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コラム

嘘発見器?ポリグラフについて。

簡単に言うと…
  • ポリグラフ検査は嘘発見器とも考えられているが、実際には、被検査者の認識を確認する検査である。
  • ポリグラフ検査の結果を裁判における証拠として提出することはできるが、証拠価値が高いものとは解されていない。
  • ポリグラフ検査を強制することはできないため、原則としては拒否するべきである。
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弁護士
岡本 裕明
被疑者の取調べに際してポリグラフが用いられることがあります。どのような捜査手法なのでしょうか。また、その結果はどれだけ証明力の高い証拠として取り扱われるのでしょうか。今回は、ポリグラフについて解説したいと思います。

 皆様は嘘発見器という機械を聞いたことがあるでしょうか。漫画等では、嘘発見器と称される機械を頭に装着し、装着した人間の発言が真実かどうかを確認するシーンが出てくることがあります。
 一方で、嘘発見器によって、真犯人が明らかとなり、真実解明に繋がったというような報道に接する機会はあまりないように思います。
 では、嘘発見器と称されるような機械を用いた捜査が行われていないかというと、決してそういう訳ではありません。皆様がイメージする嘘発見器と全く同じ性能を有する機械といえるかどうかは分かりませんが、捜査機関は被疑者の取調べを行う際に、ポリグラフ検査という検査を行うことがあります。
 どのような検査なのかについては後で説明をさせていただきますが、虚偽の供述かどうかを判断する検査であるという側面が認められることから、嘘発見器と称されるのも間違いではないように思われます。
 そのように便利な検査方法があるにもかかわらず、あまりそのような検査が決定的な要因となって、犯人を有罪とすることができたというような報道を目にする機会が少ないのは何故なのでしょうか。
 また、ポリグラフ検査が行われることとなった場合、被疑者としてはどうすればいいのでしょうか。
 今回は、ポリグラフ検査について解説させていただきたいと思います。

嘘発見器?ポリグラフについて。

1.ポリグラフ検査とは

弁護士
岡本 裕明
嘘発見器のようなものというイメージは間違っていませんが、ポリグラフ検査というものが、どのようなものなのかについて簡単に確認してみましょう。

 ポリグラフ検査とは一体どのような検査なのでしょうか。
 ポリグラフ検査とは、被検査者にいくつか質問を行い、その質問に回答した際の呼吸波、心拍数等の生理的反応から、質問された内容について被検査者が認識しているかどうかを判定するものです。
 被検査者が知っているはずのことを「知らない」と回答した場合において、本当にその事実を認識していないのかどうかを検査するという意味では、嘘発見器と言えなくもないのですが、あくまで被検査者が認識しているかどうかを判定するための検査でしかありませんので、一般的に被検査者の供述が虚偽かどうかを判定することを目的とするものではありません。
 多くの場合は、被検査者に対して、質問に全て「いいえ」と答えるようにしてくださいと伝えた上で質問をすることになります。ですから、被疑者に自由に供述をさせた上で、その供述に虚偽の説明が含まれているのかどうか、何についての説明の際に嘘をついているかという点を判定することはできませんし、ある程度捜査機関側に情報がなければ、被検査者に「いいえ」と答えさせる質問を準備することもできないのです。
 もっとも、犯人しか知り得ない事実に関する質問を行い、ポリグラフ検査の結果として、被検査者がその事実を認識していると判定できた場合、捜査機関としては被検査者が犯人であると考える有力な根拠となるでしょう。

2.ポリグラフ検査結果の証拠能力

弁護士
岡本 裕明
万能な検査ではないことは御説明差し上げました。それでも捜査手法として有効な検査のように考えられます。それでも、ポリグラフ検査の結果として、犯人の有罪を明らかにすることができた旨の報道等を目にする機会が少ないのは何故なのでしょうか。

 このように、ポリグラフ検査に際して被検査者に質問できる内容は限られていますから、全ての事件でポリグラフ検査が有効に機能するとまではいえません。しかし、被疑者の供述の真偽を判定することができるのであれば、もっと多くの裁判で証拠として用いられてもいいように思います。
 しかし、裁判においてポリグラフ検査の結果が決定的な証拠となって有罪判決が宣告された旨の報道を目にする機会はないように思いますし、実際に刑事事件を多く扱う弁護士であっても、ポリグラフ検査の結果が証拠として裁判所に提出された事件を扱う機会はほとんどありません。
 一方で、取調べに際してポリグラフ検査が行われたという御相談を受けることは珍しくありません。つまり、警察官は捜査の過程でポリグラフ検査を行っているにもかかわらず、その結果が裁判所に証拠として提出されることが多くないということになります。
 何故なのでしょうか。
 ポリグラフ検査の結果について科学的な正確さが不足していると考えられている場合には、そもそもポリグラフ検査の結果を証拠として用いることは許されません。誤った結果に基づいて冤罪が発生してしまう可能性があるからです。
 しかし、最高裁判所昭和43年2月8日決定は、「(原審が)ポリグラフ検査結果回答についてと題する書面…について、その作成されたときの情況等を考慮したうえ、相当と認めて、証拠能力を肯定したのは正当である。」と判示しています。
 原審である東京高等裁判所昭和42年7月26日判決は、「ポリグラフ器械の規格化及び検査技術の統一と向上に伴い、ポリグラフ検査結果がその検定確率の上昇を示しつつあることなどにかんがみると、一概にこれが証拠能力を否定することも相当でない。」と判示していますから、ポリグラフ検査には科学的な正当性があるものと考えられているはずです。

3.ポリグラフ検査結果の証拠価値

弁護士
岡本 裕明
ポリグラフ検査の結果を証拠として提出することが可能なのであれば、何故裁判においてポリグラフ検査の結果が活用されないのでしょうか。裁判例を確認してみましょう。

 以上のように、ポリグラフ検査を刑事裁判における証拠として用いることは許容されているのです。では、何故ポリグラフ検査の結果が証拠として用いられることが少ないのでしょうか。
 それは、先程の東京高等裁判所の判決も「ポリグラフ検査結果の確実性は、未だ科学的に承認ざれたものということはできず、その正確性に対する(第三者の)判定もまた困難である」と判示しているように、証拠として使用することは許されるとしても、その検査結果のみを重視して有罪と判断できるほどでもないと考えられているからです。
 先程紹介した事例は昭和46年のものです。現時点ではポリグラフ検査の確実性も向上されているはずです。とはいえ、大阪母子殺人放火事件差戻控訴審判決(大阪高等裁判所平成29年3月2日判決)も、「ポリグラフ検査は…科学的な検査といえるものの、個々の質問内容がなぜ被検者に心理的作用を及ぼして生理的な反応を生じさせたのかという理由までを完全に特定するものではないから、これによって被告人の内心の認識を推し量ろうとするには限界があり…本件ポリグラフ検査を、犯人性推認のための間接事実に加えることはできない。」などとして、ポリグラフ検査の結果を犯人性を判断する際に用いないこととしています。
 証拠として提出することが許されても、その証拠を有罪とするかどうかの判断の際に使ってもらえないのでは、証拠として提出する意味がありません。
 このような理由で、実際に捜査段階でポリグラフ検査を行っていても、その検査結果は裁判所に証拠として提出されていないのです。
 このことは、被告人の無罪を主張する場合も同様です。例えば、名古屋地方裁判所平成26年7月10日判決は、ポリグラフ検査の結果から、被告人は犯人ではないと認められる旨の弁護人の主張について、ポリグラフ検査において反応が出なかったことから、被告人が犯人でないと認めることはできないとして排斥しています。

4.ポリグラフ検査の実施方法

弁護士
岡本 裕明
ポリグラフ検査自体のもつ問題点について説明しました。ポリグラフ検査を検討するにあたっては、実施方法についても問題となることが多いです。それは何故でしょうか。

 以上のように、ポリグラフ検査は科学的に根拠のある検査手法であることは認められているものの、その検査結果によって被告人の犯人性を認めることができる程度には信用されていないといえます。
 このような結論が導かれる背景には、ポリグラフ検査自体がDNA鑑定等の他の科学的操作と比較して、科学的な確実性が不足しているという点もあるように思われますが、ポリグラフ検査の実施の仕方が難しいという側面もあるように思われます。
 上述した裁判例については、ポリグラフ検査についての一般論について論じた部分のみを紹介させていただいておりますが、裁判例の原文を確認していただけると、ポリグラフ検査の実施の仕方に問題があったために、証拠価値を十分に認めることができない旨も説明されています。
 冒頭でお伝えしたとおり、ポリグラフ検査は、質問された内容について被検査者が認識しているかどうかを判定するものです。犯人しか知り得ない内容について、ポリグラフ検査の結果、被検査者がその事実を認識していることが明らかとなった場合でも、捜査の過程で被疑者がその事実を知る機会があった場合には、ポリグラフ検査の結果を理由に、被検査者が犯人であると認めることはできないのです。
 細かくは説明しませんが、ポリグラフ検査の結果が、実際の非検査者の認識と異なる結果となってしまう要因は他にも存在します。このことも、ポリグラフ検査結果を裁判において用い難い理由となっていると思われます。

5.ポリグラフ検査と弁護活動

弁護士
岡本 裕明
では、弁護人として選任された場合、どのようなサポートを弁護士は行えるのでしょうか。

 以上のとおり、ポリグラフ検査の結果を理由に、有罪判決が下される可能性は大きくありません。とはいえ、技術的な問題点は日々改善されていきますので、今後もこれまでの裁判例と同様の判断が続くとは限りません。
 ポリグラフ検査の結果が証拠として提出された場合には、その正確性について十分に吟味した上で、検査結果が不当に重視されることのないよう、公判において争う必要があります。
 一方で、現段階においても、証拠として提出されることが少ないとしても、ポリグラフ検査が実際に行われること自体は珍しくありません。そこで、ポリグラフ検査が行われた場合の対応について考えておく必要があります。
 まず、ポリグラフ検査を行う際に、捜査機関は被検査者の承諾をとる必要があります。ポリグラフ検査を強制的に受けさせるということはできません。逮捕状や捜索差押令状のように、被疑者にポリグラフ検査を強制的に受けさせるための令状はないのです。
 そうだとすると、ポリグラフ検査については基本的に拒否するのが無難だといえるでしょう。
 科学的な捜査ですから、被疑者に自白させるように仕向けることは単純な取調べより難しいようにも感じます。また、ポリグラフ検査の結果が、御自身の供述に沿う内容となることに期待する気持ちも分かります。
 しかしながら、質問の仕方等によって、一定の方向に結果を誘導しようと試みることは可能です。何より、その結果がどのように使われるのかについて、弁護人や被疑者側としてコントロールができませんから、不必要に捜査機関に情報を与える必要はありません。

6.まとめ

弁護士
岡本 裕明
ポリグラフ検査の問題点は御理解いただけましたでしょうか。

 ポリグラフ検査について解説をさせていただきました。有用な検査であることは否定できず、捜査の過程で行われることは珍しくありませんが、裁判における証拠として用いられることが少ない理由を御理解いただけたのではないでしょうか。
 もし、ポリグラフ検査を受けさせられた等の状況にある場合、是非早めに御相談いただければと思います。

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