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コラム

物は壊れていないのに器物損壊?

簡単に言うと…
  • 1. 小学校の教師が児童の上履きを隠したことで、器物損壊の罪で逮捕されたという報道がなされている。
  • 2.器物損壊は、物を物理的に壊すだけではなく、その物を使えない状況にさせるだけでも成立し得る。
  • 3. 一般的に逮捕されないことが多いが、余罪が多いような場合には逮捕されることも珍しくない。
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 今回は器物損壊についてのニュースです。器物損壊と聞いて、皆様がイメージするのは、他人の物を壊すような行為だと思います。確かに、器物損壊の罪に関する御依頼で多いのは、飲み会の場で酔っぱらってしまい、お店の備品を破壊してしまったというようなケースや、いたずら目的で停車中の車に硬貨等で傷をつけてしまったというような事案が大半です。

 しかしながら、その文言とは異なり、物が壊れていなくても、器物損壊の罪は成立するのです。

 先日、公立小学校の教師が、学校に通っている児童の上履きを隠したことで逮捕されたというニュースが報道されていました。教師としてあるまじき行為であり、厳重な懲戒処分に相当する行為であるとは思いますが、逮捕すべき事案かというと、疑問に思います。

 一方で、そのような行為でも器物損壊の罪は成立しますし、捜査機関によって逮捕されることもあり得ることが改めて確認できた事案でした。

 器物損壊の罪は、物を壊す行為等を処罰するもので、犯罪とは無縁の生活を送っている方々との関係でも、身近に感じ得る犯罪だと言えます。ですから、今回は物をわざと壊すような行為の他に、どのような行為が器物損壊にあたるのかという点を中心に解説させていただこうと思います。

1.条文の規定

 まずは器物損壊という罪の内容を確認してみようと思います。器物損壊の罪は刑法で定められています。

刑法

(公用文書等毀棄)
第258条
公務所の用に供する文書又は電磁的記録を毀棄した者は、三月以上七年以下の懲役に処する。
(私用文書等毀棄)
第259条
権利又は義務に関する他人の文書又は電磁的記録を毀棄した者は、5年以下の懲役に処する。
(建造物等損壊及び同致死傷)
第260条
他人の建造物又は艦船を損壊した者は、5年以下の懲役に処する。よって人を死傷させた者は、傷害の罪と比較して、重い刑により処断する。
(器物損壊等)
第261条
前3条に規定するもののほか、他人の物を損壊し、又は傷害した者は、3年以下の懲役又は30万円以下の罰金若しくは科料に処する。
(自己の物の損壊等)
第262条 自己の物であっても、差押えを受け、物権を負担し、賃貸し、又は配偶者居住権が設定されたものを損壊し、又は傷害したときは、前3条の例による。
(境界損壊)
第262条の2
境界標を損壊し、移動し、若しくは除去し、又はその他の方法により、土地の境界を認識することができないようにした者は、5年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。

 以上のように、刑法は物を壊すような類型の犯罪を定めています。その中には、文書や建物等のように、その物を破壊した場合に成立する特別な犯罪も定められており、第261条は、そのような特別な犯罪が成立しない物を損壊した場合に成立する罪です。

 「3年以下の懲役又は30万円以下の罰金」という法定刑は、他の犯罪と比較するとやや軽い内容ではありますが、犯罪であることには違いありません。

 そして、器物損壊の罪は、他人の物を「損壊」した場合だけでなく「傷害」した場合にも成立します。物に対する「傷害」と聞くとイメージしにくいかもしれませんが、典型例としては他人の家のペットを傷つけるようなケースです。

 ペットを「物」と扱うことに違和感があるかもしれませんが、刑法第204条の傷害罪は「人の身体を傷害した」場合に成立する罪ですから、人以外の動物を傷つけた場合には成立しないのです。

2.「損壊」とは

(1)意義

 物を「損壊」した場合に成立する罪になりますから、器物損壊の罪が成立するかどうかは、その行為が「損壊」行為だと言えるかどうかによって判断されることになります。例えば、冒頭で触れた小学校の教師の事案は、上履きを隠したということでしたが、隠す前と同じような状況で保管していた場合にも、「損壊」行為にあたるのでしょうか。

 「損壊」の意義については、物理的に損壊する場合だけではなく、その物の効用を損なわせる行為も含まれると解されています。

 有名な裁判例として、食器に放尿する行為が器物損壊にあたるとされたものがあります(大判明治42年4月16日)。放尿しただけでは食器は物理的に破損しませんし、洗浄、消毒、殺菌等を行うことによって、放尿される前の状態に戻すことは可能かもしれません。しかし、その上に食べ物をおいて食事をしようとは誰も考えないように思います。ですから、放尿されてしまった食器は、食器としての効用を損なっており、放尿行為は「損壊」にあたると解された訳です。

 そして、今回の事案のように、物を隠したり捨てたりするような行為も、日本語としては「損壊」行為と表現するには違和感はあるものの、隠されてしまえばその物を使うことはできませんから、その物の効用は完全に損なわれてしまっています。

 また、上履きについては、片足だけ履くということは考えられませんから、その意味でも「損壊」にあたるものと解されているのです。

(2)隠すような行為は全て「損壊」になってしまうのか

 しかしながら、物を使うことができない状況にする行為が全て器物損壊になってしまうのでしょうか。

 昔の事件になりますが、有名なアイドルが、諍いの状況を撮影しようとしていた女性の携帯電話を取り上げたという事案について、器物損壊で書類送検されたというニュースがありました。

 この事件は、隠すという行為もなく、単に取り上げたという事件です(人の物を無理矢理に奪っている訳ですから、窃盗や強盗の罪にあたるのではないかという疑問はここではおいておきます)。このような行為においても全て「損壊」にあたるとすると、他人の物を一時的に取り上げるような行為が、全て器物損壊の罪とされてしまいます。

 この点について、携帯電話を3分間とりあげただけでは、「損壊」にはあたらないと判示した裁判例(大阪高判平成13年3月14日)があります。

 では、5分間であれば器物損壊が成立していたのかというと、取り上げられた時間だけで判断できるものではありません。先ほどの大阪高等裁判所の裁判例は、「(物の)利用を妨げる行為がすべて『損壊』に当たるわけではなく、『損壊』と同様に評価できるほどの行為であることを要する」と判示しています。

 結局、ケースバイケースで検討するほかありません。器物損壊という罪は分かり易いようでいて、非常に困難な問題を孕む犯罪だと言えます。

3.器物損壊で逮捕されるのか

  先ほど、器物損壊の罪の法定刑は重いものではないと説明しました。しかしながら、冒頭でご紹介した事案における被疑者は逮捕されてしまっています。

 犯罪である以上、逮捕される可能性があるのは当然なのかもしれませんが、一度刑事訴訟法を確認してみたいと思います。

刑事訴訟法

第199条
検察官、検察事務官又は司法警察職員は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるときは、裁判官のあらかじめ発する逮捕状により、これを逮捕することができる。ただし、三十万円…以下の罰金、拘留又は科料に当たる罪については、被疑者が定まった住居を有しない場合又は正当な理由がなく前条の規定による出頭の求めに応じない場合に限る。

 このように、刑事訴訟法は、逮捕を許さない場合についても規定しているのですが、刑法で定められている犯罪のほとんどは、罰金刑に加えて懲役刑の定めも設けていますし、器物損壊の罪についても同様です。

 ですから、器物損壊の罪で逮捕されることもあり得るのです。

 もっとも、器物損壊の罪は、物を「損壊」する罪ですから、被疑者が何か犯罪行為をすることによって経済的な利益を得るという訳では無く、複数の共犯者と共に計画的に行われるということも稀です。

 したがって、逮捕される可能性が高い犯罪とは言えません。しかし、冒頭の事案においては、他の児童の物についても「損壊」行為に及んでいたようですし、私がこれまで担当した事件の中で、器物損壊を理由に逮捕された事案は全て、複数の物を「損壊」したと疑われていた事案でした。

 いわゆる「余罪」が多い場合には、逮捕される危険性のある犯罪だと言えるでしょう。

4.器物損壊の罪における弁護活動

 上述したように、器物損壊の罪で捜査が行われる場合、被疑者を逮捕せずに在宅捜査として行われる可能性が高いものといえますが、逮捕されるケースは十分に認められます。特に、余罪が露見している場合や、余罪の存在を強く疑われているケースにおいては、逮捕されるだけでなく勾留までなされる危険性も十分にあるのです。そして、余罪が疑われている場合には、再逮捕される可能性もある訳ですから、再逮捕される可能性まで考慮すると、他の犯罪と比較して重罪とまでは評価できない犯罪類型でありつつも、拘束期間が長期に及んでしまう可能性があるのです。  
 このような状況を回避するためには、他の事件と同様に、逮捕、勾留を回避するための弁護活動は極めて重要になります。  また、被害者との間での示談交渉も重要です。特に、通常の事件の場合には、被害者との間で示談が成立したとしても、犯罪行為に及んだ事実が消える訳ではありませんから、示談成立を理由に不起訴とするかどうかは検察官の裁量にゆだねられることになりますが、器物損壊の罪は親告罪と定められていますから、示談が成立し、被害者が告訴しないことを約束してくれた場合には、検察官は事件を起訴することができません。  
 過失で物を損壊してしまった場合には、器物損壊罪は成立しませんが、民事での賠償は求められることになりますから、民事的な解決と同時に、刑事事件としての手続を終結させるためにも、示談交渉はより重要になってくるのです。  
 無罪を主張する場合における特殊性としては、被害者の供述等が存在しないことが多いことがあげられます。暴行事件等の場合には、犯行を被害者が目撃し、直ちに警察に通報するケースが多いように思われますが、器物損壊の罪の場合、目撃者がいなければ直ちに通報される訳ではありませんから、防犯カメラ等の映像で犯人が特定されるケースが多く見受けられます。
 犯人性を争う場合であっても、意図的に破壊したのではなく過失に過ぎないことを理由に無罪を主張する場合であっても、検察官から提出される客観的証拠を精査した上で、どのように無罪であることを裁判官に説得するのかについて、緻密な分析が求められます。刑事事件の弁護士の能力が試される局面といえるでしょう。  
 弊所では器物損壊の事件も数多く受任させていただいておりますから、まずは御相談いただければと思います。

5.まとめ

 今回は、先日報道された事件をきっかけに、器物損壊の罪について解説させていただきました。物を「損壊」するという、一般的にはイメージし易い犯罪行為である一方で、「損壊」という文言の解釈の幅が非常に広く、法的に難解なものを含む犯罪であることや、法定刑が軽い犯罪であるとは言え、逮捕される可能性も十分にあるものだということを御理解いただければと思います。

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