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コラム

相手が望んだから連れて行ってあげたのに。未成年者略取の罪。

簡単に言うと…
  • 未成年者の同意があったとしても、未成年者を連れまわすことで、未成年者略取の罪は成立し得る。
  • 未成年者略取の罪は、違法な目的が認められない場合でも成立し得る。
  • 親権者による子の連れ去りの場合にも成立する事案であり、他人の子供と行動する際には、十分な注意が求められる。
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 先日、未成年者誘拐の罪で被疑者が逮捕されたという報道を目にしました。容疑の内容について確認すると、被疑者はSNSで知り合った10代の女性2人を、商業施設など複数の店に3時間にわたって連れまわしたということでした。
 「連れまわした」という表現は、無理矢理に女性を連行しているかのように聞こえてしまいますが、場所が商業施設ですから、女性も商業施設に男性と行くこと自体は承諾していたのではないかと思います(事案の詳細は分かりませんので、全て私の想像ですが)。商業施設に一緒に行くことを承諾していない女性を、無理矢理商業施設に連行した場合、助けを求められた場合には直ちに犯行が露見してしまいますし、犯行の動機が理解し難くなってしまうからです。
 もし、女性も被疑者と共に商業施設に向かうことを承諾していた場合、知り合った女性とデートに行くのと客観的に見た時には何ら変わらない行動と言えそうですから、このような行為に犯罪が成立することについて違和感を覚える方もいらっしゃるのではないかと思います。
 被疑者が商業施設に連れて行った相手が成人であれば、何の問題もありませんが、本件では相手が未成年であったことがポイントになっています。
しかし、自分の子供を家族以外の他人に預けるようなケースは珍しくないと思いますし、そのようなケースにおいて犯罪が成立するのは極めて不合理です。
 今回は、未成年者略取の罪がどのような場合に成立するのかについて解説させていただこうと思います。

1.法律上の定め

 
 まずは、未成年者略取の罪がどのように法定されているか確認してみましょう。刑法は第33章において略取、誘拐及び人身売買の罪について規定しております。あまり適用される機会の多くない条文ですので、その概要を紹介させていただきます。

(未成年者略取及び誘拐)
第224条
 未成年者を略取し、又は誘拐した者は、3月以上7年以下の懲役に処する。
(営利目的等略取及び誘拐)
第225条
 営利、わいせつ、結婚又は生命若しくは身体に対する加害の目的で、人を略取し、又は誘拐した者は、1年以上10年以下の懲役に処する。
(身の代金目的略取等)
第225条の2
1項 近親者その他略取され又は誘拐された者の安否を憂慮する者の憂慮に乗じてその財物を交付させる目的で、人を略取し、又は誘拐した者は、無期又は三年以上の懲役に処する。
2項 人を略取し又は誘拐した者が近親者その他略取され又は誘拐された者の安否を憂慮する者の憂慮に乗じて、その財物を交付させ、又はこれを要求する行為をしたときも、前項と同様とする。
(所在国外移送目的略取及び誘拐)
第226条
 所在国外に移送する目的で、人を略取し、又は誘拐した者は、2年以上の有期懲役に処する。

 刑法第226条以降にも人身売買等についての罰則が定められていますが、少しケースが異なるので省略しました。
 刑法第224条から第226条までの内容を確認すると、営利目的やわいせつ目的などの違法な目的によるものでなければ、成人を被害者とする略取、誘拐行為は処罰対象となっていません。
 もっとも、人の自由を侵害する場合には、刑法第220条が定める逮捕及び監禁の罪が成立することになります。
 一方で、被害者が未成年の場合、刑法第224条は目的要件が定められていませんから、わいせつ目的などの違法な目的が認められない場合でも刑罰が科され得るものとなっているのです。

2.「略取」、「誘拐」の意味

 
 人を監禁した場合に監禁の罪が成立することは分かりやすいと思います。では、「略取」や「誘拐」とはどのような意味をもつ言葉なのでしょうか。
 「略取」や「誘拐」は「逮捕」や「監禁」に先行して行われる行為だとイメージしていただけると分かりやすいと思います(同時に行われるケースも想定されますので、あくまでイメージです)。
 「誘拐」された被害者を、逃げ出すことができないように施錠された部屋に閉じ込め続けた場合には、被害者をその部屋まで連行する行為が「誘拐」となり、その後に閉じ込め続ける行為が「監禁」となるイメージです。
 ですから、「略取」と「誘拐」は、被害者をもともと生活していた環境から離れさせたうえで、加害者や第三者の支配下に置く行為を意味すると理解されています。被害者を完全に拘束した場合には、「監禁」の罪が成立することになりますから、完全に拘束されていなくても、その管理下から抜け出すことが困難な状態であったと認められれば、「略取」又は「誘拐」と評価されることになります。
 そして、「略取」と「誘拐」は、暴行等の手段によって無理矢理行う場合が「略取」で、被害者を騙すような手段で行う場合を「誘拐」として区別されているのです。また、「略取」と「誘拐」の2つを併せた言葉として「拐取」という言葉が用いられています。

3.親による子の連れ去り

 
 本件とは少し事案が離れてしまいますが、未成年者を被害者とする「拐取」の事案で多く見られるのは、一方の親に育てられている子どもをもう片方の親が連れ去るような事案です。
 このような事案では、被害者が幼い子供の場合が多く、強度の暴行を加えなくても、被害者を連れ去ることは可能ですから、単に被害者を抱えて自動車に乗車させる行為であっても「略取」と評価されるケースがほとんどです。
 そして、最高裁平成17年12月6日決定(刑集59巻10号1901頁)は、子供を連れ去ったのが親権者であったとしても「略取」に該当することは明らかであることを判示し、親権者であることを理由に、例外的に違法性が否定される場合があることを認めつつも、事案との関係では、子供の監護養育上連れ出さなければならなかったような事情も認められず、連れ去った後の監護養育について確たる見通しも認められないとして、未成年者略取の罪が認められました。
 この事案では、連れ去られる前の環境において問題なく子供が育てられていたことと、連れ出した後にどのように子供を育てる予定だったのかが明らかとなっていないことなどを理由に、未成年者略取の罪の成立が認められましたが、1名の裁判官から反対意見も付されており、微妙な判断であったことが窺われます。
 いずれにせよ、子供の連れ去りに関しては、ケースバイケースで一律に犯罪の成否を決めることは困難なものと考えられるでしょう。
 親権者であっても、未成年者略取の罪は成立し得るのですから、親権者でない場合には、余計に未成年者略取の罪の成立を否定することは困難になりそうです。

4.未成年者略取の罪における弁護活動

 
 では、どのような場合に未成年者略取の罪の成立は否定されることになるのでしょうか。
 まず、被害者の同意があっただけでは、未成年者略取の罪の成立が否定されないのは、冒頭で述べたとおりです。それは、刑法は、保護者の子供に監護権をも守るために、未成年者略取を犯罪と定めているものと解されているからです。
 一方で、被害者及びその保護者の承諾も得られている場合には、未成年者略取の罪は否定されることになりそうです。
 ママ友から自分の子供の友人を預かった場合に、未成年者略取の罪が成立しないのは、被害者の親の承諾も得られているからです。
 他方で、保護者の承諾を得ていたとしても、その承諾が誤解に基づくものであった場合には、「誘拐」と評価されることもあり得ます。
 そこで、未成年者略取の罪について、容疑を否認する場合には、どのような経緯・目的で子供を預かることになったのかについて、弁護人が十分に主張することが求められることになるのです。
 幼い子供ではなく、本件において問題となったような、学生が問題となるような場合であっても、親からの承諾をどのように得て、親から承諾があるものと認識していたことを示す事実等を、具体的に主張する必要があるでしょう。

5.まとめ

 
 今回は、未成年者略取の罪について解説させていただきました。最初は、被害者の承諾があったとしても、未成年と一緒にどこかに行く過程で、連れまわすような環境が認められると、罪を犯すつもりでなくても、被疑者になってしまうことについて解説させていただき、途中で子の連れ去り事案についても併せて解説させていただきました。

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