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コラム

万引きがやめられない…万引き行為に依存してしまう「クレプトマニア」を解説。

 万引き。多くの犯罪行為の中で、最も身近なものではないでしょうか。れっきとした犯罪行為であるにもかかわらず、被害者が個人ではなく法人の経営する店舗であることが多いことや、1つ1つの被害額が小さいこともあって、安易に犯行に及んでしまう方が少なくありません。  万引きは窃盗罪の一種ですが、薬物犯罪や性犯罪と同様に、再犯率の高い犯罪行為としても知られています。多くの場合は、最初に捕まった際に、逮捕等をされることなく、刑罰も科されないことが多いため、万引きの違法性を軽く見てしまい、再犯に及ぶケースが多いものと思われます。  しかし、中には、万引き行為に依存してしまい、十分に反省していても、万引き行為を辞められない方もいらっしゃいます。  そのような症状を、病的窃盗癖(クレプトマニア)といいます。  最近では、クレプトマニアという精神疾患の認知度も高まってきており、相談の際に、クレプトマニアを理由に刑事処分を軽くして欲しいとの相談も多くなってきましたし、実際に、クレプトマニアの影響による犯行であることを検察官や裁判官に主張するケースも多々経験しております。  そこで、今回のコラムでは、クレプトマニアについて解説させていただきます。

クレプトマニアとは何か

盗みたいという衝動を抑えられない病気である

 クレプトマニアは精神疾患の一種と理解されています。そして、精神疾患の診断については、DSM(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders )というマニュアルによって行われることが多く、その中でクレプトマニアは、「他のどこにも分類されない衝動制御の障害」に分類されています。つまり、典型的な精神疾患ではなく、非典型的なものと理解されているのです。  そして、DSMは、クレプトマニアの基本的な特徴として、次の5点を列挙しています。

高橋三郎訳『DSM-Ⅳ 精神疾患の診断・統計マニュアル』614頁

① 個人的に用いるものでも、金銭的価値があるものでもないのに、物を盗もうとする衝動に抵抗できないことが繰り返されること ② 万引きの際に緊張の高まりを自覚していること ③ 万引きの際に、快感や満足、開放感を感じること ④ 怒りや報復が犯行の目的となっておらず、妄想や幻覚によるものでもないこと ⑤ 行為障害、躁病、反社会性人格障害では説明できないこと

以上の項目に該当した場合には、クレプトマニアである可能性が高いといえるでしょう。

 一方で、全ての項目を完全に満たさなければ、クレプトマニアに該当しないという訳ではありません。駄菓子等の万引きが止められないケースにおいて、万引き後にその駄菓子を食べていた場合、「個人的に用いる」という点を厳格に解釈すると、クレプトマニアに該当しないことになりそうですが、そのように理解すると、万引きした商品を全て捨てているような場合以外は、クレプトマニアに該当しなくなってしまうからです。

早期の受診が求められること

 万引きについての御相談を多く受ける中で、明らかにクレプトマニアではないにもかかわらず、クレプトマニアを理由に減刑を求める弁護活動を依頼されることもあります(例えば、転売目的でキャラクター商品を盗み続けていた場合等です)。ですから、常習的に万引きを行ってきた方の弁護活動を行う際に、常にクレプトマニアを主張する訳ではありません。  クレプトマニアであるとは言い難い場合に、クレプトマニアを理由に減刑を求めてしまうと、十分に自分の行為を省みることができていないという評価にも繋がりかねないからです。  一方で、上記診断基準の中で、躁病や反社会性人格障害等に該当しないことなどについては、専門医の診断を経なければ、御自身で判断することは極めて困難です。ですから、クレプトマニアであることを理由に減刑を求めるかどうかはともかく、クレプトマニアの可能性がある場合には、速やかに専門医の診断を受ける必要があります。  それは、クレプトマニアについての専門性を有する医師や病院の数は、まだまだ極めて限られており、非常に多忙であるため、直ちに初診の予約を取ることが困難だからです。クレプトマニアである可能性が低いと診断された場合であっても、万引き行為を繰り返してしまう原因について、専門医と共に振り返る重要な機会となります。  ですから、万引き行為を繰り返してしまう方は、一度、専門医に御相談されることをお勧めしますし、私どもに御相談いただいた場合に、病院を御紹介させていただくことも可能です(私どもから紹介させていただくことで、早期の受診が可能になることを御約束するものではありません)。

責任能力の問題となり難いこと

 クレプトマニアだと認められた場合、クレプトマニアは精神疾患の一種ですから、精神疾患の影響によって万引きをしてしまったことになります。  精神疾患の影響によって犯罪行為に及んだ場合、責任能力の問題が生じ得ます。つまり、刑法第39条は、1項で、「心神喪失者の行為は、罰しない。」と定めており、2項で「心神耗弱者の行為は、その刑を減刑する」と定めていますから、心神喪失者と認められれば、刑罰が科されないことになる訳です。  しかしながら、クレプトマニアを理由に責任能力が否定されることはほとんどありません。当然、その症状が深刻な場合に、責任能力を争う弁護活動は必要になりますが、心神耗弱の状態とも認められない場合であっても、減刑することが相当であると、検察官や裁判官に理解させる弁護活動が求められるのです。

クレプトマニアの裁判例

クレプトマニアであることを理由に、寛大な刑罰が科されたもの

 クレプトマニアの影響下によって、万引きを行ってしまったことが明らかとなった場合であっても、それだけで有利な情状となる訳ではありません。万引きを繰り返してしまった原因が明らかとなったに過ぎないからです。  では、クレプトマニアの影響下で万引き行為に及んだ事案において、寛大な刑罰を科した裁判例は、どのような内容を理由にしたのでしょうか。  東京地判平成27年5月12日(平成27年(刑わ)第561号)は、執行猶予期間中に、スーパーマーケットで65点もの商品(税込販売価格合計2万7310円)を万引きした被告人について、再度の執行猶予を付す判断をしています。  上記裁判例は、

多量の食料品を盗むという合理性に疑問が残る行動に出ている(ことに加えて)…勤務先で起こした窃盗事件が本件犯行の数日前に発覚し…更に自己の置かれた状況を悪化させる本件犯行に及んでいる。…被告人は、責任能力に問題は認められないものの、上記精神疾患の影響により、健常な人に比べて、自分の衝動を制御することが難しい状態にあった…。被告人は医師の診断を受け、投薬治療やカウンセリングを受けるとともに、自助グループにも参加するなど、再犯防止に向けた努力を続けていること…など、被告人ために有利に斟酌することのできる事情もある。

と判示しています。

 この裁判例は、責任能力に問題がない場合であっても、自分の行動を制御することが難しかったことを最大の理由として、被告人に寛大な刑罰を科したものと理解できそうです。 また、東京高判平成25年7月17日(平成25年(う)第782号)は、執行猶予付きの判決を得た後、1年も経たずして万引き行為に及んでしまった被告人に対して、「犯行には、被告人のクレプトマニアや摂食障害等の精神症状による衝動制御の障害が関連しており、被告人は現在その治療中で、現にその治療効果も上がっていることが認められ、本件が比較的軽微な万引き事案であり、原判決が指摘するとおり、被害店との間で示談が成立し、被害届が取り下げられていることなどを併せ考慮すると、被告人に対しては、再度刑の執行猶予を付して、被告人にその治療を継続させつつ、社会内における更生の機会を与えることが、正義に適うものと認められる。」として、刑務所に直ちに服役させることを命じた、一審の判決を破棄しました。  この裁判例も、クレプトマニアの影響が大きかったことに加えて、その治療の有用性等を理由に、被告人に寛大な刑を言い渡したものと解されます。

クレプトマニアであることが十分に考慮されなかったもの

 一方で、クレプトマニアであることが認められた場合であっても、そのことが十分に考慮されずに、厳罰を科した裁判例も多く存在します。  例えば、高松高判平成29年7月27日(平成29年(う)第98号)は、被告人にクレプトマニアによる影響が認められたとしても、

他の商品を精算し、渡されたレジ袋に被害品を入れるという犯行目的達成に向けた合理的な行動をとっていること…などから、責任能力が減退していなかったことは明らか…責任能力の減退による責任非難の減少を認める余地はない。

と判示して、刑務所に服役することを命じた一審の判決を維持しています。  先ほど紹介した裁判例と比較すると、クレプトマニアによる影響が大きいものとまでは認められなかった点に、大きな違いが認められます。  また、大阪高判平成26年10月21日(平成26年(う)第829号)は、被告人がクレプトマニアの影響下にあったことを前提にしても、

現在の治療が被告人にとって必要かつ有効であるとしても、そのような一般情状が…被告人の刑事責任を大きく減殺するものとはいえないのであって、治療の必要性が…刑罰の必要性に優先するというような考えは採り得ず…本件犯行に至る前において現在のような治療を開始する時間も十分あったと認められる被告人については、なおさら…前記結論が左右されるとはいえない。

と判示しています。

 このように、治療の必要性が認められたとしても、刑罰を科する必要性に優先する訳ではないと判断されることもあり得ますし、治療を受ける時期が遅れた場合には、真剣に治療する意思を疑われる可能性すらあります。

クレプトマニアの弁護活動

早期に弁護方針を定める必要性

 上述したとおり、クレプトマニアであることが認められた場合であっても、その影響力の大きさによって、クレプトマニアであることをどの程度斟酌してもらえるかに差が生じます。  他方で、クレプトマニアの影響が大きいことを示す事実関係の多くは、余罪になることが想定されます。余罪が多数認められ、捜査機関によって別件の万引き行為について取調べを受けている期間中に、再び万引きに及んでしまった場合、クレプトマニアの影響が強かったものと認められ易くなりそうです。  他方で、余罪の存在は、本来的には、被告人の罪を重くする要素になりますから、捜査機関に自発的に伝えるべき事情とは言えません。  したがって、クレプトマニアを主張するかどうかによって、捜査機関に伝えるべきかどうかが変わってくることになろうかと思います。  この判断は、弁護士だけでなく医師の診断も必要となる場合がありますので、できる限り早い段階で御相談いただければと思います。

真剣に治療する意思を示す必要性

 クレプトマニアの影響下によって、万引きを行ってしまったことが明らかとなった場合、再犯を防ぐためには、専門機関による治療が不可欠と言えます。したがって、意欲的に治療に取り組んでいないと認められてしまうと、クレプトマニアを主張することは、再犯可能性が高いことを示唆するだけで終わってしまいます。  一方で、クレプトマニアは精神疾患の一種ですから、短期間の治療で直ちに効果が見込めるものではありません。長期的に通院や入院する必要があります。  捜査機関や裁判所は、クレプトマニアを主張する方々と数多く接していますから、定期的な通院がなされていなかったり、入院できる環境にありながら入院を拒絶しているようなケースについては、真剣に治療する意思がないものとみなされる可能性があります。  入院することができた場合であっても、入院期間自体も問題となりますし、退院後に通院を確保できる環境を調整しておく必要もあります。  クレプトマニアの可能性が高いことが分かった場合には、まず何よりも治療を優先した生活を考える必要があるでしょう。

その他の弁護活動の重要性

 寛大な刑罰を科した上記裁判例の文言からも明らかなとおり、寛大な刑罰を科した裁判例は、クレプトマニアに関係する事実関係のみを評価して、寛大な刑罰を科した訳ではありません。  被害者の方との示談交渉や、御家族等の専門機関以外によるサポートの有無も、結論に大きく影響します。  クレプトマニアであることが明らかとなった場合であっても、治療に関するもの以外についての弁護活動の重要性は低くならないのです。

まとめ

 今回は、「クレプトマニア」について簡単に解説させていただきました。  万引きはれっきとした犯罪です。直ちに刑務所に服役することはなくても、繰り返すうちに、厳格な刑罰を科されることは十分ありますし、万引きだけを繰り返して、刑務所への服役を命じられた方々を何人も見てきました。  そうなる前に、専門機関による治療を受けることが肝要です。 また、クレプトマニアを捜査機関や裁判所に主張する場合、クレプトマニアであることについての診断書さえあれば、有利な処分を得られるわけではありません。やはり、同種の事案についての経験を有する、弁護人による強力なサポートが求められます。  弊所では、クレプトマニアの方の弁護活動について、豊富な経験があります。お悩みの方は、ぜひ一度ご相談いただければと思います。

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