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コラム

動物をひき殺してしまった…何の罪が成立するのか。

簡単に言うと…
  • 鳩を轢過した事実で被疑者が逮捕されたという報道がなされた。
  • 犬や猫の場合には動物愛護法違反が成立し、同法で保護されていない野生動物も、鳥獣保護法で保護されているケースがある。
  • 予定されている刑罰の重さと比較すると、逮捕され易い事案ともいえる。
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 皆様は自動車を運転していた際に、動物を轢過してしまった経験はありますでしょうか。都心にお住いの方はあまり経験がないかもしれませんが、私はアメリカ合衆国に居住していた際、スカンクを轢過してしまった経験が何回かあります。帰宅してガレージに自動車を駐車した後、車を出てから匂いで轢いてしまったことに気付き、急いで駐車場所をガレージから屋外に移していた思い出があります。
 近年は野良猫が町中を闊歩するという姿も見なくなりましたから、息絶えている猫の死骸を目にして不憫な気持ちになることもなくなりましたが、私が子供だった時には、そのような姿を確認することが珍しくなかったように思います。
 つい先日、タクシーの運転手が鳩を轢過して殺したとして、鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適性化に関する法律(鳥獣保護法)違反の容疑で逮捕されたという報道を目にしました。
意図的に生き物を殺害する行為とはいえ、逮捕した上で捜査を行う必要性はないのではないかと感じましたし、あまり聞かない類の事件なのではないでしょうか。
 今回は、人間以外の動物を自動車で轢過してしまった時に、どのような犯罪が成立し得るのかについて解説させていただきます。

1.刑法の定め

 
 今回報道されていた事案では、鳥獣保護法違反の罪が問題となっていましたが、刑法上の罪が成立することはないのでしょうか。
 確認してみたいと思います。

刑法

(傷害)

第204条
 人の身体を傷害した者は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
(過失傷害)
第209条
 過失により人を傷害した者は、30万円以下の罰金又は科料に処する。
(器物損壊等)
第261条
 …他人の物を損壊し、又は傷害した者は、3年以下の懲役又は30万円以下の罰金若しくは科料に処する。

 傷害罪や過失傷害罪だけでなく、暴行罪などとの関係でも、「人の身体」というように、客体が人であることが明示されていますので、動物を傷つける行為について、傷害罪等が成立することはありません。
 動物については、刑法上はあくまでも「物」としての扱いになりますので、器物損壊の罪が問題になるに過ぎないのです。
 そして、器物損害の罪との関係でも「他人の物」と定められていますから、飼い猫や飼い犬を傷つけた場合には器物損壊の罪が成立する可能性はありますが、野生の動物を傷つけても、器物損壊の罪は成立しません。
 また、過失傷害の罪と異なり、過失器物損壊の罪は刑法で定められておりませんので、意図的に動物を傷つけた訳ではない場合には、器物損壊の罪も成立することはありません。
 したがって、自動車を運転する際に、動物を轢過してしまう行為のほとんどは、意図的なものではないと思いますので、刑法上の犯罪は成立することはないといえるでしょう。

2.他の法律の定め

 
 では、刑法犯以外の犯罪は成立するのでしょうか。
 過去に、他人のペットに対する暴力行為について、動物愛護法違反が問題となることを解説させていただきましたので、動物愛護法違反の記事 についても是非ご参照ください。
 動物愛護法との関係では、過失で動物を傷つける行為については罰則が定められておりませんが、意図的に動物を傷つける行為については、5年以下の懲役刑という器物損壊の罪よりも重い刑罰が定められています。
 しかし、そのような刑罰が科される対象となるのは、牛、馬、豚、犬、猫等に限られ、その他の動物については、「人が占有している哺乳類、鳥類又は爬虫類」でなければ、意図的に傷つける行為であっても動物愛護法に違反することはありません。
 今回、報道されていたのは野生の鳩になりますので、動物愛護法は適用されないことになるのです。
 では、今回報道されている鳥獣保護法はどのように定めているのでしょうか。

鳥獣保護法

(鳥獣の捕獲等及び鳥類の卵の採取等の禁止)

第8条
 鳥獣及び鳥類の卵は、捕獲等又は採取等(採取又は損傷をいう。以下同じ。)をしてはならない…。
(罰則)
第83条
 次の各号のいずれかに該当する者は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。
1号 第8条の規定に違反して狩猟鳥獣以外の鳥獣の捕獲等又は鳥類の卵の採取等をした者

 鳥獣保護法は、その法律名のとおり、狩猟の適性化を一つの目的とする法律ですので、自動車を運転して鳩を轢過するような行為に適用されるのに違和感を覚える方もいらっしゃるかもしれません。
 しかし、同法第8条は、単に捕獲する行為だけでなく、「損傷」させる行為も禁止しています。
 そして、同法における「鳥獣」とは、鳥類又は哺乳類に属する野生動物をいうものと定められていますので、広く野生動物を傷つけた場合に適用され得る法律ということができるのです。

3.裁判例等

 
 そうすると、鳥獣保護法に違反するようなケースは多く発生していそうにも感じられるのですが、同法違反の裁判例はほとんど見つかりませんでした。
 唯一発見できたのは、猿を駆除するために散弾銃を発射したところ、近隣住民に命中してしまったという事案(東京高等裁判所令和元年7月24日判決)で、当然ですが、主として人を殺害してしまったことについての責任が問題となっています。
 他方で、裁判例ではなく報道レベルで探してみると、殺虫剤を混ぜた餌をカラスに与えてカラスを殺害したという事案や、食べるためにヌートリアを捕獲したという事案がありました。
 報道から探しているからかもしれませんが、いずれも被疑者が逮捕されているという特徴があげられます。
 少し性質は違いますが、メジロを無許可で飼育していたことを理由に、鳥獣保護法違反とされていた事案における被疑者も、逮捕されていました。
 他人に迷惑をかける行為ではないからと安易に考えて動物を傷つけると、逮捕されてしまう危険性があるといえるでしょう。特に無許可で飼育するケースについては、動物を傷つけてもいない訳ですから、被疑者としては思った以上に大事になってしまったと感じるのではないでしょうか。

4.弁護活動

 
 以上の事例を参考にすると、鳥獣保護法違反の容疑をかけられた場合、捜査の初動で逮捕されてしまう危険性が一定程度認められることになります。
 したがって、まずは早期に釈放してもらうことを目指して弁護活動を行うことになるでしょう。
 人が被害者となるケースと異なり、被害を被っているのは動物になりますので、被害者の供述を証拠とすることができません。逆に言うと、被害者に接触することで証拠恩滅を図ることもできません。
 ですから、罪証隠滅を疑う相当な理由がないことを、事案毎に適切に主張することになろうかと思います。
 そして、検察官の終局処分との関係においては、意図的に傷つけた訳ではない場合には鳥獣保護法違反は成立しませんから、不起訴処分を得るために傷つけてしまった態様などについて適切に主張する必要があるでしょう。
 特に、轢過するという行為態様の場合、動物がどのように動くのかについて正確に認識できないケースもあると思います。
 報道されているケースでは、鳩の集団に向けて自動車を発進しているようですので、意図的に轢過を試みたと認定される可能性が高いように感じていますが、動物の動きを正確に予測することが困難であることからすれば、意図せず傷つけてしまったケースとの関係でも逮捕されてしまうケースは十分に想定できます。

5.まとめ

 
 今回は、動物を傷つける行為について解説させていただきました。
 人間でなければ傷つけても構わないという考えは誤りです。だからといって、逮捕という手続は、罪を犯してしまった方に対する罰ではありませんから、改めて同種の事案を調べた結果として、逮捕されている事件が多いことに驚かされました。
 また、被害者が人ではないことによって生じる特徴もある事案類型だと考えられます。もし、同種の事案でお悩みの方がいらっしゃいましたら、御気軽に御相談いただければと思います。

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