公益通報者保護法とは何か。刑事事件化の可能性は?
- 公益通報者保護法違反を理由に刑事罰が科されるケースは、現段階では見つからなかった。
- 令和7年改正法が施行された場合、公益通報者を不当に取り扱う行為に対して、刑罰が科されることとなる。
- 会社だけでなく担当者に対する刑罰も予定されており、担当者自身も自分の問題として、公益通報者保護の環境が整備されているかを確認する必要がある。

弁護士
岡本 裕明
令和7年6月4日に、公益通報者保護法が改正され、同月11日に公布されました。通報者を保護することを目的とする法律であることは、その名称から容易に想像することができると思いますが、内容について十分に把握されている方は多くないのではないでしょうか。
他方で、企業の法務を担当している方によっては、ここ数年で耳にする機会が多かったのではないかと思います。令和4年6月に施行された同法の法改正によって、公益通報対応業務従事者を定めることなどが義務化された(公益通報者保護法第11条1項)ことに伴い、内部通報窓口の設置等の対応に追われることになったのではないでしょうか(なお、同条3項によって、労働者の数が300人以下の事業者については、必ず定めなくてはならない訳ではなく、努力義務とする旨が定められております。)
弊所でも、社外窓口としての業務を御依頼いただくことがありますし、ここ数年でそのような相談はかなり増えたように思います。
一方で、公益通報者保護については、あくまで企業のコンプライアンスの問題であり、企業法務の問題であることから、刑事事件に特化した本サイトで解説させていただくことに違和感を覚える方もいらっしゃるかもしれません。
しかしながら、公益通報者保護法は、刑事法の観点からも、考えるべき事項を有するものとなっているのです。
今回は、公益通報者保護法について、刑事法的な観点から解説させていただければと思います。

1.公益通報の内容

弁護士
岡本 裕明
公益通報者保護法が、公益通報者を保護する法律であることは想像し易いとは思いますが、まずは、そもそも「公益通報」とは何なのかについて確認してみましょう。
公益通報者保護法
(定義)
第2条1項
この法律において「公益通報」とは、次の各号に掲げる者が、不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的でなく、当該各号に定める事業者(以下、「役務提供先」という。)…その役員…、従業員、代理人その他の者について通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしている旨を、当該役務提供先若しくは当該役務提供先があらかじめ定めた者…、当該通報対象事実について処分…若しくは勧告等…をする権限を有する行政機関…又はその者に対し当該通報対象事実を通報することがその発生若しくはこれによる被害の拡大を防止するために必要であると認められる者…に通報することをいう。
1号 労働者…又は労働者であった者:当該労働者又は労働者であった者を自ら使用し、又は当該通報の日前1年以内に自ら使用していた事業者
2号 派遣労働者…又は派遣労働者であった者:当該派遣労働者又は派遣 労働者であった者に係る労働者派遣…の役務の提供を受け、又は当該通報の日前1年以内に受けていた事業者
4号 役員 次に掲げる事業者
イ 当該役員に職務を行わせる事業者
分かり易くするために重要な部分も含めて大幅に省略していますので、気になる方は法律の原文を御確認ください。
まず、各号で公益通報を行える方が定められています。
そして、通報の内容については、「通報対象事実」として特定されており、通報先として、問題となっている会社だけでなく、行政機関や「被害の拡大を防止するために必要であると認められる者」が指定されています。
ここでいう、「被害の拡大を防止するために必要であると認められる者」としては、報道機関や消費者団体等が想定されています。
では、「通報対象事実」とは、どのような事実なのでしょうか。
公益通報者保護法
(定義)
第2条3項
この法律において「通報対象事実」とは、次の各号のいずれかの事実をいう。
1号 この法律及び個人の生命又は身体の保護、消費者の利益の擁護、環境の保全、公正な競争の確保その他の国民の生命、身体、財産その他の利益の保護に関わる法律として別表に掲げるもの…に規定する罪の犯罪行為の事実又はこの法律及び同表に掲げる法律に規定する過料の理由とされている事実
2号 別表に掲げる法律の規定に基づく処分に違反することが前号に掲げる事実となる場合における当該処分の理由とされている事実…
この点もパッと見、何を言っているのか分かりにくいところですが、「犯罪行為の事実」として規定されていますので、犯罪行為が「通報対象事実」となることは御理解いただけると思います。この時点で、刑事法的な側面があることは御理解いただけたのではないでしょうか。
「別表に掲げるもの」との制限が付されていますが、別表には、金融商品取引法、廃棄物の処理及び清掃に関する法律や個人情報の保護に関する法律に加えて、刑法も掲げられていますので、刑法犯については全て対象になる訳です。
2.保護の方法

弁護士
岡本 裕明
では、公益通報がなされた場合において、その通報者はどのように保護されることになるのでしょうか。
この点について、公益通報者保護法は、解雇等の不当な取り扱いの禁止等を定めています。
令和7年の法改正によって条文が変わっているところはありますが、基本的には、公益通報に及んだことを理由に、当該通報者に対して不当な処分をすることを禁止する旨が定められています。
実際に、どのような取り扱いが問題となったのかについて、消費者庁が、公益通報等に関する裁判例について、平成19年から令和4年4月までに判決が宣告されたものをまとめて公表しています。80を超える裁判例がまとめられていますので、興味のある方はこちら から御確認ください。
この中には、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律違反になり得るパチンコ台の不正な調整行為について、警察署への告発を行った従業員に対する解雇を無効と判断した裁判例(横浜地方裁判所令和4年4月14日判決)や、理事による横領や背任行為を告発する書面を都道府県に提出した行為を理由とする解雇について、当該横領や背任の事実が認められず、横領や背任行為があったと考える根拠も薄弱であったことなどを理由に有効と判断した裁判例(東京高等裁判所平成28年12月7日)等が含まれています。
以上のように、法文が、犯罪行為についての通報を対象としているだけでなく、実際に犯罪行為を対象とする通報が問題となるものも珍しい訳ではないのです。
3.公益通報者保護法の罰則

弁護士
岡本 裕明
もし、犯罪行為に及んでいる旨が通報された場合、対象者としては、刑事事件を扱うことのできる弁護士に相談する必要があることは、通常の事件と何ら変わりありません。
会社へのヒアリング等に応じる必要もあるでしょうから、捜査機関による取調べに対して、黙秘権を行使するかどうかの判断に際して、通常の事件とは差異が生じる可能性はあるかもしれませんが、手続自体に大きな差異はありません。ヒアリングを行う側、ヒアリングを受ける側、双方に対してアドバイスできる内容はあるのですが、別の機会に解説させていただければと思います。
では、公益通報者保護法との関係で、固有に問題となり得る刑事法の問題は何かというと、同法がどのような行為に罰則を定めているのかという点になろうかと思います。一旦、令和7年改正前の条文を確認してみましょう。
公益通報者保護法
第21条
第12条の規定に違反して同条に規定する事項を漏らした者は、30万円以下の罰金に処する。
第22条
第15条の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をした者は、20万円以下の過料に処する。
(公益通報対応業務従事者の義務)
第12条
公益通報対応業務従事者…は、正当な理由がなく、その公益通報対応業務に関して知り得た事項であって公益通報者を特定させるものを漏らしてはならない。
(報告の徴収並びに助言、指導及び勧告)
第15条
内閣総理大臣は、第11条第1項及び第2項…の規定の施行に関し必要があると認めるときは、事業者に対して、報告を求め、又は助言、指導若しくは勧告をすることができる。
以上のように、令和7年改正前の公益通報者保護法の罰則規定は21条と22条しか存在しせず、21条については公益通報者を特定する情報を漏らした者に対する罰則であり、22条は、事業者が虚偽の報告を行った場合に対するものです。
したがって、公益通報者を保護することなく、不当に扱うこと自体に対して刑罰は定められていませんでした。
4.公益通報と弁護人の役割

弁護士
岡本 裕明
現段階では施行されていないものの、冒頭で紹介させていただきました、令和7年6月に公布された改正法には、次のような罰則が追加されています。
令和7年改正 公益通報者保護法
第21条1項
第3条第1項の規定に違反して解雇等特定不利益取扱いをしたときは、当該違反行為をした者は、6月以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金に処する。
第23条
法人の代表者又は法人…が、その法人…の業務に関し、次の各号に掲げる規定の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人に対して当該各号に定める罰金刑を、その人に対して各本項の罰金刑を科する。
1号 第21条第1項 3000万円以下の罰金刑
これまで定められている罰則と比較すると、遥かに高い罰金額が定められており、拘禁刑についても定められています。
公布から1年6月以内に施行されることになっておりますので、これまで解雇の無効等について民事裁判で争われてきた事案が、刑事裁判で争われる可能性が出てきたことになるのです。
会社として公益通報者を適切に扱わなかったことについて刑罰が科されるだけでなく、会社の方針に従ったに過ぎない場合であっても、その担当者についても、刑事事件が科される可能性がある訳です。
実際に、改正法が施行される前に、公益通報者保護の制度を、適切に整備しておくことが求められることになるでしょうし、担当者との関係では、会社の方針であれば問題ないだろうと考えるのではなく、自身の刑事責任が追及される可能性がある訳ですから、自身の問題として、公益通報者を適切に保護できる環境を整備できているかを確認する必要があるでしょう。
なお、刑罰の対象となる行為として、「解雇等特定不利益取扱い
」が禁止されていますが、解雇や減給等の懲戒処分を意味するものと御理解いただければと思います。
懲戒処分を行うにあたっては、公益通報とは関連しない内容であっても、社内に置いて十分な調査を行うことが予定されていると思いますから、特に公益通報者である従業員らに対して懲戒処分等を検討するにあたっては、公益通報を理由に懲戒されたなどとして、事後的に争いになることがないように、より慎重な調査等が求められることになるでしょう。
5.まとめ

弁護士
岡本 裕明
以上のとおり、これまでは公益通報者保護法違反を理由に、刑事罰が科されるケースというのは、あまり想定されておりませんでした。
他方で、公益通報を理由とする不当な解雇や懲戒処分であるとして、解雇の無効等が争われた民事裁判は存在しており、令和7年の法改正によって、そのような事例との関係では、刑事裁判の問題となり得ることが想定されるのです。
令和8年12月頃までに施行されることになりますから、それまでに公益通報の制度を定着させておくことが求められます。









