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コラム

GPSによる捜査は許されるのか?

簡単に言うと…
  • GPS捜査は強制の処分であると考えられており、GPS捜査を許容する法律は現行法では存在しない。
  • 現行法で予定されている強制捜査に関する令状を用いてGPS捜査を行うことも、最高裁判決によって否定されている。
  • 将来的な法改正によってGPS捜査が適法となる可能性は否定できない。
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弁護士
岡本 裕明
警察官に内偵されているのではないか?という相談を受けることが多々あります。そのような懸念が生じる背景には、警察に自分の行動が把握されているのではないかという心配があるのではないかと思います。今回は、被疑者の行動を正確に把握することのできる、GPSを用いた捜査について解説したいと思います。

 私達は刑事事件に関する事柄であれば、何でも手広く相談をお受けしております。その中には、まだ警察官からの接触がなく、被疑者として扱われていないような状況下で御相談いただくこともあります。
 実際に、その後、被疑者として取調べをうけることがあるのであれば、最初の取調べの前に、取調べにどのように対応すべきかについてのアドバイスを受けておくことは重要ですから、警察官からの接触がない段階であっても、御気軽に御電話いただければと思います。
 警察官からの接触がない段階であっても、犯罪行為に及んでしまったという内容の御相談であれば、自首をするかどうかについてのアドバイスをさせていただくことは可能ですし、犯罪行為に及んだつもりがないケースであっても、特定の相手との諍いが原因となっている場合には、刑事事件となる前に示談交渉に着手する等の対応が可能です。

 一方で、特に犯罪行為に及んだつもりはないものの、「警察官に見張られている気がする」という内容の相談に対しては、実際に警察官による捜査が行われているかどうかの確認をすることはできませんから、将来的に取調べを受けることになった場合におけるアドバイスはさせていただけるものの、積極的に弁護士として動くことは難しいです。
 このような相談は決して少なくありません。そして、多くの場合は「気のせい」だったと済んでいることが多いのですが、稀に、実際に警察官による捜査が行われており、改めて御相談いただくことが多いです。
 このようなケースの場合、警察官としては何らかの犯罪の被疑者を特定できているものの、何らかの理由で被疑者に対する取調べを行うのを留保していることになります。このような状況について、「泳がされているのではないか」と心配されて御相談いただくことになるのです。
 被疑者を特定できているのに、直ちに被疑者を逮捕したり、任意の出頭を求めたりしない理由については様々なことが考えられ、被疑者の行動を観察するために「泳がせている」訳ではないことも多いです。
 しかし、もし、「自分の行動が観察されていたら…」と考えると、何も悪いことはしていないことに自信があっても、御不安になるのは分かります。
 そこで、今回は、人間の行動を最も詳細に把握することができるであろうGPSについて、捜査機関がどのように活用できるのかについて解説したいと思います。

GPSによる捜査は許されるのか?

1.強制処分法定主義

弁護士
岡本 裕明
日本の刑事訴訟法は、強制処分法定主義を採用しています。GPS捜査を理解するには、この概念を簡単に理解しておく必要があります。確認してみましょう。

 GPS捜査について検討するにあたって、最初に理解しておく必要があることがあります。それは強制処分法定主義という考え方です。まずは、条文を確認してみましょう。

刑事訴訟法

第197条1項
捜査については、その目的を達するため必要な取調をすることができる。但し、強制の処分は、この法律に特別の定のある場合でなければ、これをすることができない。

 この条文で重要となるのは、2文目です。つまり、「強制の処分」と解される捜査については、刑事訴訟法に定められていなければ、行うことができないのです。
 更に、「強制の処分」と解される捜査を行う場合には、必ず裁判所が発する令状が必要となります。このことを令状主義といいます。
 令状主義を採用すること自体を定めた条文は刑事訴訟法には存在しませんが、憲法第33条が逮捕について令状が必要となることを定めており、憲法第35条が捜索や押収との関係で令状が必要なことを定めています。そして、刑事訴訟法第200条が逮捕令状について、第219条が捜索差押許可状について定めています。
 以上のように、令状主義と強制処分法定主義は内容を異にする考え方なのですが、密接に関連している考え方です。
 令状主義さえ遵守すればいいのであれば、裁判所の許可さえ得られれば、どのような捜査も許容されることになりそうですが、強制処分法定主義が採用されていることとの関係で、法律に定めのない捜査手法について、裁判所が勝手に令状を発することは許されないのです。
 「強制の処分」にあたらない捜査のことを任意捜査と呼びます。任意捜査に該当する場合でも、何でも捜査できる訳ではなく、違法となることはあるのですが、まずは「強制の処分」に該当するかどうかで、適法に行える捜査かどうかを判断することになるのです。

2.「強制の処分」とは何か

弁護士
岡本 裕明
「強制の処分」に当たる場合には法律の定めや令状が必要となることがわかりました。では、どのような捜査が「強制の処分」にあたるのでしょうか。

 そこで、GPS捜査が適法に行える捜査かどうかを判断するには、GPS捜査が「強制の処分」にあたるかどうかを検討する必要があります。
 どのような場合に「強制の処分」にあたるのかについては、刑事訴訟法に定められている訳ではありません。判例によって「強制の処分」にあたるかどうかを判断するための解釈は確立しているのですが、毎年のように司法試験で出題される論点で、一概に説明することは難しいものとなっています。
 最高裁判所昭和51年3月16日は、「個人の意思を制圧し、身体、住居、財産等に制約を加えて強制的に捜査目的を実現する行為など、特別の根拠規定がなければ許容することが相当でない手段を意味するもの」を「強制の処分」と解しており、興味のある方は是非勉強してみていただければと思いますが、極めて雑に説明すると、対象者の意思を無視してその方の重要な権利を制約するような捜査を「強制の処分」というものと理解されています。
 典型的な「強制の処分」として、被疑者の身体を拘束する逮捕や、住居に侵入した上で物を探すことのできる捜索等があります。
 そこで、GPS捜査が、捜査の対象となる人間の重要な権利を制約するかどうかが問題となるのです。

3.強制捜査にあたるか

弁護士
岡本 裕明
「強制の処分」の内容はなんとなく理解できたでしょうか。では、実際にGPS捜査が「強制の処分」にあたるかどうかを考えてみましょう。

 「強制の処分」にあたる捜査のことを強制捜査といいます。そこで、GPS捜査が強制捜査にあたるのかについて考えてみましょう。 典型的な強制捜査で逮捕や捜索は、人を無理矢理拘束したり、人の意思を無視して住居に侵入したりすることとなります。一方で、GPS捜査は秘密裏に行われるものですから、人の意思を無視して無理矢理行う訳ではありませんから、強制捜査ではないかのように感じられるのではないでしょうか。ですから、GPS捜査については、強制捜査にあたらないと考える見解もありました。
 しかし、この点について最高裁判所平成29年3月15日判決は、「個人のプライバシーの侵害を可能とする機器をその所持品に秘かに装着することによって、合理的に推認される個人の意思に反してその私的領域に侵入する捜査手法であるGPS捜査は…刑事訴訟法上、特別の根拠規定がなければ許容されない強制の処分に当たる…、一般的には、現行犯人逮捕等の令状を要しないものとされている処分と同視すべき事情があると認めるのも困難である」と判示して、強制捜査にあたることを明らかにしました。

4.適法にGPS捜査を行う余地はあるか

弁護士
岡本 裕明
「強制の処分」にGPS捜査が該当するとすれば、刑事訴訟法上の定めがなければ、GPS捜査は行えない事になりそうです。そのような考えでいいのでしょうか。

 以上のとおり、最高裁判所はGPS捜査が強制捜査にあたることを明らかにしました。平成29年最高裁の事案は、19台もの自動車に対して6カ月半もの間、自動車の所有者などの承諾を受けることなく、令状も取得せずに大々的に行われた捜査に対する判断ではありますが、上述した判示によると、捜査を行う対象が小規模で短期間であったとしても、「私的領域に侵入する捜査手法」であることに変わりはありませんから、GPSを用いて行う捜査は基本的には強制捜査と理解されることになるでしょう。
 そして、上述したとおり、「強制の処分」については、刑事訴訟法に定めがなければ行うことができません。そうすると、GPS捜査について定めた条文は刑事訴訟法に存在しませんから、令状を取得してもGPS捜査を行うことは全面的に許されないように思われます。
 もっとも、我が国においては、薬物事件等において、被疑者が尿等の提出を任意に行わない場合において、強制的にカテーテルを挿入する等して、強制的に尿を採取する捜査が許容されていますが、刑事訴訟法には強制採尿という捜査手法が明示的に定められている訳ではありません。
 何故、強制採尿という捜査手法が許容されているかというと、尿という物を強制的に取得するという捜査手法であることから、刑事訴訟法に定めのある「捜索差押」の一種として考えられているからです。この点については、「採尿手続に応じるべきか」 を御確認ください。
 GPS捜査については、物の取得に向けられている訳ではありませんから、一種の捜索差押と考えた上で、強制採尿と同様に捜索差押令状によって行うことは許されないでしょう。
 平成29年の最高裁判決が出るまでは、検証令状を取得することによって適法にGPS捜査を行うことが可能であるとの考えも提唱されていました。
 平成29年最高裁判決も、「GPS捜査は、情報機器の画面表示を読み取って対象車両の所在と移動状況を把握する点では刑訴法上の『検証』と同様の性質を有する」と判示しています。
 しかしながら、同判決は続けて、「対象車両にGPS端末を取り付けることにより対象車両及びその使用者の所在の検索を行う点において、『検証』では捉えきれない性質を有することも否定し難い。」と説示し、「刑訴法197条1項ただし書の『この法律に特別の定のある場合』に当たるとして同法が規定する令状を発付することには疑義がある。」として、検証令状によって行うことも許されないと結論付けています。
 結果として、新しい法律が定められなければ、GPS捜査を適法に行うことは許されないとの結論が下されているのです。

5.GPS捜査と弁護活動

弁護士
岡本 裕明
GPS捜査については適法に行い得ないということが分かりました。では、弁護士や被疑者・被告人は、GPS捜査に対してどのような主張ができるのでしょうか。

 裁判所は、あくまで問題となっている事例を解決するための機関です。したがって、判決についても、その事案について有罪か無罪かを判断するための内容になります。GPS捜査が違法であるとの判断も、その事案で問題となったGPS捜査が違法だと判断しているのであって、その他の事案で行われた捜査について判断している訳ではありません。
 もっとも、上述した平成29年の最高裁判決は、GPS捜査の一般的な性質から、捜査の違法性を判示しています。平成29年の事案で問題となった、個別具体的な捜査に関する事情を理由に判断している訳ではありません。そうすると、平成29年の最高裁判決が出された以上、GPS捜査を適法とする裁判例が出ることはないものと言えます。
 一方で、違法な捜査が行われたことが、被告人の無罪判決に直結する訳ではありません。被告人が無罪であると主張するためには、違法な捜査の結果として入手された証拠の証拠能力を否定する必要があります。証拠能力が否定されることで初めて、被告人の有罪を立証することができないことになり、被告人に対して無罪判決が宣告されることになるのです。
 一般的にGPS捜査を行うことができないことが明らかになった以上、平成29年判決後にGPS捜査が行われた場合、捜査機関としては違法であることを前提に捜査を行ったことになるでしょうから、その結果として得られた証拠能力を否定することは可能そうです。
 もっとも、GPS捜査は、犯罪の直接の証拠を得るためというより、被告人の行動経路等を明らかにすることで、更なる捜査に繋げることを目的とする捜査という側面も認められます。つまり、被告人の犯罪を証明するための証拠は、直接的にはその他の捜査によって取得されることになるのです。
 仮に、GPS捜査が行われた形跡が認められるとする場合、弁護人としては、当該直接的な捜査が行われた前提として、GPS捜査が行われた可能性を指摘する必要があるものといえます。

6.まとめ

弁護士
岡本 裕明
GPS捜査の問題点は御理解いただけましたでしょうか。現時点では行えない捜査でも、将来的な法改正はあり得ますので、法改正に関する議論を見守る必要性があります。

 以上のとおり、現段階(令和6年9月)においては、適法にGPS捜査を行うことができないことについて、その理由を含めて解説させていただきました。
 今回のコラムを書いている段階では、GPS捜査を行うにあたって必要な法改正の動きはないように感じています。しかしながら、犯罪の捜査にあたってGPSが有用であることは否定できないように思いますので、今後、GPS捜査を適法とするための法改正が行われる可能性は十分に考えられます。
 その際には、GPS捜査の適法性について、捜査機関と弁護人との間で、激しい主張の応酬があり得るでしょう。先端的な問題となるでしょうし、法改正前の段階であっても、捜査の違法性を主張する際には、専門的な知識を有する刑事事件の弁護士のアドバイスが不可欠といえるでしょう。

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