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コラム

職務質問は断ることができない?特殊詐欺の受け子に対する長時間の職務質問について。

 「オレオレ詐欺」という単語が市民権を得た後、警視庁が新名称を公募する等(その結果として選ばれた「母さん助けて詐欺」は浸透しませんでしたね)、ここ10年の間、特殊詐欺は重大な犯罪行為として、常に警戒されてきました。警察署や銀行に行くと、特殊詐欺に騙されることがないように注意するポスターがあちこちに貼られていますし、ATMを操作する際にも、そのような注意事項が表記されています。
 これは、特殊詐欺が珍しい犯罪ではなく、いつでも誰でも被害に遭う可能性のある犯罪類型であることに加えて、一度被害に遭ってしまうと、その被害金額は相当に高額となることが多く、特殊詐欺の犯人として逮捕・起訴されるのも、犯罪組織の下っ端の人間でしかないことが多く、組織の上位の人間にまで捜査の網が及ばないことが多いため、被害者に対する賠償が期待できず、被害者の被った甚大な経済的損害を回復することができないことから、捜査機関としても重点的な啓発活動を行っている訳です。
 コロナウイルスの蔓延に伴い、助成金等を名目とした特殊詐欺の事案が多く報道されました。また、先週は、特殊詐欺の受け子を担ったと思料される女性が、大量の現金が入ったトランクケースを所持していた際に警察官から職務質問を受け、長時間に及びその場に留めさせられた上、最終的に逮捕されたという事案が大きなニュースとなっていました。職務質問の際の様子等も報道されており、逮捕令状がない状況下で長時間の職務質問を強制している点について、多くの方が様々なコメントを寄せていました。
 このような職務質問に続く留め置きの手続は、違法薬物に関する事件の捜査においてよく問題となりますが、このような詐欺の事件で問題となるケースは、これまで多くなかったように思います。今回は、このような職務質問に引き続いて行われる、留め置きの適法性について解説させていただこうと思います。

職務質問について

職務質問をしている画像

条文の内容

 まず、一般的な用語として皆さんも聞き馴染みがあるであろう「職務質問」について、我が国の法律がどのように規定しているのかを確認してみましょう。

警察官職務執行法

第2条
1項 警察官は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者又は既に行われた犯罪について、若しくは犯罪が行われようとしていることについて知つていると認められる者を停止させて質問することができる。
2項 その場で前項の質問をすることが本人に対して不利であり、又は交通の妨害になると認められる場合においては、質問するため、その者に附近の警察署、派出所又は駐在所に同行することを求めることができる。
3項 前二項に規定する者は、刑事訴訟に関する法律の規定によらない限り、身柄を拘束され、又はその意に反して警察署、派出所若しくは駐在所に連行され、若しくは答弁を強要されることはない。
4項 警察官は、刑事訴訟に関する法律により逮捕されている者については、その身体について凶器を所持しているかどうかを調べることができる。

 つまり、警察官職務執行法(以下、「警職法」といいます。)は、何らかの犯罪を犯したのではないかとの疑いのある者に対して、「停止させて質問する」ことを認めています。そして、「何らかの犯罪を犯し」たとの嫌疑については、対象者の挙動が不審であったこと等でも足り、かなり緩やかに解釈されています。
 今回のような事件においても、大量の現金を所持した特殊詐欺の女性被疑者がいることについて、被害者からの通報によって捜査機関は認識していた訳ですから、その人着が似通っていた女性に対して職務質問を行うことは、適法な行為と言っていいでしょう。
 また、本件における捜査機関は、トランクの中身を確認させて欲しいと執拗に打診しています。このような捜査手法を所持品検査と言います。所持品検査を許容する明文の条文は存在しませんが、職務質問に伴う行為として適法に行えるものと解されています。

許容される範囲

 問題は、今回の事案のように、職務質問を明らかに拒絶している場合において、その場に留め置き、職務質問に応じるように長時間にわたって説得することは可能かということです。この点の理解次第では、職務質問や所持品検査を断ることは事実上不可能なものと考えざるを得ません。
 この点について、警職法第2条3項は、刑事訴訟に関する法律の規定によるような身体拘束等を行えない旨を定めています。ですから、実質的には逮捕と評価され得るような強固な身体拘束を行うことは、職務質問や所持品検査の過程では許されないことになります。
 例えば、職務質問を受けた対象者が逃走を図ろうとしたため、被疑者の腕をつかんで転倒させて地面に押さえつけたような事案については、逮捕令状がないにもかかわらず、逮捕と同じような行為をしたものとして違法だと考えられています(大阪地判平成29年3月24日判例時報2364号126頁等)。
 逆に、警察官が、対象者の腕を掴む等、何らかの有形力を対象者に対して行使したとしても、そのことのみをもって違法だと判断される訳ではありません。上述した裁判例における事案のように、実質的な逮捕とみなされるようなものを除けば、そのような捜査を行う必要性や緊急性等の諸事情を考慮した上で、適法なものと判断されるケースもあるのです。
 つまり、逮捕と同レベルの強度の身体拘束については、必要性・緊急性等を考慮するまでもなく許されないと解される一方で、逮捕と同レベルと評価できないケースであっても、その必要性や緊急性等が認められない場合には、その捜査は違法と解されるのです。 
 今回の事件については、報道で確認できた映像を見る限り、捜査機関が被疑者の身体を直接掴むようなシーンは見受けられませんでした。したがって、逮捕と同レベルの行為が行われたと評価することはできず、このように大人数の警察官で取り囲み、長時間その場に留め置くような行為が、必要性・緊急性の高いものと認められるかどうかによって、捜査行為の適法性は判断されることになるのです。言い換えると、必要性・緊急性が認められるようなケースにおいては、事実上、職務質問を断ることは困難になるものと言えます。

薬物事件の場合

 職務質問から引き続いて長時間の職務質問が行われがちな犯罪類型として、違法な薬物の所持や使用が疑われているケースが挙げられます。このような事案の場合、警察官としては、一度でも対象者を目から離すと、所持していた違法な薬物を投棄されかねないので、任意に警察署への同行を求める等、かなり強引な説得行為が行われることになります。
 この手の事案は、従前からかなり多く発生しており、裁判例も多く存在します。
 上述したように、逃走を試みた対象者を無理矢理捕まえるような行為については違法な捜査と解されるものが多いと言えます。一方で、警察官が対象者を取り囲むことによって、事実上対象者がその場を離れられないようにする手法については、5時間を超えるようなケースにおいても、適法と判断されるものもあります(東京高判平成26年5月16日等)。
 では、そのように長時間にわたって対象者を留め置く必要性は、どのような事情から認められるのでしょうか。
 薬物事犯の場合、その嫌疑が高まった後の手続としては、強制採尿令状の発付を受け、その令状を執行することになろうと思います。そして、その令状が発付される前は、任意採尿に応じるように説得するために、その場に留め置く必要性が問題となり、令状が発付された後については、その令状を適切に執行することができるようにその場に留め置く必要性が問題となるのです。
 確かに、その場から逃げられてしまい、所在が不明となってしまった場合には、令状が発付されたとしても、その令状を執行することはできません。とはいえ、その令状を執行できるようにするためには、対象者をその場に留め置く必要性までは認められず、対象者を追尾・監視することによっても、令状を執行することは可能です。
 実際に、留め置きの必要性や緊急性が高度に認められないことを理由に、その場に留め置かせるのではなく、一時的に対象者を自由にした上で、対象者を追尾・監視し、令状が手元に届いた段階で、強制的な手続に着手するという運用も広まってきているようです。

詐欺事件の場合

証拠隠滅行為によって生じる損害

 これまで薬物事件における職務質問やその後の留め置きについて解説させていただきました。薬物事件の場合、数時間の間に体内から違法な薬物が消失することは考えにくく、対象者を一時的に自由にさせることによって、強制採尿という捜査の目的が達成できなくなることはないように思います。
 逆に、違法な薬物を使用したという嫌疑ではなく、違法な薬物を所持しているという嫌疑が高まっていた場合、対象者を自由にさせることで、その間に所持していた違法な薬物を投棄されてしまう可能性があります。しかしながら、この点についても、警察官が対象者の動静を厳密に監視することで十分であり、対象者を長期間留め置く必要まではないとの裁判例が存在します(札幌高判平成26年12月18日)。
 詐欺事件においても、証拠品を投棄されてしまった場合、対象者の犯罪を証明する核となる証拠が失われてしまいます。また、薬物事案の場合と異なり、今回のような詐欺事件においては、対象者が所持していた現金が所在不明となることによって、被害者の方の経済的損害を回復させることが困難となってしまうことも懸念されます。
 本件においては、報道によると8000万円以上の大金を対象者は所持していたようです。被害者に対する賠償金原資を確保するためにも、警察官としては、対象者を自由にするべきではないと判断したのだと思います。

必要性・緊急性の判断

 つまり、薬物事件と比較すると、今回の事件のような場合、対象者をその場に留め置く必要性・緊急性が高度に認められるということになりそうです。しかし、よくよく考えてみると、8000万円以上の現金について、警察官の追尾・監視下において投棄することはほとんど不可能なのではないでしょうか。あのように大きなトランクを、警察官に露見されることなく、隠すことはまず不可能でしょう。トランクの中の現金だけを隠匿する方法も容易に想像できません。
 上述した札幌高判が、警察官による厳重な監視を行えば、薬物に関する証拠隠滅行為も防げると判断していることからすれば、対象者がどのような言動に及んだとしても、トランクケースの中に保管していた大量の現金を処分するということは不可能なように思います。
 ですから、対象者に対して捜査を継続する必要性は高度に認められるとしても、やはり、その場に留め置くような捜査の方法については、必要性がないものとして、違法なものだと判断されるべきように思います。

まとめ

 今回は、職務質問及びそれに引き続いて行われる留め置きの適法性について解説させていただきました。上述したとおり、受け子が所持している現金を確保することで、被害者の方の損害を賠償させるための原資の確保に繋がりますから、薬物事犯と比較して、詐欺事件の嫌疑が認められる対象者に対する留め置きの必要性が一般的に低いとまでは言えないように思います。一方で、個別の事案毎に、証拠が隠滅される可能性等も踏まえて、職務質問に続く留め置きの必要性については慎重に判断される必要があります。
 他方で、職務質問及び職務質問に続けて行われる留め置きについては、逮捕と同視されるような強力な身体拘束は認められず、あくまでも任意の手続になります。にもかかわらず、実際には、職務質問に応じることは義務的であるかのように理解されており、警察官に取り囲まれた場合に、警察官の説得を無視して、その場を立ち去ることは事実上困難です。それは、立ちふさがる警察官を振り切るために、何らかの暴力とみなされる行為をすれば、公務執行妨害の罪によって現行犯逮捕されかねないからです。
 上述したように、警職法は職務質問について簡単な規定しかおいていませんし、所持品検査に至っては条文も明記されていません。治安維持や適切な捜査のために、職務質問という行為の有用性自体を否定するつもりはありませんが、現状のように、事実上職務質問に応じることが義務的であるかのような運用は看過できないものと思います。
 
今回の事件について、対象者が留め置かれている最中に、電話で弁護士に相談する等していたかは不明ですが、もしこのような状況に陥った場合には、直ちに御相談いただければと思います。適切な処置についてアドバイスさせていただきます。

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