025年の参議院選が終了した後も、特定の立候補者の言動について、公職選挙法に違反しているのではないかという指摘が多くなされていました。また、選挙から約1月半が経過した現段階においても、特定の候補者に投票する見返りとして現金を渡す約束をしていたという容疑で、企業の社長が逮捕された旨の報道もなされています。
 私達は、以前、「選挙に関する犯罪。公職選挙法違反とは。」 というコラムで、公職選挙法違反について解説させていただきました。
 この時は、公職選挙法全体を簡単に解説させていただきましたが、公職選挙法違反の中でも、もっとも多く検挙されているのは「買収、利害誘導」の罪です。令和5年度の犯罪白書によると、公職選挙法違反で検挙された人員の約26%を占めており、2番目に多い「選挙の自由妨害」の罪が約13%であることを考えると、2番目に多い犯罪類型の2倍の検挙数となっています。
 先程、紹介した報道されていた事件も、「買収」の罪にあたるものといえ、「買収、利害誘導」は公職選挙法違反の中心となる犯罪行為といえるでしょう。
 そこで、今回は、「買収、利害誘導」の罪を中心に、解説させていただこうと思います。
選挙犯罪における買収、利害誘導の罪とは 。

1.買収、利害誘導の罪とは


弁護士
岡本 裕明
まず、「買収、利害誘導」の罪とは、どのような犯罪なのか、法律の条文を確認していましょう。

 まずは、公職選挙法において、「買収、利害誘導」の罪が、どのように定められているのか確認してみましょう。

公職選挙法

(買収及び利害誘導罪)

第221条1項
 次の各号に掲げる行為をした者は、3年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金に処する。
1号 当選を得若しくは得しめ又は得しめない目的をもって選挙人又は選挙運動者に対し金銭、物品その他の財産上の利益…の申込み若しくは約束をしたとき。
3号 投票をし若しくはしないこと、選挙運動をし若しくはやめたこと又はその周旋勧誘をしたことの報酬とする目的をもって選挙人又は選挙運動者に対し第1号に掲げる行為をしたとき。
4号 第1号若しくは前号の供与、供応接待を受け若しくは要求し、第1号若しくは前号の申込みを承諾し…たとき。
5号 第1号から第3号までに掲げる行為をさせる目的をもって選挙運動者に対し金銭若しくは物品の交付、交付の申込み若しくは約束をし又は選挙運動者がその交付を受け、その交付を要求し若しくはその申込みを承諾したとき。
第221条3項
次の各号に掲げる者が第1項の罪を犯したときは、4年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金に処する。
1号 公職の候補者
2号 選挙運動を総括主宰した者
(多数人買収及び多数人利害誘導罪)
第222条
 次の各号に掲げる行為をした者は、5年以下の拘禁刑に処する。
1号 財産上の利益を図る目的をもって公職の候補者又は公職の候補者となろうとする者のため多数の選挙人又は選挙運動者に対し前条第1項第1号から第3号…第5号…に掲げる行為をし又はさせたとき。
2号 財産上の利益を図る目的をもって公職の候補者又は公職の候補者となろうとする者のため多数の選挙人又は選挙運動者に対し前条第1項第1号から第3号…第5号…に掲げる行為をすることを請け負い若しくは請け負わせ又はその申込みをしたとき。

 第223条も公職の候補者らに対する買収行為に対する刑事罰が定められており、かなり長い内容が定められていることが分かるかと思います。適宜省略しておりますので、気になる方は法律の原文を御確認ください。
 公職選挙法における罰則の規定の中で、一番最初に定められておりますし、第223条以下で定められている他の罰則と比較しても、比較的重い刑罰が定められておりますから、公職選挙法違反の中心として理解されていることが分かるかと思います。
 基本的には、投票や選挙運動を行うことを目的として、金銭等を供与した場合に「買収、利害誘導」の罪が成立することになります。当選させるための活動としては様々なものはありますので、1号では広く当選させる目的に基づく利益供与に刑罰を科しておりますし、4号では逆に、そのような利益の供与を受ける側に対しても刑罰を科す旨が定められているのです。
 そして、第222条では、「多数人買収及び多数人利害誘導」と銘されているとおり、買収の対象が多人数にわたる場合に、通常の買収よりも重い刑罰を科すことが定められているのです。

2.費用について


弁護士
岡本 裕明
では、選挙を目的とする金銭の交付が全て違法となってしまうのでしょうか。この点について確認しておきましょう。

 以上のことからすると、選挙活動を行うにあたって、その対価として現金等を支払うことは全面的に禁止されているかのように感じてしまいます。
確かに、選挙運動の手伝いはボランティアによるのが原則だと考えられます。そうしなければ、経済力のみによって選挙結果がコントロールされかねず、民意を適切に反映した選挙とならなくなってしまうためです。
 もっとも、選挙活動を行うにあたっては、様々な方の協力が必要であり、その全てをボランティアで賄うことは困難です。したがって、一定の選挙運動に対しては報酬を支払うことが可能となっています。
 この点について、公職選挙法第197条の2は、(実費弁償及び報酬の額)として、選挙運動に従事する者に対し支給することができる実費弁償並びに選挙運動のために使用する労務者に対し支給することができる報酬及び実費弁償の額については、政令で定める基準に従う旨を定めており、同条を受けて、公職選挙法施行令第129条が次のように定めています。

公職選挙法施行令

(実費弁償及び報酬の額の基準等)

第129条
 法第197条の2第1項に規定する実費弁償及び報酬の額についての政令で定める基準は、次の各号に掲げる区分に応じ、当該各号に定めるところによる。
1号 選挙運動に従事する者一人に対し支給することができる実費弁償の額の基準 次に掲げる区分に応じ、それぞれ次に定める額
イ 鉄道賃 …路程に応じ旅客運賃等により算出した実費額
ニ 車賃  …陸路旅行について、路程に応じた実費額
ホ 宿泊料(食事料二食分を含む。)… 一夜につき2万3000円
ヘ 弁当料 一食につき1500円、一日につき4500円
2号 選挙運動のために使用する労務者一人に対し支給することができる報酬の額の基準 次に掲げる区分に応じ、それぞれ次に定める額
イ 基本日額 1万円以内
ロ 超過勤務手当 1日につき基本日額の5割以内

 イメージを持っていただくにあたって、施行令を紹介させていただきましたが、実際には更に細かく定められていますし、総額との関係でも規制がありますので、報酬を支払うことによって選挙運動を行わせることは可能であるものの、厳格な管理の下で実施されているものといえます。

3.裁判例について


弁護士
岡本 裕明
では、公職選挙法違反の内、「買収、利害誘導」等が問題となる場合、どのような点が争いになるのでしょうか。最近の裁判例をいくつか確認してみましょう。

 以上のとおり、適切に支払うことのできる報酬というのは存在します。したがって、選挙に関連して金銭を交付していたという事実だけでは、正当な報酬として支払ったもの(又は、正当な報酬として支払ってもらうために預けたもの)という弁解が可能なように考えられます。
 もっとも、上述したとおり、報酬については細かく規制がなされているため、その金額を超える額を交付していた場合には、そのような弁解は容易に排斥されてしまいますし、総額としては適法に支払える金額であったとしても、その使途について適切に指示ができていない場合には、第222条で禁止されている報酬にあたるものと認められてしまう可能性が高いように思われます。
 そこで、実際の裁判例においては、どのような争われ方がされることが多いのか、確認してみたいと思います。
 例えば、東京地方裁判所令和3年6月18日判決は、金銭が交付されていることが証拠上は明らかな事案において、その金銭が選挙買収の目的で行われていたかどうかについて、地方議員らとの関係性の強化や後援会組織の組織固めの目的等を主たる理由として、現金を交付していたとしても、選挙買収の目的が否定される訳ではないと認定しています。そして、その目的については、選挙情勢、現金授受の時期、交付先の立場や関係性、現金授受の状況、金額等を総合して判断する旨を判示しています。
 選挙情勢のみで判断される訳ではありませんが、買収までしなくとも当選できそうかという点も、一つの考慮要素となる訳です。
 このように買収目的が争われるケースの他に、利益の供与先は「選挙人又は選挙運動者」である必要がありますので、このような人物に該当しない旨を争うケースも存在します。大阪高等裁判所令和元年11月21日判決は、車上運動員を手配した人物に対する現金の支払について、車上運動員が選挙運動者であることを前提に、そのような人物を手配した人物についても、間接的に投票を得させるための活動をしているのであって、「選挙運動者」に該当する旨を判示しています。

4.「買収、利害誘導」の罪に対する弁護活動

 他にも裁判例は多数ありますが、新しいものを2つほど紹介させていただきました。起訴されている事案の中で、被告人が公訴事実を争っているものの多くは、金銭の供与自体は、何らかの理由で立証されているものが多い印象でした。そもそも、何らかの利益が供与されていなければ、「買収、利害誘導」の罪は問題となりませんから、この点について疑義がある場合は弁護人としても積極的に争う必要があるでしょうし、関係者が多数存在することが想定される事件類型ですから、捜査段階において何を供述するのか、黙秘権を行使する必要があるのかについて、慎重な判断が必要となるでしょう。
 仮に、何らかの利益が供与されているとした場合には、その目的について争うことも考えられますし、そもそも被告人がそのような事実を認識していたかどうかも問題となります。繰り返しになりますが、選挙には多数の人物が関与しており、立候補者や組織の上位者であったとしても、細かい金銭の支出について全てを認識していないケースもあるからです。
 「買収、利害誘導」の罪で有罪判決を宣告されてしまった場合、選挙権や被選挙権が制限されてしまいます(公職選挙法第252条)。ですから、執行猶予付きの判決であっても、人生に大きな影響を及ぼしてしまいます。他方で、「買収、利害誘導」の罪に該当する行為が証拠上明らかである場合においては、実刑判決を回避するための主張を検討する必要があるかもしれません。例えば、広島高等裁判所令和2年8月31日判決の事案における被告人は、その主張が排斥されてしまっていますが、共同正犯ではなく幇助犯に過ぎない旨を主張しています。

5.まとめ


弁護士
岡本 裕明
「買収、利害誘導」の罪について簡単に解説させていただきました。

 今回は、公職選挙法違反の内、「買収、利害誘導」の罪に絞って解説をさせていただきました。公職選挙法は第16章として罰則規定が設けられているのですが、その内容は第255条の4まで続いており、刑罰が科される対象となる行為も多岐にわたっています。それでも、「買収、利害誘導」の罪は、選挙犯罪の中心であるものといえます。また、計画的に行われる犯行から、過失に近いような形で犯してしまうようなものまで存在することから、適切な弁護方針はそれぞれケースバイケースで大きく変わります。もし、御相談があるようでしたら、是非早期に御相談いただければと思います。

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