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コラム

準強制わいせつ、準強制性交の罪について。「準」って何?

簡単に言うと…
  • 1. 祈祷中にわいせつ行為に及んだとして、神職の方が逮捕されるという事件が発生した。
  • 2. 準強制わいせつや準強制性交等の罪は、「心神喪失」や「抗拒不能」の状態にある被害者に対してわいせつ行為に及んだ場合に成立する。
  • 3. 「心神喪失」や「抗拒不能」という要件は不明確であることなどから、現在、法改正も検討されている。
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※こちらの記事は令和5年の刑法改正前の罪名について解説したものになります。

 こちらで解説させていただきましたとおり、性犯罪については抜本的な法改正がなされました。そして、現在も、あるべき性犯罪規制について、法務省内で検討会が行われております。私も、有志の弁護士と協力して作成した提言を、その検討会宛にお送りするなどしております。

 まだ、更なる法改正がなされるのかどうかの方向性すら見えてきませんが、検討会がどのような判断をするのかについて見守りたいと考えております。

 今回は、その検討会の中でも議論がなされている、準強制わいせつ及び準強制性交等の罪について解説させていただきます。

先日、祈祷中にわいせつ行為を行ったとして、神職の方が逮捕されるというニュースが報道されていました。被疑者は、祈祷行為の一環であり、わいせつ行為には及んでいないと主張しているとのことです。

 捜査機関は、「準強制わいせつ」の罪で被疑者を逮捕しているようですが、どのような場合に「準強制わいせつ」又は「準強制性交等」の罪が成立するのでしょうか。今回は、この点について解説させていただきます。

1.条文の定め

(1)強制わいせつ等の罪の例による

 まず、「準強制わいせつ」及び「準強制性交等」の罪が、法律でどのように定められているのかについて確認します。

(準強制わいせつ及び準強制性交等)

第178条
1項 人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、わいせつな行為をした者は、第176条の例による。
2項 人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、性交等をした者は、前条の例による。

 刑法第178条1項は、「第176条の例による」と定めており、同条2項は「前条の例による」と定めています。そして、刑法第176条は強制わいせつ、第177条は強制性交等の罪を定めていますから、準強制わいせつ及び準強制性交等の罪については、それぞれ強制わいせつ又は強制性交等の罪と同様に扱われることになります。

(2)強制わいせつ等の罪との違い

 では、強制わいせつ等の罪と別個の条文を設けているのは何故でしょうか。それは、両者共に、わいせつ行為等を被害者に無理強いする犯罪行為であることは共通しているものの、その無理強いの仕方に違いがあるからです。

 強制わいせつ等の罪は、被害者の意に反するわいせつ行為というだけでなく、「暴行又は脅迫を用いて」わいせつ行為に及んだ場合に成立します。強制わいせつ等の罪は、被害者が性的な行為を望んでいないにもかかわらず、加害者が「暴行又は脅迫」によって、被害者の抵抗を抑圧した上で行うわいせつ行為を処罰しようとしているのです。

 しかし、意に反するわいせつ行為に対して抵抗ができないという状況は、加害者から「暴行又は脅迫」を受けた場合に限られません。

 準強制わいせつの罪は、そのようなケースの中で、「人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて」行われたわいせつ行為を処罰しようとするものです。

 つまり、このような場合に行われたわいせつ行為については、「暴行又は脅迫を用いて」行われたわいせつ行為と同程度に重い刑罰を科そうとしているのです。

2.心神喪失若しくは抗拒不能とは

(1)飲酒や薬物の投与によるケースが典型例

 上述した準強制わいせつの罪についての定めの内、「心神喪失」とは、精神的な障害によって正常な判断力を失った状態を指すものと解されており、「抗拒不能」とは、心理的または物理的に抵抗ができない状態を指すものと解されています。

 一番イメージのしやすい典型例は、被害者の方にお酒を飲ませて泥酔している状態でわいせつ行為に及んだり、睡眠薬を飲食物に混入させ、昏睡状態にある被害者の方にわいせつ行為をするようなケースです。

(2)医療行為等と誤信させるようなケースにおいても成立する

 一方で、今回報道されているケースは、被害者とされる方に酒や薬物を与えたような事案ではなさそうです。

 酒や薬物を与えることなく、被害者を「心神喪失」又は「抗拒不能」の状態に陥らせる典型例として、医療行為を装ったわいせつ行為があります。

 医療行為のために必要だと被害者を誤信させた場合、被害者は加害者に抵抗しようとは考えないでしょうから、心理的に抵抗ができない状態にあるとして、準強制わいせつ等の罪が成立することになるのです。

 医療行為とは言えないような場合であっても、被害者が加害者の説明を信じ、わいせつ行為に対して抵抗ができない状況に陥ってしまった場合、準強制わいせつの罪は成立します。

 例えば、横浜地判平成16年9月14日(判例タイムズ1189号347頁)の事案では、「頭の良くなる治療」と称して、自身の学習塾に通っていた塾生に対してわいせつ行為を行った被告人に対して、準強制わいせつ等の罪の成立が認められています。

3.被害者を騙して行われたわいせつ行為全てに成立する訳ではない

 被害者の方を騙して行われたわいせつ行為の全てに対して、準強制わいせつ等の罪が成立する訳ではありません。

 先ほど御紹介させていただいたケースは、いずれも加害者の行為が単なるわいせつ行為であるということを理解させないまま、わいせつ行為に及んだケースです。したがって、性的な行為を受け入れる過程で、加害者から何らかの嘘をつかれていたとしても、わいせつな行為であることを理解した上でそのような行為を受け入れた場合には、基本的には準強制わいせつの罪は成立しません。

 例えば、結婚する旨の虚偽の約束をした上で性行為に及んだケースや、金銭を支払う約束をした上で性交に及び、実際にはその金銭を支払わなかった場合等については、準強制性交等の罪は成立しないのです。

 一方で、例外的に、性行為自体については受け入れているにもかかわらず、準強制性交等の罪の成立を認めたケースも存在します。仙台高判昭和32年4月18日(昭和31年(う)739号)の事案は、就寝中の女性が、加害者のことを夫と誤信して性行為を受け入れた場合について、「抗拒不能に乗じて姦淫する場合にあたる」と判示しています。

4.準強制わいせつ罪等の事案における弁護活動

 以上のとおり、「準」がつくことは、「準」がつかない同種犯罪と比較して、軽い罪が成立することを意味するものでは決してありません。薬物を投与するケースのように、暴行や脅迫によってわいせつ行為に及ぶケースよりも、悪質性の高い事案は珍しくないのです。  
 薬物を摂取させた事に加えて、その後にわいせつ行為に及んだことが証拠上明らかな場合、準強制わいせつの罪などの成立を否定することは非常に困難となります。  
 この点、「準」のつかない犯罪と比較して、「準」がつく犯罪類型の特徴としては、被害者の方が「心神喪失」や「抗拒不能」の状態にあるという点です。薬物やアルコールを摂取した場合に、必ずこのような状況になる訳ではありませんから、まずはこのような状態になかったことについての弁護活動が重要になります。しかし、これらの概念は抽象的なものですから、罪を争う場合には刑事事件の弁護士が緻密な弁護方針を立てた上で、不起訴処分等の処分を目標に活動する必要があります。
 また、「心神喪失」等の状態下における犯罪が問題となる訳ですから、犯行時の被害者の供述がないことが想定されます。あくまでも、その前後の被害者の状況から、わいせつ行為時において「心神喪失」等の状況にあったと推認されるかが問題となるのです。したがって、その前後の被害者や被疑者・被告人の言動についても、逮捕・勾留を避けるために加えて、最終的に不起訴処分等を獲得するためにも重要となるのです。

5.まとめ

 以上のとおり、準強制わいせつの罪は、被害者が、「心神喪失」又は「抗拒不能」の状態にあった場合に行われるわいせつ行為に対して成立するものです。

 しかし、「心神喪失」や「抗拒不能」にあたるかどうかについては、被害者を騙してわいせつ行為が行われたケース全てが該当する訳ではありませんし、どのような場合に「心神喪失」や「抗拒不能」にあたることになるのかという点が極めて不明確です。

 また、「心神喪失」や「抗拒不能」とまで認められない場合であっても、被害者を騙してわいせつな行為に及んだ場合についても、刑罰を科するべきだという意見も根強く、検討会がどのような結論を下すのかについて、今後も注意深く見守る必要がありそうです。

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