覚醒剤について今一度考えてみよう
- 我が国ではメタンフェタミンと呼ばれる成分が、覚醒剤として規制されている主たる成分となっている。
- メタンフェタミンは体内で生成されない。
- メタンフェタミンの原料となる成分も規制されているが、分量の小さいものについては市販薬として販売されているものもある。

弁護士
岡本 裕明
大麻の使用に対して刑罰が科されるようになって、約1年が経過しました。麻薬及び向精神薬として規制されてきた、コカインやMDMA、LSD等と同じ法律が適用されるようになった訳ですが、それ以前は、麻薬や向精神薬よりも、1ランク違法性が低いものとして扱われてきました。したがって、麻薬及び向精神薬取締法の適用対象になって以降も、従前から麻薬や向精神薬として定められてきた各薬物よりは、軽い扱いを受けているように感じます。この点については、統計等によっても、そのような扱いを明らかに確認できるようになりましたら、一度解説をさせていただこうと思います。
今回は、覚醒剤について改めて説明をさせていただこうと思います。大麻や、麻薬、向精神薬以外にも、指定薬物や毒物等、様々な薬品が規制対象とされていますが、その中でも最も違法性が高い薬物が覚醒剤であることは間違いないでしょう。実際に、覚醒剤取締法に定められている法定刑も、他の薬物に関する法律よりも重いものとなっていますし、実際に裁判において宣告される刑の内容も、他の薬物よりも重いことがほとんどです。
覚醒剤については、まだ法律が改正される前で、「覚せい剤」と表記されていた時代の話ですが、「覚せい剤取締法違反について」という記事で解説をさせていただいておりますので、興味のある方はまずそちらを御確認ください。
今回は、覚醒剤の成分の話等、少し踏み込んだ内容を確認していこうと思います。
目次
1.法律の定め

弁護士
岡本 裕明
まず、覚醒剤とは何なのでしょうか。法律がどのように定めているのかについて確認してみましょう。
覚醒剤取締法
第2条
この法律で「覚醒剤」とは、次に掲げる物をいう。
1号 フェニルアミノプロパン、フェニルメチルアミノプロパン及び各そ の塩類
2号 前号に掲げる物と同種の覚醒作用を有する物であって政令で指定するもの
3号 前二号に掲げる物のいずれかを含有する物
政令で指定するものという言葉もありますから、「フェニルアミノプロパン」(一般的にはアンフェタミンと呼ばれることもあります)や「フェニルメチルアミノプロパン」(一般的にはメタンフェタミンと呼ばれることがあります)に該当しない「覚醒剤」は存在し得るのですが、日本で「覚醒剤」が問題となる場合の多くは、メタンフェタミンのことを指していると思われます。
ですから覚醒剤として販売されていたとしても、このメタンフェタミン等の成分を含んだものでなければ、麻薬特例法等の他の法律に違反することはともかく、覚醒剤取締法違反には該当しないことになります。
日本では、このメタンフェタミンの塩酸塩としての結晶や、その結晶が砕かれた粉末状のものとして出回っていることが多いですが、外国では飲んで使うタイプの錠剤のようなものも販売されています。
錠剤≠覚醒剤という偏見をもって、安易に摂取してしまうと、知らない間に覚醒剤を使用したことにもなりかねませんので注意が必要です。
2.覚醒剤の原料

弁護士
岡本 裕明
メタンフェタミンは自然界に存在する成分ではありません。人工的に精製する必要がある訳です。そして、覚醒剤の原料になる薬品も限られているため、覚醒剤原料として覚醒剤そのものとは別個に規制されているのです。
覚醒剤取締法
(用語の意義)
第2条5項
この法律で「覚醒剤原料」とは、別表に掲げる物をいう。
別表
一 1―フエニル―2―メチルアミノプロパノール―1、その塩類及びこれらのいずれかを含有する物。ただし、1―フエニル―2―メチルアミノプロパノール―1として10%以下を含有する物を除く。
このような形で、覚醒剤の原料となり得る成分についても規制されています。政令で指定されているものを含むと20以上の原料が指定されています。このような覚醒剤原料について所持等をするにあたっては、覚醒剤原料輸入業者等として指定を受ける必要があり、この指定を有していないにもかかわらず、覚醒剤の原料を取り扱った場合も刑罰が科されることになっています。
ちなみに、1-フエニル―2―メチルアミノプロパノール―1(一般的にはエフェドリンといいます)については、10%以下を含有する物を除くと指定されています。それは、エフェドリンには咳止め薬等としても用いられているため、含有量が少ない薬品については、覚醒剤原料として扱わない旨を定めているのです。
ですから、そのような風邪薬を所持していたからといって、覚醒剤取締法違反になる訳ではありません。
では、エフェドリンを含有されている薬品を過剰摂取することによって、尿検査に際して、覚醒剤を摂取したのと同じ反応が出るのでしょうか。そのような弁解をされる方もいらっしゃるようですが、覚醒剤原料を多量に摂取することによって、体内でメタンフェタミンが生成されることはなく、そのような弁解は通用しないものといえるでしょう。
3.覚醒剤の使い方

弁護士
岡本 裕明
上述したとおり、諸外国においては経口摂取を前提とする錠剤型の覚醒剤も存在します。しかし、日本で覚醒剤が問題となる場合は、ほとんどのケースで覚醒剤の水溶液を静脈注射して用いているのではないかと思います。
このような使用方法が好まれているのは、経口摂取よりも、覚醒剤の薬理作用を迅速に感じることができるからだと考えられます。他方で、静脈に違法な薬物を注射する行為については、相当な恐怖感が伴います。
そこで、覚醒剤を加熱した上で、その煙を吸入するような方法で用いられることもあります。このような使い方の方が、単に錠剤をのみこむよりも、効果が得られやすいということがあるようです。
注射器を用いられる場合、無理矢理注射されるようなケースを除くと、自らの意思の下で覚醒剤を摂取したことが推認されてしまうのではないかと思います。
他方で、覚醒剤が炙りの方法で用いられた場合、副流煙を吸入してしまっただけで、尿から覚醒剤の成分は検出されてしまうのでしょうか。この点についても、副流煙のような形で吸引しただけでは、尿から十分な量の覚醒剤成分が検出されることはないと考えられています。逆に、大麻等のように煙草のようにして吸引する訳ではなく、物を口に含まずに吸引する訳ですから、副流煙として吸引するような行為と、意図的に覚醒剤の成分を吸引する行為に明確な境界はありません。結局、尿から覚醒剤成分が検出される程度の量を吸引している場合には、意図的に吸引していたと認定されることになるでしょう。
4.覚醒剤と弁護活動

弁護士
岡本 裕明
ここまでで、様々な弁解が通用しない旨を説明させていただきました。いずれも科学的な根拠をもって、故意がなかったなどの弁解が否定されてしまうことになるでしょう。
もっとも、そもそも論として、意図せずに覚醒剤を摂取してしまうという機会が非常に限定的であるというのも、特に覚醒剤の使用の罪との関係で、否認することが難しい理由となっているように思います。薬理効果を求めて、自分で使うのであればともかく、覚醒剤であることを伝えることなく、他人に覚醒剤を使わせるべきシチュエーションというのが想定し難いからです。
一方で、そのようなシチュエーションを具体的に立証できる場合には、使用の罪との関係でも無罪判決が得られることになるでしょう。
例えば、経口で覚醒剤の水溶液を摂取していた妻が、当該水溶液をそのままにしたまま寝入ってしまった後、夫が当該水溶液を通常の飲料として誤認して飲んでしまったという事案において、そのような弁解が認められた裁判例があるようです。
一見して不合理な内容であっても、そのような弁解を基礎付ける事実の有無を検討した上で、故意等を否認する筋道を考えるのが弁護人の役割といえるでしょう。その結果として、故意等を否定することが困難であると判断された場合には、違法収集証拠等のように他の理由で無罪を主張することができないかという点を検討した上で、罪を認める必要があると考えられる場合であっても、再犯の可能性ができる限り少なくなるように、更生環境を整備するための活動を行う必要があります。
つまり、どのようなケースであっても、弁護人によるサポートが極めて重要になる類型の事案ということができるでしょう。
5.まとめ

弁護士
岡本 裕明
以上のとおり、覚醒剤取締法で逮捕・起訴された場合、特に、覚醒剤の使用が問題となっているケースにおいては、事実を否認することは極めて困難となります。他方で、故意が否定されて無罪が確定している裁判例も存在する訳ですから、一見理不尽なように聞こえる弁解であっても、弁護人としては真摯に向き合う必要があるでしょう。もっとも、科学的に否定されているような弁解に固執することがないようにアドバイスを行うことも重要となります。
覚醒剤の場合、罪を認めている場合であっても、二度と同じ過ちを犯すことがないように、更生環境を整備する必要があり、弁護人のサポートは重要不可欠です。お悩みがある場合には、御相談いただければと思います。
この記事を書いた弁護士
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