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コラム

外国国旗はダメで日本国旗はいいの?国旗損壊の話

簡単に言うと…
  • 1.日本国旗を損壊等した者に対して刑罰を科す法案を提出する動きが国会議員内で再燃したとの報道がされた。
  • 2.日本には、日本国旗を損壊等することをもって処罰する直接の規定はない。
  • 3. 現行法の下でも日本国旗を損壊等することが無制限に認められているわけではなく、場合によっては、器物損壊等罪などの別の罪に問われることがある。
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 先日、日本国旗を損壊等した者に対して刑罰を科す法案を提出する動きが国会議員内で再燃したとの報道がなされました。実は、平成24年(2012年)にも同様の法案が国会に提出され、その時は廃案となっています。日本には、以下のとおり、日本国旗を損壊等することをもって処罰する直接の規定はありません。それでは、日本国旗を損壊等した場合について、現行法の下では刑罰を科されることが想定されないのか、検討してみます。

なお、このコラムは、法案提出の当否について述べるものではなく、実際に日本で日本国旗が損壊等されたというケースを想定した場合に、現行法の下ではどのような罪に問われ得るのかに焦点を当てたものであることをご承知おきください。

1.外国国章損壊等罪

 まず、比較のために、刑法の外国国章損壊等罪について、見てみます。

刑法

第92条(外国国章損壊等)
1項 外国に対して侮辱を加える目的で、その国の国旗その他の国章を損壊し、除去し、又は汚損した者は、2年以下の懲役又は20万円以下の罰金に処する。
2項 前項の罪は、外国政府の請求がなければ公訴を提起することができない。

 刑法には、外国国章損壊等罪という罪が規定されています。1つ例を挙げると、外国で日本政府の対外的政策に抗議する目的で日本国旗を燃やしたり、踏みつけたり、罰印を書いたりしている報道がなされることがありますが、日本でも同様のことを行い、かつ、国旗を損壊等された外国政府から日本の捜査機関に対して処罰を求めるように請求を受けると、外国国章損壊等罪に問われます。同罪に刑罰が科される理由は、諸説ありますが、外国国旗の損壊等を介して外国を侮辱することを防止し、ひいては、国家の対外的安全、国家関係的安全を保護するためといわれています。過去には、日本でも同罪が適用された裁判例があります。

 もっとも、刑法には日本国旗を損壊等したこと自体を罪に問う規定は存在していません。現行刑法は明治40年に制定されましたが、制定された当初からこのような規定はないようです。

2.日本国旗を損壊等すると問われるおそれのある罪

 それでは、日本国旗を損壊等しても、罪に問われることはないのでしょうか。答えは、「罪に問われることもある。」という回答になります。

(1)器物損壊等罪

刑法

第261条(器物損壊等)
前3条に規定するもののほか、他人の物を損壊し、又は傷害した者は、3年以下の懲役又は30万円以下の罰金若しくは科料に処する。
第264条(親告罪)
……第261条……の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。

 前3条に規定するものとは、「公務所の用に供する文書又は電磁的記録」、「権利又は義務に関する他人の文書又は電磁的記録」、「他人の建造物又は艦船」を指しますが、詳細は省きます。日本国旗はこれらのどれにも該当しません。そのため、他人の所有する日本国旗を損壊等し、かつ、所有者から告訴があると、器物損壊等罪に問われます。実際に同罪を適用した裁判例もあります。

 因みに、器物損壊等罪の法定刑(3年以下の懲役又は30万円以下の罰金若しくは科料)は、外国国章損壊等罪の法定刑(2年以下の懲役又は20万円以下の罰金)よりも刑の上限が重くなっています。単純に物といっても、その内容は多岐にわたります。絵を例に挙げても、趣味で書いた友人の絵から世界的に有名な画家の絵まで、その客観的な価値の幅は様々です。このことに配慮するために法定刑が幅広く規定されているのです。実際の裁判においては、損壊等した対象が何かという点も宣告される刑を決める中で考慮されはしますが、少なくとも法定刑だけでいえば、他人所有の日本国旗を損壊等した場合には、外国国章損壊等罪よりも重く処罰されてしまうことも否定することができません。

 器物損壊等罪については、弊所の過去のコラム「物は壊れていないのに器物損壊?」で詳しく解説させていただきましたので、ご参照ください。

(2)その他の罪

刑法

第110条(建造物等以外放火)
1項 放火して、前2条に規定する物(現住建造物等及び非現住建造物等)以外の物を焼損し、よって公共の危険を生じさせた者は、1年以上10年以下の懲役に処する。
2項 前項の物が自己の所有に係るときは、1年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する。
 
第116条(失火)
1項 失火により、第108条に規定する物(現住建造物等)又は他人の所有に係る第109条(非現住建造物等)に規定する物を焼損した者は、50万円以下の罰金に処する。
2項 失火により、第109条(非現住建造物等)に規定する物であって自己の所有に係るもの又は第110条(建造物等以外)に規定する物を焼損し、よって公共の危険を生じさせた者も、前項と同様とする。

廃棄物の処理及び清掃に関する法律

第16条の2(不法焼却の罪)
何人も、次に掲げる方法による場合を除き、廃棄物を焼却してはならない。
1号 一般廃棄物処理基準、特別管理一般廃棄物処理基準、産業廃棄物処理基準又は特別管理産業廃棄物処理基準に従つて行う廃棄物の焼却
2号 他の法令又はこれに基づく処分により行う廃棄物の焼却
3号 公益上若しくは社会の慣習上やむを得ない廃棄物の焼却又は周辺地域の生活環境に与える影響が軽微である廃棄物の焼却として政令で定めるもの
第25条(処罰規定)
1項 次の各号のいずれかに該当する者は、5年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
15号 第16条の2の規定に違反して、廃棄物を焼却した者
2項 前項……第15号の罪の未遂は、罰する。

 損壊等の方法が日本国旗を燃やしたという場合には、ケースによっては前記の罪に問われることがあります。ここでは、詳細な説明は省きますが、それぞれ考えられるケースは以下のとおりです。

・建造物等以外放火罪

日本国旗とともに車を燃やし、車のガソリンに引火して大炎上し、有毒ガスも発生してしまった。

・失火罪

日本国旗を燃やしたが、火をうっかり消し忘れて、他人所有のバイクのガソリンに引火して大炎上し、有毒ガスも発生してしまった。

・不法焼却の罪

 日本国旗とともに来週回収予定であった家庭ゴミを燃やした。

3.国旗損壊に関する事案における弁護活動

 外国国章損壊等の罪については、実際の事案がほとんどありません。また、日本国旗については、他の物を損壊した場合と同様の犯罪が成立することになります。  
 したがって、罪名的には特殊な事案ではないように思われます。  
 しかし、損壊した対象が通常の物ではなく、国旗であることで事案の性質に特殊性が生じます。お子様ランチの旗を破っても犯罪は成立しませんし、国旗を損壊することで警察が動くような状況というのは、政治的な活動として行う場合等、単に物を損壊するというだけでないケースが想定されます。  
 このような事件においては、罪名的には比較的軽微なものしか成立しない場合であっても、逮捕・勾留の可能性が高まり、起訴される可能性すらあるものといえます。  
 さらに、通常であれば器物損壊の罪によって逮捕・勾留された場合であっても、そのことが報道されるということはほとんどありませんが、もし外国国章損壊等の罪で立件されるようなことがあれば大きく報道されてしまう可能性が高いでしょう。
 つまり、国旗損壊に関する罪に関しては、成立する罪自体の重さよりも、その経緯に着目して弁護活動を行う必要性が高いものといえるのです。  
 犯罪行為自体は、法律で定められた構成要件を充足するかどうかが問題ですが、その経緯については事案毎に千差万別で、どのような事実をもとにどのような主張をすべきかについては、刑事事件の経験が豊富な弁護士のアドバイスが重要になります。

4.まとめ

 自己所有の日本国旗を損壊等しても、そのこと自体が罪に問われることはありません。しかし、日本国旗が他人所有であったり、自己所有の日本国旗を損壊等した際に他人にその影響が及んだ場合、とりわけ、自己所有の日本国旗を燃やし、その火の手や発生したガスが他人に及んだりした場合、本来は清掃業者に頼んで処分して貰う必要のあるゴミと一緒に自己所有の日本国旗を燃やしたりした場合には、罪に問われるおそれがあります。

今回は、ニュース報道に端を発したコラムでした。繰り返しになりますが、筆者は、日本国旗を損壊等してもよいかどうかに主眼を置いたわけではありません。筆者は、日本国旗であろうが外国国旗であろうが、損壊等によって他人に迷惑を掛けてしまい、罪に問われてしまうことは避けて欲しいと思っています。

弊所では、事案を手掛けるだけでなく、報道も題材とした上で、日々研鑽を積んでおります。

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