闇バイトの危険性。悪質化の傾向について
- 「闇バイト」を募集する側にも応募する側にも理由がある。
- 前科前歴がなくても直ちに服役を命じられる程度に厳格に処罰されることが多い。
- 1人では到底行おうとすら思わない犯罪でも、「バイト」という言い訳の下で関与してしまい易い。
弁護士
岡本 裕明
「闇バイト」という言葉が用いられるようになったのはいつ頃からでしょうか。令和6年11月の段階では、「闇バイト」で検索すると、様々な事件に関する報道が数多く該当します。
また先日の報道によると、「闇バイト」に応募した後、指示された犯罪行為に及ぶことを拒否したことで、首謀者らから脅迫を受けていた数名の方が、警察署に保護されたという事態も生じているようです。
私達は、以前にも「闇バイト」の危険性について解説し、安易に応募しないようにお伝えさせていただいたことがあります(「闇バイト」には絶対に手を出すな! )。
この時は、犯罪対策閣僚会議において、「SNSで実行犯を募集する手口による強盗や特殊詐欺事案に関する緊急対策プラン」が策定されたことを契機として、「闇バイト」に対する捜査が強化されるのではないかという点についてお話をさせていただきました。
しかし、残念ながら「闇バイト」に起因して行われる犯罪は未だに散見されますし、その中には社会的耳目を集める犯罪行為も多く認められます。
特に、「闇バイト」として募集された実行者から強盗の被害に遭った被害者の方が亡くなってしまった事件については、大々的に報道されていましたので、皆様の記憶にも新しいのではないでしょうか。
前回の記事は、「闇バイト」として募集される内容として、特殊詐欺に協力させられることが多いことを前提に執筆させていただきました。
しかし、最近の報道では、上述したような強盗等の事件が、「闇バイト」に関連する犯罪として目にする機会が多いように思います。
何故、このようなことが起きているのかについて、弁護人の立場から改めて解説させていただければと思います。
目次
1.「闇バイト」が利用される背景
弁護士
岡本 裕明
「闇バイト」とはそもそも何なのでしょうか。法律で定義されている訳ではありませんが、警察庁では、「犯罪実行者の募集」と説明しています。確かに、「闇バイト」が問題となるケースは、そのほとんどが犯罪への関与に対して報酬が支払われるものといえるでしょう。
しかし、最初から犯罪に関与することを明示して募集するようなケースばかりではありません。むしろ、募集の段階では、犯罪行為を内容とするものなのかハッキリしない表現で募集されていることが多いように感じます。
ですから、業務の内容や委託元を明らかにすることなく、報酬の高額さを強調して募集しているようなものについては、基本的に「闇バイト」だと考えていただいていいように思います。
「闇バイト」が募集される場合、その委託元は犯罪組織である可能性が高いです。そうだとすると、わざわざ高額な報酬を支払ってバイトを募集しなくても、自分達で犯罪を行える程度の人員は揃っているようにも思えます。
にもかかわらず、報酬を支払ってでも、「闇バイト」を募集するのは、それだけ「闇バイト」に行わせる行為が危険で、捜査機関によって逮捕される可能性が高い内容だからです。
組織的に犯罪を行う場合、組織の中心人物が逮捕されてしまうと、継続的に同じスキームで犯罪を続けることが困難になります。ですから、逮捕される危険の高い役割については、逮捕されても組織が従前通りに活動できるような、組織とは無関係の人間に行わせる必要があります。
このような無関係な人間を集めるために、SNS等を利用して「闇バイト」が募集されることになるのです。
2.成立する犯罪
弁護士
岡本 裕明
「闇バイト」に従事することによって、どのような罪に問われる可能性があるのでしょうか。実際にどのような行為を行ってしまったのかによって、成立する犯罪はかわりますが、下記のような罪に問われることが多いといえるでしょう。
刑法
(住居侵入等)
第130条
正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し…た者は、3年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する。
(窃盗)
第235条
他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
(強盗)
第236条1項
暴行又は脅迫を用いて他人の財物を強取した者は、強盗の罪とし、5年以上の有期懲役に処する。
2前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。
(強盗致死傷)
第240条
強盗が、人を負傷させたときは無期又は6年以上の懲役に処し、死亡させたときは死刑又は無期懲役に処する。
(詐欺)
第246条
人を欺いて財物を交付させた者は、10年以下の懲役に処する。
「闇バイト」に関与することで成立する犯罪は、その「バイト」内容次第ですから、他の犯罪が成立する可能性も十分にあります。しかしながら、私がこれまで弁護させていただいた「闇バイト」に関する事件は、ほとんどが上述した内容の犯罪に関するものでした。
オレオレ詐欺のような特殊詐欺における「受け子」のような役割を担わされる
ことがあることは、冒頭でもお伝えさせていただきました。
また、他人の家や店舗に侵入した上で、中に保管されているお金や財物を奪ってくるように指示されるケースも多く耳にします。
営業時間終了後の店舗に盗み入るようなケースであれば、建造物侵入罪と窃盗罪の成立にとどまることが多いものといえます。しかし、侵入した建物の中に居住者や従業員等が存在した場合、そのような方々の抵抗を抑えつけた上でなければ、財産を探したり奪ったりすることができません。その結果として、強盗罪が成立することになってしまいますし、被害者の方が怪我をされてしまった場合には、強盗致傷罪が成立することになります。
強盗致傷罪は裁判員裁判対象となる極めて重大な犯罪で、前科前歴がなくても刑務所に服役することとなる可能性が極めて高いものといえます。
軽い気持ちで「闇バイト」に関与したことで、長期間の服役を免れない状況に陥ってしまう可能性があるのです。
3.「闇バイト」に従事してしまう背景
弁護士
岡本 裕明
犯罪組織が「闇バイト」を必要とする理由は説明させていただきました。しかし、実際に「闇バイト」に応募する人がいなければ、「闇バイト」がここまで大きな社会問題になることはなかったでしょう。
「闇バイト」に関与してしまう一つの理由として、最初は「闇バイト」が犯罪行為であると理解していなかったことが挙げられます。SNSで「闇バイト」を募集する際には、真っ当な業務であるかのように装って募集されることもあります。そして、通常の「バイト」のように履歴書や身分証の提出を求められる中で、真っ当な選考手続を経て業務に従事することになるかのように誤解してしまうのです。
「受け子」のように、荷物を受け取るだけの仕事として説明される場合などには、最後まで犯罪に加担していることについて自覚を持てないケースもあるでしょう。逆に、途中で犯罪行為だと気付けるケースも少なくありません。それでも、指示役から「違法ではないから」と説明された場合に、既に自分自身が犯罪に関与してしまったことを受け入れることができずに、ズルズルと指示役の説明を妄信してしまうことが多いのです。
逆に、他人の家に侵入することを指示されるようなケースは、最初から犯罪行為であることは明らかなはずです。「違法ではないから」との説明を信用することは考え難いでしょう。
にもかかわらず、指示役の指示に従ってしまうケースの1つとして、指示役からの「逮捕されることはない」などの説明を信用してしまうことが挙げられます。例えば、「侵入するのはヤクザの家なので、警察に届け出ることはない。」、「違法な方法で稼いだお金なので、警察に届けられることはない。」といった理由で、「闇バイト」に応募してきた人間に、最後の決断をさせるように迫るのです。
結果的に、侵入先は反社会勢力に属する人間の住居ではなく、奪った財産も犯罪収益ではなかったことから、警察に届け出られ、逮捕されてしまうことになるのです。
4.「闇バイト」と弁護活動
弁護士
岡本 裕明
「闇バイト」に関与してしまった結果、被疑者として取調べを受けている方や、被告人として裁判を受けている方からの相談は少なくありません。
もっとも、被疑者・被告人が単独で行っている犯罪ではなく、犯罪組織が組織的かつ計画的に行っている犯罪ですから、被害額が大きいことが多く、最終的に服役することになってしまうケースが多いです。
被害額が大きいことから、被疑者・被告人だけの力では弁済することが困難なことや、関係者が複数存在しているために、罪証隠滅の危険性があるとして保釈の許可を得ることが困難であることなども、「闇バイト」に関する犯罪の弁護活動が難しい理由といえるでしょう。
もっとも、事案によっては、犯罪行為について故意や共謀を否定する余地があるケースは存在します。実際に、嫌疑不十分を理由に不起訴処分を得られたこともあるのです。
故意や共謀を否定することまでできない場合であっても、「闇バイト」に応募することを契機に犯罪に加担することとなった場合、犯罪組織に利用されている側面がありますから、この点を強調することで減軽を主張することもあります。
冒頭で紹介させていただいた、警察官に保護を求めた方々のように、指示役から執拗に脅迫された結果として、犯罪行為に及んでしまったなどの事情を主張することもできるでしょう。
しかしながら、再度お伝えさせていただきますが、そのような事情があったとしても、直ちに刑務所への服役を命じる判決が非常に多いのです。「闇バイト」が社会的な問題となっている以上、厳格な態度で臨もうという裁判所の姿勢が窺えるのです。
5.まとめ
弁護士
岡本 裕明
「闇バイト」について改めて解説させていただきました。
強盗致傷罪が極めて重大な犯罪であることは、法律を知らない方でも常識として認識されているように思います。また、詐欺や住居侵入といった強盗致傷と比較すると法定刑が軽い犯罪についても、自分自身だけ犯行に及ぼうと決意するまでには、何度も実行するかどうかを逡巡するのが普通でしょう。
しかし、「闇バイト」については、人から指示される業務であるとの側面から、本来的には実行を強く懸念するはずの反抗であるにもかかわらず、安易に関与してしまうことがあります。安易な判断の結果として、長期間の服役を免れなくなってしまうと、人生が大きく変わってしまいます。
ですから、「闇バイト」には決して手を出さないということを改めて御認識いただき、もし既に関与してしまった場合には、直ちに御相談いただければと思います。