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盗撮事件の裁判

1.盗撮事件で正式起訴されるケース

 前科前歴のない方が盗撮に及んでしまった事案では、重くとも略式手続による罰金で決着することが大半です。つまり、罰金を納めるだけで刑事手続に区切りを付けることができ、法廷に立つ必要はありません。

 もっとも、盗撮と呼ばれる行為の中身は一様ではありません。悪質な類型に当たると評価された場合には、前科前歴がなくても、一度の事件で起訴され、公判に付されることがあるのです。

 更に、各都道府県の定める迷惑行為防止条例違反としてではなく、性的姿態等撮影罪として扱われている場合、厳罰化の傾向が認められることから、前科前歴がなくても正式起訴されてしまうケースも珍しくなくなってきています。

 例えば、店舗の御手洗いや更衣室に小型カメラを仕込み、長期にわたって撮影を続けていたような事案では、計画性の高さに加えて建造物侵入の罪も併せて成立することが多く、押収された機器から膨大な数の画像や動画が出てきた場合には、罰金では収まらないと判断される可能性が高いといえるでしょう。被害を受けた方が児童であった場合には、児童ポルノの製造という別の罪にも触れることになります。どの法令が適用されるのかという点については、関連記事:「性的姿態撮影等処罰法について」を御覧ください。

関連記事:「性的姿態撮影等処罰法について」
性的姿態撮影等処罰法違反は成立しないものの、迷惑行為防止条例違反が成立しうるケースについて解説しています。

 また、盗撮の中では比較的軽い類型に当たる事案であっても、略式手続は、法廷を開かないまま前科を残す仕組みです。したがって、裁判を受けずに前科が付くことに被疑者の方が納得していない場合、つまり身に覚えのない疑いを晴らしたいと考えている場合には、前科前歴の有無にかかわらず正式に起訴されることがあるのです。

2.事実を認めている場合の裁判(急いで終わらせないために)

 事実を認めている事案であれば、実質的な審理は1回の期日で終えることができます。1時間ほどで関係者の話を聴き、証拠を調べ終える形になります。その日のうちに判決が言い渡され、すべてが1回で完結することもありますが、判決の宣告だけを1週間から2週間後の別の期日に指定される例が多いところです。この流れは、他の犯罪と変わりません。

 とはいえ、冒頭で申し上げたとおり、盗撮事件で起訴されているということは、同種の前科前歴が認められるか、態様が悪質だと評価されているかのいずれかである可能性が高いものといえます。盗撮は、他の犯罪類型と比べて特に重い法定刑が定められている訳ではありませんが、刑務所に収容される可能性を十分に見込んだ上で、公判に臨む必要があります。

 そのため、事実を認めている場合、被告人の方や御家族としては、一日でも早く終わらせたいという気持ちになられると思いますし、手続を早く畳むこと自体に意味があることも否定できません。しかし、急ぎ足で終わらせてよいことにはなりません。第一審での活動が足りなかったために不相応に重い刑が言い渡された場合、控訴審でその判決を覆すのは極めて困難だからです。

 盗撮の事案では、押収された機器の解析結果が量刑に直結します。検察官が提出してくる捜査報告書には、機器から復元された画像や動画の点数、撮影が行われたと見られる期間や回数が並ぶことになりますが、その一つ一つが本当に被告人の方の撮影によるものなのか、起訴された事実と一体のものとして評価してよいのかは、別途の検討を要します。審理を短く収めるために証拠の内容をそのまま受け入れることが得策に見えたとしても、刑事責任の重さに直結する部分で認識の食い違いが残っているのであれば、審理が多少長引くとしても、その点を争うことに躊躇するべきではありません。

 実際に証拠として提出された書証に記載されている内容に誤りが含まれていない場合であっても、当該裁判において証拠として扱われることが適切でないと考えられる証拠については、当該証拠を証拠として扱うべきでない旨を裁判所に適切に主張する必要があるのです。

3.事実を認めている場合の裁判(再犯を防ぐという観点から)

 盗撮事件については、他の罪名と比べても、同じ行為を繰り返すのではないかという懸念を裁判官や検察官が強く抱く傾向があるように感じています。撮影機器と機会さえあれば繰り返せてしまう類型であることに加え、既に何度も処罰を受けているのに止められていないという経過があれば、行為への依存を疑った上で、専門家の関与を検討する必要が出てきます。

 依存の背景としては様々なものが考えられますが、性嗜好障害という障害が問題となっていることもあります。

 もっとも、そうした背景が見当たらないのに、専門家によるサポートを前面に押し出した弁護を行ってしまうと、反省が足りないという印象を与えてしまうおそれがあります。つまり、再犯を防ぐための治療ではなく、単に裁判対策として専門家によるサポートを受けているだけだという心象を与えてしまいかねないのです。

そこで、なぜ撮影に及んでしまったのかを深く掘り下げた上で、繰り返さないために何を変えるべきなのかを、被告人の方御自身を中心に、御家族とも具体的に詰めていくことが必要になります。撮影に使える機器を御家族が預かる、機能の制限を設けるといった、目に見える形の手立てを整えておくことも有効でしょう。

 とはいえ、専門家によるサポートを得ること自体にマイナスはありません。あくまで専門家のサポートを受けている理由や、その目的について、適切に説明することができるようになっていることが大切なのです。したがって、裁判所においてどのように裁判官に対して説明をするのかという点は、弁護人としっかりと協議を行う必要がありますが、専門家に相談にいくこと自体は躊躇する必要はありません。

 また、盗撮事件で不起訴処分を得るために、被害を受けた方との示談を成立させることが重要であることは、関連記事:「盗撮事件における検察官の処分」で取り上げました。起訴されて公判に付されている段階であっても、示談が調っていることは、被告人の方の刑事責任を軽くする大きな事情になります。被害を受けた方が特定されていない事案では示談という手段を採れませんが、その場合には贖罪寄付等によって反省の姿勢を形にすることも考えられます。

関連記事:「盗撮事件における示談交渉」
盗撮事件で示談を成立させることの意味と進め方をまとめています。被害を受けた方との示談が前科の有無を分け得るため、弁護士を介して連絡先を教えていただき、金額を取り決めていく必要があります。示談金には慰謝料としての性質もありますが、許しをいただくための対価という色合いも濃く、法的に定まった相場はありません。

4.事実を争っている場合の裁判

 盗撮事件で公訴事実を争う場合、典型的なのは、①撮影していないと述べるケース(撮影行為自体を否定するもの)②撮影する意思がなかったと述べるケース(携帯電話を操作していたにすぎない、偶然写り込んだにすぎないなど、故意を否定するもの)、そして③写っているものが法律にいう性的な姿態には当たらないと述べるケースでしょう。

 疑いを晴らすために、弁護人が何を主張し、検察官の立証をどのように崩していくかは事案ごとに異なります。立てた方針に沿って、被告人の方が無罪であることを裁判官に理解してもらう必要があります。

 いずれにしても、検察官が起訴に踏み切っている以上、被害を申告した方や目撃した方は、被告人の方が撮影していたと述べていることが想定されますので、まずはそれぞれの供述を突き崩していくことになります。

 口止め料を得る目的でいわゆる盗撮ハンターが話を作り上げたという主張が成り立つ事案もあり得ます。しかし、盗撮行為の被疑者が、恐喝等の被害者にあたるような例外的なケースを除けば、被害者や目撃者の方は、自身が視認した状況をもとに、被告人が盗撮の犯人であると認識しているケースが多いでしょう。
 そうすると、申告した方や目撃した方が、どのような経過で被告人の方を撮影者だと考えるに至ったのかを明らかにした上で、その程度の事情から撮影者だと言い切れるのか、あるいはそれぞれの供述自体を信用してよいのかといった点を、反対尋問の中で問い質していくことになるでしょう。

 加えて盗撮の事案では、押収された機器に盗撮と疑われるような画像や動画が保存されていた場合、何らかの理由で当該機器によって当該画像等が撮影されていたことを否定できないケースが考えられます。その場合には、意図的に盗撮行為に及んでいないにもかかわらず、なぜそのようなデータが作成されることになったのかの機序について明らかにする必要があるでしょう。

 そして、供述に信用性がないことを具体的に示すためには、弁護人自身も現場に足を運び、申告した方や目撃した方と同じ位置に立って、見え方を確かめておく必要があるでしょう。

 事実を認めている場合とは異なり、盗撮という日常的に起きている犯罪が問題となっている事案であっても、争う姿勢を採る限り、審理が1回で終わることはあり得ません。もっとも、多数の共犯者が関わる特殊詐欺の事案のように関係者が多い訳ではありませんので、審理が1年を超えて続くことはほとんどありません。

 手続の負担を思うと、被告人という立場に長く置かれるくらいなら、疑いを晴らすことを諦めて早く認めてしまいたいと考えられる方も相当数いらっしゃいます。諦めてしまう前に、一度御相談いただければと思います。

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