少年事件における黙秘権の行使について
- 自分の意思に反して供述することを強制させられることはない。
- 黙秘権を行使するべきケースが多いが、例外的に供述させる方が好ましい事件も存在する。
- 特に、少年事件においては、社会調査の段階において、黙秘するかどうかについて、慎重な判断が求められる。

弁護士
岡本 裕明
警察官や検察官から取調べを受けた際にどのように対応するべきなのか。様々な内容の電話相談を受ける中でも、多くの割合を占める御相談です。
最初に結論を述べると、どのような対応が望ましいのかについてはケースバイケースでしかありません。
とはいえ、それだけでは相談の意味がありませんので、具体的な状況に応じてアドバイスさせていただいているのですが、その中で話題となることが多いのが黙秘権の行使の有無です。
黙秘権を行使するべきかどうかについては、弁護士によって考えが大きく異なり得る問題だと感じています。私以上に、黙秘権を行使すべきだと強くアドバイスされる弁護士の方もいらっしゃいますし、分かっていることについては積極的に喋るべきだとアドバイスされる方もいらっしゃいます。
私自身は、黙秘した方が被疑者に有利な結果を得られるケースの方が多いように感じていますが、黙秘するよりも供述した方が好ましいケースは存在しますし、初動の段階では、「とりあえず黙秘」するという選択肢が無難であるとしても、途中で黙秘することを止め、一定の内容について取調べに応じるように、弁護方針を変更することも珍しい訳ではありません(とはいえ、最後まで黙秘を維持するケースの方が多いようには思いますが)。
では、このような考え方は少年事件との関係でも通用するのでしょうか。
黙秘権の内容を簡単におさらいしつつ、成年事件と比較して、少年事件において黙秘権を行使するかどうかに差異があるのかどうかについて考えてみましょう。

1.黙秘権とは

弁護士
岡本 裕明
黙秘権は法律上、どのように定められているのでしょうか。まずは、その内容を確認してみましょう。
憲法
第38条1項
何人も、自己に不利益な供述を強要されない。刑事訴訟法
第198条
1項 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、被疑者の出頭を求め、これを取り調べることができる。但し、被疑者は、逮捕又は勾留されている場合を除いては、出頭を拒み、又は出頭後、何時でも退去することができる。
2項 前項の取調に際しては、被疑者に対し、あらかじめ、自己の意思に反して供述をする必要がない旨を告げなければならない。
第311条1項
被告人は、終始沈黙し、又は個々の質問に対し、供述を拒むことができる。
黙秘権は憲法上の権利として定められています。「自己に不利益な供述」を強要されないと定められていますが、刑事訴訟法第198条2項は、「自己の意思に反して供述をする必要がない」と定めています。
したがって、「自己に不利益な供述」に限らず、どんな内容であっても、話したくない内容について、供述を強いられることはありません(氏名については「不利益な事項」ではないために黙秘する権利は存在しないと判示した最高裁判決があります(最高裁判所昭和32年2月20日判決)。この判決は、氏名を秘匿したまま作成された弁護人選任届の効力が否定されたもので、黙秘したことを理由に、不利な事実認定がなされた事案ではありません。このような判例が存在することを紹介しないと不正確になってしまうかもしれませんので、紹介させていただきましたが、黙秘権を行使することに理由は必要ありませんから、どんな質問に対しても、「話したくないものは話したくない」といった対応で十分なのだという点を御理解ください)。
そして、黙秘権は憲法上定められている権利ですから、黙秘権を侵害して、被疑者に無理矢理供述させて作成された供述調書等については、裁判で証拠として用いることは許されませんし、「黙秘権を行使するということは、何か疚しいことがあったに違いない。黙秘権を行使しているという事実は、こいつが犯人だということを示しているのだ」というように、黙秘権を行使した事実が、不利益な事実認定に繋がるということも許されないのです。
2.黙秘権行使の影響

弁護士
岡本 裕明
以上のように考えると、「原則的に黙秘すべきだ」ではなく、「絶対的に黙秘すべきだ」という考えが妥当なようにも思えそうです。「原則」ではなく「例外」的に黙秘をすべきではないケースはあり得るのでしょうか。
黙秘をすべきかどうかはケースバイケースですので、一律に黙秘すべきでないケースを説明することはできません。
例えば、故意がなかったことのように、被疑者の主観的な問題で犯罪の成否を争える場合、捜査機関にその旨を説明しないと、そのような問題点を看過して手続が進んでしまうケース等はありえます。長期間の裁判の末に無罪判決を勝ち取るよりも、不起訴処分が得られた方が、被疑者の負担ははるかに小さくなりますから、捜査機関に情報を提供した方が好ましいと考えられる事案はあり得る訳です。
また、そのような積極的な意味合いではなく、黙秘権を行使することが事実上、不利益に作用することも残念ながら存在します。例えば、被疑者を逮捕・勾留するかどうかを判断するに際して、黙秘権を行使している事実が、不利益に作用してしまうことはあり得ます。黙秘権を行使していること自体を理由に、逮捕・勾留を正当化するような決定を裁判官が行うことはありませんが、捜査機関に対して、正直に自身の認識・記憶している事実を供述している被疑者と比較すると、捜査に非協力的であることを理由に、罪証隠滅や逃亡のおそれがあると判断され易いということは否定できないように思います。
このような運用は、実質的には黙秘していることを不利に扱うもので、不適切なものだと個人的には感じておりますし、変えていかなくてはならないものと認識しておりますが、現時点でそのように扱われていることは否定できません。
ですから、逮捕・勾留を避けるために、完全に黙秘するのではなく、一定程度捜査機関に協力するという弁護方針が、一概に誤っているとまではいえないケースも存在するのです。
3.黙秘権の対象

弁護士
岡本 裕明
上述したように、黙秘権は憲法上も刑事訴訟法上も、「供述」を強要されないことを内容とする権利です。したがって、「供述」ではないものを、捜査機関が強制的に得ようとする場合には、黙秘権の対象は及びません。
例えば、捜査機関は、捜索差押令状があれば、所持品等を強制的に確認することが可能です。押収された物品について説明を求められた際に黙秘権を行使することは可能ですが、物品が押収されることや、その内容を確認されてしまうことを止めることはできないのです。
物に対する捜査ではなく、人に対する捜査との関係でも、指紋の採取、写真撮影、採血・採尿等については、供述を対象とするものではありませんから、被疑者の意向を無視して、強制的に行われた場合であっても、黙秘権を侵害することにはなりません。
この点でよく問題となるのは、携帯電話のパスコードの問題でしょう。携帯電話自体についての押収は、被疑者自身が同意していなくても、強制的に行うことは可能です。また、何らかの手段でパスコードを入手できる場合には、当該パスコードを使用して、携帯電話の中身を確認することも可能です。
更に、指紋認証や顔認証についても、本人の意思に反する形で行われる場合であっても、黙秘権を侵害するものとはならないでしょう。
4.少年事件における特徴

弁護士
岡本 裕明
これまで、黙秘権の内容を極めて簡単にではありますが、解説させていただきました。少年事件においても、捜査段階においては、成人の事件と同様に「被疑者」として取り扱われることになりますから、これまで解説させていただいた内容は、同様に妥当することになります。
では、捜査が終わり、家庭裁判所での審判を受ける段階ではどうでしょうか。
この点については、少年審判規則に規定があります。
少年審判規則
第29条の2
裁判長は、第一回の審判期日の冒頭において、少年に対し、供述を強いられ ることはないことを分かりやすく説明し…なければならない。
実は、少年審判において黙秘権の保障が及ぶかどうかについては議論があり、このような規則が設けられたのも、平成13年という比較的最近の法改正によるものです。
とはいえ、少年審判については、成人における裁判と同様に、非行事実が認められるかどうか(成人における刑事裁判でいうところの、無罪か有罪か)という点を判断されることになりますから、このような側面を考えれば、当然に黙秘権が保障されるべきでしょうし、不当な事実認定を避けるために黙秘することが好ましいと判断する場合には、成人における裁判と同様に、黙秘権を行使すべきということになりそうです。
しかし、少年事件においては、非行事実が認められるかどうかという点だけでなく、少年の要保護性という観点も審理対象となります。
成人の刑事裁判においても、被告人が有罪かどうかという点の他に、有罪であった場合における刑事責任の大きさ、すなわち量刑が問題となりますが、少年法においては、少年の健全な育成が目的とされていることとの関係で、非行事実そのものだけでなく、「家庭及び保護者の関係、境遇、経歴、教育の程度及び状況、不良化の経過、性行、事件の関係、心身の状況等審判及び処遇上必要な事項」(少年審判規則第11条1項)が重要になってくるのです。
黙秘をしてしまうと、少年の健全な育成を目的として判断されるはずの保護処分の内容が、適切なものにならないのではないかという懸念があるのです。
5.黙秘が問題となり得る少年事件における弁護活動

弁護士
岡本 裕明
上述した懸念は、審判の段階でも問題となり得ますが、審判の前に行われる社会調査の段階で大きく問題となります。
社会調査とは、裁判官ではなく、家庭裁判所の調査官が、上述したような要素を、少年の非行の人格的な要因や環境的な要因を明らかにするための手続で、その過程で少年や少年保護者の取調べも行われることになります。
捜査機関による取調べとは目的が異なるとはいえ、捜査機関に対して黙秘していたとしても、調査官に対して供述してしまえば、黙秘していた意味が減殺されることになるでしょう。
もっとも、調査官としても、社会調査の段階で黙秘されてしまうと、少年の問題点を把握することができず、要保護性の解消に向けた検討を行うことができません。その結果として、不必要に少年院送致等の決定に至ってしまうことがあるとすれば、付添人弁護士としては、そのような事態を避けるように弁護活動を行う必要があります。
このようなジレンマを解消するにあたって、裁判所としても、社会調査で少年が供述した内容等については、審判において非行事実を認定する際の資料として用いないようにされているようです。
逆に、そのような運用がなされていることや、黙秘権について説明することによって、自由に発言し難い環境との印象を少年に与えかねないことから、社会調査段階においては、黙秘権の説明を行わないことがあるようです。
したがって、黙秘権を行使すべきかどうかについて、付添人弁護士としては、社会調査に協力するメリットと、協力しないデメリットを踏まえて、少年に対して適切なアドバイスを事前に行うことが重要になるでしょう。
6.まとめ
以上のとおり、黙秘権については、様々な問題点が存在するものの、警察官や検察官から取調べを受ける段階において、とりあえず黙秘することを選択することは、大抵のケースにおいて合理的な判断だといえそうです。
しかし、成人事件においても、供述した方が好ましい結果が導かれ易い環境もありますし、少年事件においては、社会調査への対応という意味で、成人の事件以上に、黙秘しておけばいいんだと言い切れないシチュエーションに多く接することになると思います。
刑事事件だけでなく、少年事件についての専門性を有している弁護士に、早期に御相談いただければと思います。









