性交同意年齢について。何が問題なのか。
- 1. 性交同意年齢を引き上げることについて、性交について同意している14歳と性交をすることを刑罰の対象とすることが不当である旨の発言が議員からなされて問題となった。
- 2. 発言自体は不適切であるものの、性交同意年齢の引き上げに反対すること自体は不適切なものではない。
- 3. 年齢のみを理由に一律に刑罰を科すことの問題点や、性交以外のわいせつ行為に対して同意可能な年齢も引き上げるべきなのかなど、十分に議論した上で解決されるべき問題点は多い。
我が国の性犯罪規定の在り方については、これまで何度かコラムを書いてきました。そして、法務省内に設置された性犯罪に関する刑事法検討会(以下、「検討会」といいます。)は、令和3年5月に、1年間にわたって議論した内容についてとりまとめる報告書を発表しています。私も、性犯罪規制の在り方について提言(以下、「提言」と言います。)を有志の法律家の方々と共にとりまとめ、検討会に提出しました。
とりまとめ報告書や私達が作成した提言の中には、様々な論点が含まれています。その中には、性交同意年齢に関する議論も含まれていますが、先日、性交同意年齢に関する議員の不適切な発言がニュースとなり、社会的耳目を集めました。
報道によると、不適切発言の内容は、「50歳の成人が14歳の児童と性交した場合に、同意があっても刑罰が科されるのは不当である」というものだったようです。
発言者である議員は直ちに発言を撤回したようですが、同意のある性行為に対して刑罰を科すことに違和感を感じる方も一定数いらっしゃるように感じています。
そこで、改めて性交同意年齢について解説させていただきたいと思います。
目次
1.性交同意年齢とは何か
(1)現行法上の扱い
まずは、現在の刑法が性交同意年齢をどのように定めているのかについて確認しましょう。
刑法
(強制わいせつ)
第176条
13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、6月以上10年以下の懲役に処する。13歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。
(強制性交等)
第177条
13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いて性交、肛門性交又は口腔性交(以下「性交等」という。)をした者は、強制性交等の罪とし、5年以上の有期懲役に処する。13歳未満の者に対し、性交等をした者も、同様とする。
刑法は、「性交同意年齢を13歳とする」というような定め方はしておらず、「13歳未満の者に対し、性交等をした者」を暴行や脅迫を用いて性交に及んだ者と同様の刑を科する旨を定めています。
つまり、13歳未満の者と性交に及んだ場合には、その者が性交することについて承諾していても、強制性交等の罪が成立することになります。
13歳未満の者による性交への承諾には法的に何の意味もないものとして扱っているものとも言い換えられますし、刑法は、13歳未満の者とは性交してはいけないということを定めているのです。
(2)性交同意年齢が定められている理由
そうすると、例えば性交に及ぶ前に数年間にわたって交際を続けており、性交をすることに対して何らの無理強いがなかったとしても、13歳以上の者に対して性交を無理強いするケースと同様に刑罰を科されることになります。
このような規定は、13歳未満の者は、性的な事項についての理解力が未発達であったり、脆弱性が認められることから、性交を承諾していたとしても、そのことを適切に理解した上で承諾しているとは評価できないため、13歳未満の者を保護するために設けられているのです。
2.不適切発言の問題点
ですから、承諾さえ得られれば刑罰を科すべきではないという考え方は、端的に誤りだと思います。その承諾に意味がないからです。
しかしながら、性的な事項についての理解力は年齢で一律に決まる訳ではなく、人によって個人差があります。13歳であっても、性交に及ぶことについて十分に理解した上で承諾することが可能な方もいらっしゃるかもしれません。
性交同意年齢の定めは、そのような場合であっても一律に刑罰を科すという意味で問題を孕んでいるのですが、多くの人は、13歳未満の者には、性交を受け入れる能力がないと考えることに違和感は持たないのではないでしょうか。
では、その年齢を引き上げることに問題はないのでしょうか。性交同意年齢を引き上げた場合、相手の方が如何に性的な事項についての理解力を有していても、年齢という理由で一律に刑罰が科されてしまうことになるのです。
ですから、14歳に性交を承諾する能力が一律にないと定めるのではなく、個別の事情を検討して、性的な事項についての理解力が十分に発達しておらず、保護すべき対象となる者との間の性交等のみを禁止すればいいのではないかという考えはあり得ますし、実際に、検討会においてもそのような意見は述べられています。
他に、刑法第41条が「14歳に満たない者の行為は、罰しない。」と定めていることとの関係で、14歳に対して刑事責任を問うことが可能であるにもかかわらず、14歳には性的な事柄を決める能力がないと定めてしまうことの不均衡さも問題とされています。
したがって、今回報道された不適切発言は、その内容からすると確かに撤回すべき内容だと感じますが、性交同意年齢の引き上げに反対するということ自体は、全く理不尽なものではないのです。
3.性交同意年齢引き上げ以外の方法
検討会がとりまとめた報告書案においては、性交同意年齢を引き上げるかどうかについての結論は記載されておりませんでした。
私達は、提言の中で、どのように性犯罪を定めるべきかについての具体案を作成しました。その中では、性交同意年齢について引き上げておりません。
一方で、18歳以上の者が13歳以上16歳未満の者と性交をする場合や、監護者が22歳未満の被監護者との間で性交をする場合等については、性交についての承諾があった場合にも、刑罰を科すことができるような条文の新設を提案しています。
それは、年齢のみによって一律に刑罰を科すのではなく、具体的に刑罰を科してまで保護しなければいけない対象を限定しようと考えたためです。詳細な理由について興味を抱いていただけましたら、是非こちらを御確認ください。
また、性交同意年齢の引き上げには、他にも検討すべき問題があります。冒頭で条文を紹介させていただきましたが、現行法においては、強制性交等の罪との関係だけでなく、強制わいせつ罪との関係においても、「13歳未満」という年齢が定められております。
仮に、性交同意年齢を引き上げた場合、強制わいせつ罪との関係においても年齢を引き上げることになるのでしょうか。
確かに、性交等に近いわいせつ行為については、両者の年齢を区別するべきではないように思います。しかしながら、強制わいせつ罪における「わいせつな行為」の中には、キス等の行為も含まれております。
性交についての理解が十分に発達していない場合、他人にキスすることについても十分に理解できていないと考えるべきでしょうか。私は、両者には大きな差があるのではないかと思います。
5.性交同意年齢が問題となる事案における弁護活動
性交同意年齢を何歳に定めるべきかというのは一律に決められる訳ではありませんし、今後も議論が重ねられるべきで、その結果として法改正がなされる可能性も十分に考えられます。
しかし、現行法が13歳未満と定めている以上、13歳未満の方に対する性的な言動については、強制性交等の罪等が成立することになる訳です。ここでは、13歳未満の方から真摯な同意があったとしても、真っ当な恋愛関係の下で行われたものであっても関係ありませんし、強制性交等の罪ではなく強制わいせつ罪が成立するにとどまるケースであっても、強制わいせつの罪自体、前科前歴のない初犯でも刑務所への服役を命じられ得る犯罪です。
特に、性交同意年齢に達しない方との性的行為によって捜査機関の捜査を受けているケースについては、加害者とされる側も未成年であるケースが多く認められます。それは、今回の報道において発言者が強く批判されたように、40歳や50歳が若年者と性的な関係をもつべきではないという考えが常識として広まっている一方で、15歳や16歳であれば13歳未満の方との年齢差が小さいことから、大きな問題だと考えずに、性的な行為に及んでしまうことが多いからと考えられます。
このような場合、少年法が適用されることになりますから、単に刑事事件に詳しいというだけでなく、少年事件についての経験を十分に有する弁護士によるサポートが必要不可欠になります。
一方で、少年法が適用されるといっても、捜査の初動の段階においては、成人が被疑者となる場合と同様に、逮捕、勾留を回避することが非常に重要となります。逮捕、勾留がされてしまうと、通学もできなくなりますし、これまでの人生を大きく狂わせることになりかねません。一刻も早く刑事事件の弁護士に御相談いただければと思います。
6.まとめ
以上のとおり、今回報道された不適切発言については、実際に不適切なものだったと感じますが、性交同意年齢の引き上げに反対すること自体は不適切なものではなく、性犯罪をどのように規制すべきかについて、十分に議論がなされる必要があります。
性交同意年齢は、性犯罪の規制の在り方の一つの論点でしかありませんが、この点だけでも多様な意見を持つ方がいらっしゃるように思います。
議論を重ねる中で適切な内容に改正されることを願うと共に、広くこのような議論がなされるように、私自身も情報を発信していきたいと考えております。