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コラム

一つの事件で何度も刑罰を科されることがあり得るのか

簡単に言うと…
  • 一つの交通事故事件で3回起訴された事案についての報道があった。
  • 本来的には1つの事件について再び起訴されることは、一事不再理の原則に反して許されない。
  • 一事不再理の効力の範囲は公訴事実の同一性によって判断されるが、具体的で画一的な判断基準は存在せず、高等裁判所の判断が待たれる。
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 先日、ある交通事故事件を起こした被告人に対して、3回目の判決が宣告されたという報道がなされていました。詳細については訴訟記録に接する機会がなく分からないのですが、記事によると、被告人は、飲酒した上で法定速度を超過する速度で自動車を運転し、歩行者に衝突した後、救護義務を果たすことなく逃走したとの容疑で裁判を受けているようです。
 被告人は、歩行者の命を奪った点について過失運転致死の罪で起訴され、有罪判決が宣告されました。しかし、その判決が確定した後に、法定速度を超過して自動車を運転していたことを理由に起訴され、更にその裁判も終わった後に、救護義務違反で起訴されているようです。
 1つの裁判で複数の犯罪行為を審理することは、普段からよく行われておりますし、特別なことではありません。しかし、1つの事件について裁判が3回行われるということは極めて異例だといえます。
それは、刑事訴訟法は一事不再理の原則を定めているからです。
 1つの事件について裁きを受けたのにもかかわらず、その後、何度も起訴されていたのでは、被告人の立場が不安定になりすぎてしまいます。ですから、裁判は一度しか起こすことができず、同じ理由で起訴することは許されないと定められているのです。
 では、今回報道されている事件では、何故何度も起訴されているのでしょうか。今回は、一事不再理について解説させていただこうと思います。

1.一事不再理とは

 
 まずは一事不再理とは何なのかについて条文を確認してみましょう。

憲法

第39条
 何人も、実行の時に適法であつた行為又は既に無罪とされた行為については、刑事上の責任を問はれない。又、同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任を問はれない。

 
刑事訴訟法

第337条
 左の場合には、判決で免訴の言渡をしなければならない。
 1号 確定判決を経たとき。
第338条
 左の場合には、判決で公訴を棄却しなければならない。
 3号 公訴の提起があった事件について、更に同一裁判所に公訴が提起さ れたとき。

 

 憲法第39条が「同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任を問はれない」と定めているとおり、同じ事件について何度も刑罰を科すことが許されないことは憲法上の要請だということがわかります。
 そして、憲法第39条を受けて、刑事訴訟法は、既に判決が確定している場合には、仮に被告人の犯罪行為が改めて証明されたとしても、被告人に対して免訴の判決を宣告しなければならない旨を定めているのです。

2.一事不再理の意味

 
 例えば、ある商品を万引きしたことについて、罰金の支払いを命じられ、その罰金を納付したにもかかわらず、事後的に検察官が同じ万引き行為を起訴し、裁判を受けなければならないこととなるのが理不尽であることは御理解いただけるように思います。
 万引きについて何らかの理由で無罪判決が宣告された場合であっても、有罪判決を得られるまで検察官が何度も同じ万引き行為について何度も起訴できてしまえば、被告人は延々と裁判を受けることとなってしまうため、そのような起訴が許されないことについてもイメージし易いと思います。
 逆に、被告人が別の店舗でも万引きに及んでいたことが明らかとなった場合、被告人が行った万引きについての裁判が終わっていたとしても、別個の犯罪行為が問題となっている訳ですから、改めて証拠が揃ったことなどを理由に、被告人を再度起訴することは許される訳です(同時に起訴できるにもかかわらず、意図的に別々に起訴することも問題ではあるのですが、一事不再理の話とは少しズレるのでここでは省略します。)。

3.一事不再理の効力が及ぶ範囲

(1)公訴事実の同一性

 
 問題となるのは、一事不再理の効力が及ぶ範囲です。例えば、財布から現金を盗み取られたという事件で、5000円札が盗まれたことについて判決を受けた後、財布の中には1000円札も入っていたはずだとして、更に起訴されることは許されるのでしょうか。
 一事不再理の効力が及ぶ範囲については、法律上に明確に定められている訳ではないのですが、次の条文が参考にされています。

刑事訴訟法

第312条
 裁判所は、検察官の請求があるときは、公訴事実の同一性を害しない限度において、起訴状に記載された訴因又は罰条の追加、撤回又は変更を許さなければならない。

 

 この条文は、裁判で審理する対象となる事実をどこまで変えることができるのかについて定めたもので、「公訴事実の同一性」が認められる範囲であれば、裁判所はその対象の変更を許可しなければならない旨を定めています。
 そして「公訴事実の同一性」が認められる範囲内の事実については、その裁判で審理できることとなりますから、一事不再理効の効力についても、「公訴事実の同一性」が認められる範囲であれば、既に判決を受けたものとして扱うことができるものと解されているのです。

(2)事実の単一性と狭義の同一性

 
 そうすると、次は「公訴事実の同一性」が認められる範囲がどの程度なのかということを考える必要があります。
 この点については、事件の単一性が認められるかどうかという点と、狭義の同一性が認められるかという点のいずれかが認められる場合には、「公訴事実が同一」と判断されるものと理解されています。
 単一性とは被告人の行為について成立する犯罪が1つであるという意味です。1つの罪か複数の罪が成立するかについては、それぞれの事件類型によって難しい説明が必要になるので説明は省きます(例えば、人を刺殺する際には、着衣も破損させることになりますから、殺人罪と器物損壊罪の2つの罪が成立するようにも思えますが、1つの殺人罪のみが成立するものと考えられています)。
 そして、狭義の同一性とは、被告人の行為が複数の罪を成立させるようなものであっても、その行為が一度しか行われていない場合や、連続的に行われた場合などのように、社会通念として同じ事実であると評価できるかどうかを問題にする概念です。こちらも、同一かどうかを判断する具体的な基準が定められている訳ではありませんから、ケースバイケースで判断するほかありません。
 とはいえ、先程お話しした、財布の中には更に1000円札も入っていたことが明らかになったというような事案については、公訴事実の同一性の範囲内であるといえ、再び起訴することは許されないといえるでしょう。

4.本件との関係

 
 では、本件との関係はどうでしょうか。
 今回は、3回目の裁判について有罪判決が宣告されたことが報道されているのですが、2回目の裁判については公訴が棄却されています(起訴するために必要な手続がなされていなかったことが理由となっています)。
 一方で、2回目の裁判の際にも弁護人は免訴を求めて主張しているのですが、裁判所は、速度超過の事実と過失運転致死の事実は、公訴事実を同一にするものである旨の主張に際して、「一事不再理効の及ぶ範囲については、基本的には、前訴と後訴の各訴因のみを比較対照してその同一性の有無により判断すべきであるから、弁護人の上記主張は採用できない」として排斥しています。
 この理由によるのであれば、今回問題となっている救護義務違反という行為は、法定速度を超えたスピードで自動車を運転する行為とも、歩行者に自動車を衝突させる行為とも別個の行為になりますから、今回も当然に免訴されないことになりそうです。
 しかしながら、上述したとおり、公訴事実の同一性については、画一的な判断基準が決められている訳ではありませんし、上記裁判についても結論として被告人を有罪としておらず、免訴についての判断が中心という訳では必ずしもありません。

5.一事不再理と弁護人

 
 一時不再理の問題は、被告人が犯罪行為に及んだかどうかとは無関係です。したがって、冤罪によって逮捕・起訴されるようなケースにおいては、一事不再理を理由とする主張に加えて、不起訴又は無罪判決を得ることを目標とする弁護方針を立てることが重要です。
 一方で、弁護人が早期の段階で具体的に一事不再理効を主張することは難しいことがあります。それは、一事不再理効を理由に、逮捕・勾留等の身体拘束を争い、裁判において免訴を求めるためには、被告人が過去に公訴事実の同一性が認められる事実について確定判決を宣告されている必要があるのですが、どのような判決が宣告されているのかについて、直ちに書面等で確認することが困難だからです。
 確定判決を宣告された時に弁護人として選任されていた弁護士に相談できれば一番早いのですが、既に当時の弁護人と連絡が取れない状況にあることは大いにあり得ますし、当時の弁護人の状況如何によってはその弁護士が受任できないことも考えられます。
 確定判決の際に弁護人として活動していない弁護士が、その内容を把握するためには一定の時間が必要となりますから、一事不再理効が問題となりそうな事案についてお悩みの方がいらっしゃれば、直ちに御相談いただければと思います。

6.まとめ

 
 一事不再理効が問題となることは実務上多くありません。それでも、本件のように存在しない訳ではありません。
 本件に関しては報道では明らかとなっていないため分かりませんが、控訴がされているのではないかと思います。引続き、高等裁判所がどのような判断を下すのか注視していきたいと思います。

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