恩赦が行われるらしいけどよくわからない…恩赦による影響を解説!
令和元年10月18日に、「復権令」及び「即位の礼に当たり行う特別恩赦基準」が閣議決定され、同月22日に「復権令」が公布されました。 「恩赦(おんしゃ)」という言葉自体を聞いたことはあっても、その内容について正確に理解されている方は少ないように思います。弁護士であっても、恩赦について問題となる事例に携わる機会はほとんどありません。 そこで、今回のコラムでは、今回の「恩赦」の内容や「恩赦」の一般的な性質について解説させていただくことにします。
目次
恩赦とは何なのか
刑法及び刑事訴訟法上の定め
「恩赦」の一般的なイメージは、「何らかの罪に対する刑事罰を許す手続」というような内容なのではないかと思います。 そして、刑事罰を許す手続なのであれば、刑法や刑事訴訟法に定めがありそうなのですが、刑法や刑事訴訟法の中には、「恩赦」という手続やその効果の内容を定める条文は存在しません。 しかしながら、刑事訴訟法第337条は、「左の場合には、判決で公訴を棄却しなければならない。」とした上で、同条3号において、「大赦(たいしゃ)があったとき。」と定めています。 「公訴を棄却する」というのは、無罪判決とは異なりますが、裁判の打ち切りを意味しますので、証拠の有無や犯情の悪質さとは関係なく、被告人に刑事罰を科さずに裁判が終結することになります。 では、「大赦」は「恩赦」と何が違うのでしょうか。
恩赦法の定め
実は、「恩赦」の内容には種類があり、「大赦」はその内の一つです。「恩赦」には、「大赦」の他に、「特赦(とくしゃ)」、「減刑」、「刑の執行の免除」、「復権」があり、それぞれの内容が恩赦法で定められております。
恩赦法
第2条 大赦は、政令で罪の種類を定めてこれを行う。 第3条 大赦は…大赦のあつた罪について、左の効力を有する。 1号 有罪の言渡を受けた者については、その言渡は、効力を失う。 2号 まだ有罪の言渡を受けない者については、公訴権は、消滅する。 第4条 特赦は、有罪の言渡を受けた特定の者に対してこれを行う。 第5条 特赦は、有罪の言渡の効力を失わせる。 第6条 減刑は、刑の言渡を受けた者に対して政令で罪若しくは刑の種類を定めてこれを行い、又は刑の言渡を受けた特定の者に対してこれを行う。 第8条 刑の執行の免除は、刑の言渡しを受けた特定の者に対してこれを行う。 第9条 復権は、有罪の言渡を受けたため法令の定めるところにより資格を喪失し、又は停止された者に対して政令で要件を定めてこれを行い、又は特定の者に対してこれを行う。 第10条 1項 復権は、資格を回復する。 2項 復権は、特定の資格についてこれを行うことができる。
以上のとおり、「大赦」のように、そもそも刑事罰を科さないようにする効果のある「恩赦」もあれば、減刑や復権のように、刑事罰が科されること(又は科されていること)を前提とした「恩赦」もあるのです。
今回の恩赦の内容
原則として罰金刑についての復権に限定されている
今回の恩赦は、恩赦の種類を「復権」のみに限定しておりますので、大赦や減刑は含まれていません。そして、その「復権」の対象も、罰金刑について、執行終了又は執行が免除されてから復権令が公布された日(令和元年10月22日)の前日までに3年以上を経過している者のみに限定されています。 つまり、原則として、刑事罰そのものを免除するものではありません。
罰金刑にかかる復権の意味
上述したとおり、今回の恩赦は、「復権」を内容とするものですから、「恩赦」を与えられたとしても、刑事罰を免れるようなことはなく、罰金刑を宣告された方は、罰金を納めなくてはいけません。 では、「復権」を得られることに何の意味があるのでしょうか。 罰金刑は、一定の金銭を国に納めさせることを内容とする刑事罰ですが、その他に、罰金刑の前科が残ることによって失われる権利もあるのです。 例えば、弁護士法7条は、「次に掲げる者は…弁護士となる資格を有しない。」として、第1号で「禁錮以上の刑に処せられた者」と定めていますので、禁錮以上の刑についての前科を有する者は、弁護士となることができません。 このような資格制限は、多くの場合、弁護士法と同じように、禁固刑以上の前科を対象としており、罰金刑の前科によって資格を得ることができないものは多くありません。 しかしながら、例えば、医師法第4条は、「次の各号のいずれかに該当する者には、免許を与えないことがある。」として、第3号で「罰金以上の刑に処せられた者」と定めておりますし、罰金刑の前科があることによって、得られない資格も存在するのです。 「復権」とは、このような資格制限をなくすことを目的とする「恩赦」なのです。
個別恩赦においては、刑の執行の免除も定められた
上述した内容については、「政令恩赦」という形で定められていますので、条件に合致する全員に与えられ、個別審査等の手続は不要です。 今回は、上述したような「政令恩赦」に加えて、「即位の礼に当たり行う特別恩赦基準」も閣議決定されています。 後者の内容として、「病気等で長期間刑の執行が停止され、なお長期にわたり執行困難な者に対する、刑の執行の免除」及び「刑を受けたことが社会生活上の障害となっている罰金刑の執行終了者に対する、復権」が定められました。 このような内容については、個別に審査する必要があるため、「恩赦」を求める方は、法務省に設置された中央更生保護審査会の審査を経て、内閣の決定及び天皇の認証を受ける必要がありますが、「恩赦」を得られることができれば、刑の執行自体を免れることもできるのです。
恩赦が問題となる事件における弁護活動
以上のとおり、今回の恩赦については、刑事裁判手続の中で主張できるものではありません。一方で、復権という形での恩赦を受けるためには、早期に手続を進める必要があります。それは、罰金前科が特定の資格保有者を失権させる効力を有するのは、罰金刑の執行後5年間に限られるからです(刑法34条の2)。
5年後に、資格を再取得するので生活に何らの影響を受けない方は、あまり意味がないかもしれませんが、医師の先生等、その資格を前提に生活をしてきた方にとって、5年の間、仕事ができなくなるのは死活問題です。従って、恩赦による恩恵を受けられる立場にある方は、直ぐにでも手続に着手する必要があります。
また、今回は、条件に合致する全員に恩赦が与えられることから、適切な手続を踏むことによって、恩赦が許可されないというケースは考え難いですが、審査が必要となる恩赦が問題となる場合、その恩赦が得られないと判断された場合、その判断に不服を申し立てることはできません。
恩赦の手続に関しても、「弁護人」という形ではありませんが、弁護士を代理人として選任することは許されておりますし、刑事事件に関する業務に従事している弁護士でないと、恩赦に関する知識に触れる機会はないように思います。やはり、専門的知見を有する弁護士の助力を得るべきだと思います。
まとめ
今回は、「恩赦」について簡単に解説させていただきました。 「恩赦」が行われること自体、極めて稀ですから、多くの弁護士も、恩赦を求める手続について精通している訳ではありません。一般の方からすれば、より不慣れな手続を強いられることになるでしょう。 上述したように、今回の恩赦との関係で、手続が必要となるのは、病気等で長期間刑の執行が停止されている方等に限られていますが、あてはまる可能性がある方については、ぜひ一度ご相談いただければと思います。