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コラム

クレプトマニアや性嗜好障害等の依存症とアルコールや薬物への依存症の違い

 私は、刑事事件に特化する事務所のアソシエイト弁護士として弁護士としてのキャリアをはじめ、早い段階でクレプトマニアに苦しむ御依頼者様とお話しする機会がありました。そして、その際に不起訴処分を得ることができ、刑事弁護の専門誌にも寄稿させていただいたこともあります。そのような経緯もあって、クレプトマニアに苦しむ方やその御家族からの依頼も多く、これまでのコラムでもクレプトマニアを取り扱ってきました(クレプトマニアについてはこちらを、クレプトマニアの責任能力についてはこちらを御確認ください)。
 依存してしまう危険性のある犯罪行為は万引きだけではありません。御相談いただくことが多いものとして、性嗜好障害があります。性嗜好障害に苦しむ方の中には、痴漢や盗撮等の犯罪行為に依存してしまっている方も多くいらっしゃいます。
 このような依存症の影響によって犯罪行為に及んでしまった場合、責任能力が否定されて無罪の判決が宣告されることはほとんどありませんが、情状の中で、被告人の刑事責任を軽くする方向に作用する事情として取り扱っていただける場合が多いように思います。一方で、通常の場合、特定の犯罪行為を繰り返しているケースにおいては、「常習性」が認められるものとして、刑事責任を重くする事情として取り扱われることが一般的です。また、薬物やアルコールへの依存が理由となっている場合も、刑事責任を軽くする事情とは評価されていません。
 今回のコラムでは、依存症の内容によって、何故その扱われ方が変わってくるのかについて考えてみたいと思います。

常習性

依存症治療のイメージ画像

重要な事実として扱われている

 依存症について検討する前に、同種の犯罪行為が繰り返されるのは、依存症に苦しんでいる方が被疑者となる場合だけではありません。他にも、常習的に同種の犯罪行為に及んでしまうケースは考えられます。
 そこで、この常習性という概念について検討したいと思います。
 同種の犯罪行為についての常習性が認められる場合であっても、起訴されている行為が一つである場合、その犯罪行為だけに着目すれば、常習的に行われていた犯罪行為の一部であるかどうかによって、侵害されている法益の大きさは変わりません。
 にもかかわらず、常習性は、刑罰を重くする事情として扱われています。そして、常習性は、単なる悪い情状事実として扱われるのではなく、より重い法定刑が定められている罪名を成立させる要素として扱われている場合もあるのです。

刑法

第185条
賭博をした者は、50万円以下の罰金又は科料に処する。ただし、一時の娯楽に供する物を賭かけたにとどまるときは、この限りでない。
第186条 1項 常習として賭博をした者は、3年以下の懲役に処する。
暴力的行為等処罰ニ関スル法律
第1条ノ3 常習トシテ刑法第204条、第208条…ノ罪ヲ犯シタル者人ヲ傷害シタルモノナルトキハ1年以上15年以下ノ懲役ニ処シ其ノ他ノ場合ニ在リテハ3月以上5年以下ノ懲役ニ処ス
盗犯等ノ防止及処分ニ関スル法律
第2条 常習トシテ左ノ各号ノ方法ニ依リ刑法第235条、第236条…ノ罪又ハ其ノ未遂罪ヲ犯シタル者ニ対シ竊盗ヲ以テ論ズベキトキハ3年以上…ノ有期懲役ニ処ス
1号 兇器ヲ携帯シテ犯シタルトキ
2号 二人以上現場ニ於テ共同シテ犯シタルトキ
3号 門戸牆壁等ヲ踰越損壊シ又ハ鎖鑰ヲ開キ人ノ住居又ハ人ノ看守スル邸宅、建造物若ハ艦船ニ侵入シテ犯シタルトキ
4号 夜間人ノ住居又ハ人ノ看守スル邸宅、建造物若ハ艦船ニ侵入シテ犯シタルトキ
第3条  常習トシテ前条ニ掲ゲタル刑法各条ノ罪又ハ其ノ未遂罪ヲ犯シタル者ニシテ其ノ行為前10年内ニ此等ノ罪又ハ此等ノ罪ト他ノ罪トノ併合罪ニ付3回以上6月ノ懲役以上ノ刑ノ執行ヲ受ケ又ハ其ノ執行ノ免除ヲ得タルモノニ対シ刑ヲ科スベキトキハ前条ノ例ニ依ル

 これらの条文は、賭博罪、傷害罪や窃盗罪等との関係で、常習性が認められる場合に、より重い犯罪を成立させる旨を定めています。したがって、「常習性」という要素は、単なる悪情状を超えたものとして扱われることもある訳です。

刑罰を重くする要素として扱われている理由

 では、「常習性」はどうして、そこまで重要な事実として扱われているのでしょうか。既に述べたとおり、1つの犯罪行為を前提として考えた場合、その行為が常習的な行為の一部として行われたかどうかによって、侵害された法益の大きさには影響はないはずです。
 この点については、「常習性」が認められる場合には、通常よりも高度な再犯可能性が認められるため、特別予防の観点から重い刑事罰を科す必要があると理解されています(異なる見解もあり得ます)。つまり、再犯を防ぐために、通常よりも重い刑罰が必要となることが理由だと理解されているのです。

依存症の場合

刑事事件を中心に弁護活動を行う弁護士のイメージ画像

「常習性」が認められるか 

 依存症を理由に、同種犯罪を繰り返してしまう場合、「常習性」があると認められるのでしょうか。
 「常習性」とは、特定の行為を反復累行する習癖を内容とする行為者の属性と理解されています。そこで、特定の犯罪行為に依存していることを「習癖」と評価できるかが問題となりますが、依存症は特定の行為を繰り返してしまう理由に過ぎませんから、依存症であると認められた場合であっても、特定の行為を反復累行していることに変わりありません。
 特に、クレプトマニアは病的窃盗癖とも訳されており、病的な習癖とも理解されていますし、裁判所も「機会があれば、抑制力を働かせることなく安易に窃盗を反復累行するという習癖」があれば「常習性」を認定できると判示していますので(東京高判平成10年10月12日)、依存症の影響によって特定の犯罪を繰り返してしまう場合であっても、「常習性」を否定するのは困難なように思います。

依存症について、刑罰を重くする事情として評価している裁判例

 違法な薬物を常習的に使用していた被告人に対して判決を宣告する場合、薬物に依存している事実は、被告人の刑事責任を重くする事情として評価されていることがほとんどです。
 例えば、東京地判令和元年9月10日は、覚醒剤取締法違反等の事案について「…被告人の覚せい剤に対する親和性、依存性は高い…被告人の刑事責任は重く、実刑に処することも十分に考慮すべき事案といえる」と判示しています。このような表現は極めて一般的なもので、被告人の刑事責任を重くする事情を列挙する中に、違法薬物に対する親和性や依存性が高いという事実は、必ずと言っていいほど含まれています。
 一方で、同裁判例は、被告人が薬物依存の治療を受けていることなどを理由に、「
具体的に更生環境を整えていること…を踏まえると…被告人の更生を助けるためには、猶予の期間中被告人を保護観察に付すことが相当である」として、執行猶予付きの判決を宣告しています。
 つまり、依存症については悪情状として評価した上で、その治療を行っており、更生環境が整備されていることについては、被告人に有利な情状として評価しているのです。 

依存症について、刑罰を軽くする事情として評価している裁判例

 同様に、クレプトマニア等、犯罪行為自体に依存しているものと認められるケースにおいても、熱心に治療を行っており、更生環境が整備されている点について、被告人に有利な事情として評価するケースは多く見られます。
 一方で、依存症自体についても、上述した薬物依存のケースと同様に、悪情状として評価しているように読めるケースが多いように見られます。保護観察中に再度万引きに及んでしまった被告人に対して、罰金刑という寛大な刑罰を言い渡した松戸簡判平成27年11月25日は、「
被告人には窃盗の常習性が認められ、規範意識も相当鈍麻しているというべきであり、被告人を懲役1年6月に処すべきであるとの検察官の意見も、一般的な科刑意見として十分合理性がある」と判示しており、常習性が認められる根拠がクレプトマニアであること自体を、被告人に有利な事情としては評価していません。
 もっとも、東京地判平成27年5月12日は、被告人がクレプトマニアに罹患していたことについて、「自分の衝動を制御することが難しい状態にあった上に、将来への不安が重なったことで、本件当時は自分の窃盗の衝動を抑えきれないまま犯行に及んだと認められる。このことは被告人への責任非難を低減させる事情であり、犯情面において考慮するのが相当といえる。」として、治療等による更生環境の問題とすることなく、被告人に有利な情状として評価しています。

依存症毎の弁護活動

 以上のように依存症に罹患している事実について、裁判所がどのように判断するのかはケースバイケースとしか言いようがありません。万引きについての依存症であるクレプトマニアだけを切り取ってみても、画一的な判断がなされているとは言えませんから、他の依存症も併せて考えれば、依存症が被告人に不利な事情として考慮されるのか、有利な事情として考慮されるのかについても、一律に判断することはできないのです。  
 特に、薬物との関係については、更生環境が十分に整備されていた場合であっても、依存症との認定は、被告人に不利な事情として作用することが多いと言えるでしょう。 
 とはいえ、依存症が問題となる事案においては、再犯率が高く認められますし、依存症かどうかの認定とは別に、常習的に同種犯行が行われていたことが裁判所に認められてしまえば、何らの手立てもなく弁護活動に及んだ場合、必要以上に重い刑罰を言い渡されることになりかねません。  
 また、適切な治療環境等は保釈の許可等にも繋がり得ます。特に、依存症が問題となるケースの場合、その犯罪自体は比較的軽微な内容であっても、同じ内容が繰り返されていることを理由に、逮捕・勾留されてしまうケースも多いのです。  
 特定の行為や物質に依存が認められる場合には、依存症という側面を強調して弁護活動を行うのか、強調する場合にどのように更生環境を整備するのか等について、刑事事件の弁護士に求められる役割は極めて大きいものといえるでしょう。

まとめ

 以上のとおり、常習性が認められるような場合において、常習性自体は被告人の悪情状として取り扱い、依存症が常習性の原因となっている場合、その治療環境が整備されていることを被告人に有利な情状として扱うというケースが多いようです。一方で、依存症の影響によって、責任能力が否定されるレベルには至らなくとも、自身の衝動を制御することが困難であったとして、依存症による影響があったこと自体を有利な情状として扱う裁判例も存在します。
 もっとも、薬物やアルコール等の物質に依存している方との関係においても、当該物質に依存することが良くないことは十分に理解していながらも、その症状によって薬物等を摂取する行為を制御できないという場合は多く見られます。クレプトマニアのケースと同列に扱うのであれば、このようなケースについても、自身の衝動を制御することが困難であったとして、被告人に有利な情状として扱うべきようにも思いますが、そこまでに薬物に依存している被告人のケースにおいて、依存症の存在が被告人に有利な事情として評価している裁判例は見当たりませんでした。
 結局、この点についての実務の扱いは、しっかりとした理由付けが背景にあるとまでは言えないのだと思っています。
 弁護人としては、依存症の影響によることだけ主張するのではなく、その更生環境についても整備されていることを主張する必要がありますが、そもそもそのような依存症に罹患していること自体が被告人に有利な事情(少なくとも、「常習性」という悪情状の評価を打ち消す事情)になるのではないかという点についても、十分に主張する必要があるのではないでしょうか。

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