色恋営業禁止に関する法改正。何が違法になったのか。
- 風営法改正によって色恋営業が禁止されることとなった。
- 恋愛感情を利用するだけでは色恋営業にならない。また色恋営業には刑事罰は科されていない。
- 売春等をしたお金で貢ぐような旨を伝えると、刑事罰の対象となる。

弁護士
岡本 裕明
確認してみましょう。
ホストクラブ自体は違法ではありませんが、ホストクラブでニュース検索すると、女性から多額の金銭を巻き上げ、更にホストに貢がせるために、風俗店で働かせたり、売春をさせたりするようなホストの記事が多々目に留まります。
このような問題を解決するにあたって、風俗営業等の規制及び業務の適正化に関する法律(以下、「風営法」といいます。)の一部が改正されることになりました。
既に、改正は行われており、令和7年6月28日から施行もされています。
そして、この法改正の内容として、「色恋営業の禁止」が定められているという旨が多く報道されています。
「色恋営業」という文字列から、何となく何が禁止されたのか分かるような気がしなくもないですが、具体的にどのような営業まで違法になるのかについては、文言だけではなんとも判断ができません。
そこで、今回は、風営法の改正について、接待飲食業における遵守事項等を中心に解説させていただこうと思います。
風営法に関しては、ガールズバーやコンカフェ等に関する無許可営業の事案についての相談も相当数多くいただいておりますし、実際に数多くの事案について弁護させていただきました。
もっとも、今回のコラムでは無許可営業についての解説はさせていただいておりません。「風営法違反について 」で概要を説明しておりますので、そちらをご確認ください。

1.接待飲食営業にかかる遵守事項

弁護士
岡本 裕明
まずは、ホストクラブのような営業が、風営法でどのように規制されているのか確認してみましょう。風営法の中には、キャバレーという単語は登場しますが、キャバクラやホストクラブという単語は登場しません。しかし、いずれも、客に接待をして遊興または飲食をさせる営業として、接待飲食営業に該当するものと考えられています(風営法2条1項1号)。
無許可営業が問題となる事例との関係では、この接待飲食営業に該当するかどうかが大きな問題なのですが、今回はその点の解説は省略させていただきます。ホストクラブやキャバクラ等については、接待飲食営業に該当することは明らかですから、ホストクラブ等が遵守すべき事項として風営法に定められている内容を確認しようと思います。
風営法
(客の正常な判断を著しく阻害する行為の規制)
第18条の3
…風俗営業者は、その営業に関し、次に掲げる行為をしてはならない。
1号 第17条に規定する料金について、事実に相違する説明をし、又は客を誤認させるような説明をすること。
2号 客が、接客従業者に対して恋愛感情その他の好意の感情を抱き、か つ、当該接客従業者も当該客に対して同様の感情を抱いているものと誤信していることを知りながら、これに乗じ、次に掲げる行為により当該客を困惑させ、それによって遊興又は飲食をさせること。
イ 当該客が遊興又は飲食をしなければ当該接客従業者との関係が破綻することになる旨を告げること。
ロ 当該接客従業者がその意に反して受ける降格、配置転換その他の業 務上の不利益を回避するためには、当該客が遊興又は飲食をすることが必要不可欠である旨を告げること。
3号 客が注文その他の遊興又は飲食の提供を受ける旨の意思表示…をする前に遊興又は飲食の全部又は一部を提供することにより、当該客を困惑させ、それによって当該遊興をさせ、若しくはしたものとさせ、又は当該飲食をさせること。
1号は分かりやすいのではないでしょうか。「3000円ポッキリ」等と謡われた入店したものの、10倍以上の料金を請求されるようなケースでしょう。この点については、「ぼったくり防止条例って何? 」でも解説しておりますので、そちらをご確認ください。
また、3号についても、ドンペリコールのような、コールのようなものが典型例といえるでしょうか。注文してもいない段階で、コールをかけられることで、すでに注文が通ってしまったものと誤解させるような方法が禁止されています。
2.色恋営業の禁止

弁護士
岡本 裕明
そして、残された2号で定められているのが色恋営業の禁止と呼ばれている内容です。「客が、接客従業者に対して恋愛感情その他の好意の感情を抱き、か つ、当該接客従業者も当該客に対して同様の感情を抱いているものと誤信していることを知りながら」行われる営業行為が規制の対象となります。
したがって、一般的な「推し活」のように、推されている側が推している側に好意を抱くことが想定されていないケースでは適用されないことになります。あくまで両想いであるとの誤解を利用した営業方法が規制の対象になるのです(ですから、そのような勘違いをさせることがあり得る場合には、「推し活」にも適用されることはあり得ます)。
他方で、「接客従業者も当該客に対して同様の感情を抱いているものと誤信していること」と定められており、「誤信」が要件とされているため、従業者側も客に真なる恋愛感情を抱いていた場合に成立が否定されてしまいそうです。とはいえ、不当に高い金額を使わせる場合に問題となる訳ですから、本当に恋愛関係にあったのだという弁解は、なかなか通用しないのではないかと思います。
また、実際に両想いかのように装うだけでは、禁止されている色恋営業には該当しません。「関係が破綻することになる旨を告げる」または、「降格等を回避するためには飲食をすることが必要である旨を告げる」といった方法のみが規制されているのです。
したがって、「これを注文してくれればナンバー1になれる!」といったような営業方法は、ここでは禁止されていないことになります。
また、ぼったくり条例の適用がある場合等は別ですが、風営法自体は、これらの営業について刑事罰を科しておりません。あくまで行政処分等の対象になるだけなのです。
3.刑事罰が科される行為

弁護士
岡本 裕明
つまり色恋営業を行ったとしても、直ちにそのホスト個人に刑罰が科される訳ではなく、そのような営業を行っていた店舗が業務停止命令等の処分を受けることになるのです。
では、ホスト個人が刑罰を科されるような行為はないのでしょうか。
風営法
(接待飲食営業を営む者の禁止行為)
第22条の2
…次に掲げる行為をしてはならない。
1号 客に注文等をさせ…債務の弁済…をさせる目的で、当該客を威迫して困惑させること。
2号 客に対し、威迫し、又は誘惑して、料金の支払等のために当該客が次に掲げる行為により金銭その他の財産を得ることを要求すること。
イ 売春防止法その他の法令に違反する行為をすること。
ロ 対償を受け、又は受ける約束で、不特定の相手方と性交類似行為等 …をすること。
第53条
次の各号のいずれかに該当する場合には、当該違反行為をした者は、6月以下の拘禁刑若しくは100万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
2号 第22条の2の規定に違反したとき。
大幅に省略していますので、正確に知りたい方は法律の原文を確認してください。このように、色恋営業だけでは刑事罰の対象にならないものの、自身に貢ぐために売春等を行わせた場合には刑罰の対象になるのです。この点、売春して支払うように威迫する行為だけでなく、誘惑する行為も刑罰の対象とされています。この意味では、先ほどは違法行為ではなかったものの、「自分をナンバーワンにするために売春してでも、自分にお金を使って」という手法は禁止されることになるのです。
4.接待飲食営業に係る遵守事項と弁護活動

弁護士
岡本 裕明
不当に客を誘惑して、金銭を搾取する行為は許されるべきではありません。一方で、意図的に金銭を搾取するつもりで接していなかったとしても、特定のキャストに熱中するあまり、売春等を行ってでも、当該キャストに支払うための原資を準備しようとする客は一定数存在し得るように思います。
一種の依存症にあたる可能性が高いと思いますから、そのような方には治療が必要となるでしょうし、そのような方を相手に商売を行うべきでもありませんが、対象のキャストに刑事罰を与えるべきかというと、そうではないように思います。
あくまで、キャストが処罰されるべきは、キャストから積極的に、売春行為等によって金銭を稼いだうえで、その金銭を自分に使うようにもちかけた時に限られるはずです。
そうすると、弁護人としては、売春が行われており、その売春で得た金額が当該キャストに使われていたことまでが明らかだったとしても、そのような関与をキャスト側から行ったのかどうかについて、十分に精査し、顧客の自主的な行為であった可能性が残るのであれば、不当に犯罪が成立することがないように犯罪の成立を争う必要があるでしょう。
5.まとめ

弁護士
岡本 裕明
以上のとおり、風営法によって色恋営業が禁止されえることになりましたが、単に恋愛感情を利用しただけでは、風営法が禁止する色恋営業にあたりませんし、売春等によって原資を準備するように伝えることがなければ、刑事罰の対象となることはありません。
一方で、ホスト自身も店舗との関係で、不当なノルマを求められる等、行き過ぎた営業を行ってしまう背景等も存在するように思います。刑事事件化についてのお悩みがある場合には、御相談いただければと思います。


