一部執行猶予とは?通常の執行猶予と違うのか。
- 一部執行猶予は執行猶予というより実刑判決の一種である。
- 単なる実刑判決よりも、判決の影響力が長引くこともある。
- 服役(拘禁)期間を短くすることに繋がり、主張するかどうかについて検討が必要である。

弁護士
岡本 裕明
「被告人を懲役3年に処する。この裁判確定の日から5年間その刑の執行を猶予する。」刑事裁判において執行猶予付きの判決が宣告される場合の主文は、このような形になります。
例えば、上述したような内容の執行猶予付きの判決が宣告された場合、5年間、刑の執行が猶予されることになるのですが、その5年の間に、新たに罪を犯すなどすることがなければ、刑務所に服役する必要がなくなることになります。
逆に、5年の間に、何らかの罪を犯すなどした場合、その新たに犯してしまった罪に対する刑罰に加えて、執行猶予が取り消されることによって、懲役3年という刑罰も改めて受けることになる訳です。
では、一部執行猶予とはどのような制度なのでしょうか?
一部執行猶予は、平成25年に新設された制度で、施行されてから相当の期間が経過しているものの、一般的に理解が深まっているとはいえないように思います。
今回は、一部執行猶予の制度について解説をしていきたいと思います。

目次
1.法律の定め

弁護士
岡本 裕明
まずは一部執行猶予について、刑法がどのような定めを設けているのか確認してみましょう。
刑法
(刑の一部の執行猶予)
第27条の2
1項 次に掲げる者が3年以下の拘禁刑の言渡しを受けた場合において、犯情の軽重及び犯人の境遇その他の情状を考慮して、再び犯罪をすることを防ぐために必要であり、かつ、相当であると認められるときは、1年以上5年以下の期間、その刑の一部の執行を猶予することができる。
1号 前に拘禁刑以上の刑に処せられたことがない者
2号 前に拘禁刑に処せられたことがあっても、その刑の全部の執行を猶予された者
3号 前に拘禁刑以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から5年以内に拘禁刑以上の刑に処せられたことがない者
2項 前項の規定によりその一部の執行を猶予された刑については、そのうち執行が猶予されなかった部分の期間を執行し、当該部分の期間の執行を終わった日又はその執行を受けることがなくなった日から、その猶予の期間を起算する。
一部執行猶予の対象となるのは、「3年以下の拘禁刑の言渡しを受けた場合」になります。この点は全部執行猶予について定める刑法第25条1項と同じになりますし、猶予期間が「1年以上5年以下」とされている点も、全部執行猶予と同じです。
また、「5年以内に拘禁刑以上の刑に処せられた」ことがある再犯者(刑法第56条1項)に対しては、一部執行猶予に付すことができないとされている点も、全部執行猶予と同じです。
以上のことから、一部執行猶予の対象は、全部猶予と重なっているものといえるでしょう。しかし、例外があります。
薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部の執行猶予に関する法律
(刑の一部の執行猶予の特則)第3条
薬物使用等の罪を犯した者であって、刑法第27条の2第1項各号に掲げる者以外のものに対する同項の規定の適用については、同項中「次に掲げる者が」とあるのは「薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部の執行猶予に関する法律第2条第2項に規定する薬物使用等の罪を犯した者が、その罪又はその罪及び他の罪について」と、「考慮して」とあるのは「考慮して、刑事施設における処遇に引き続き社会内において同条第1項に規定する規制薬物等に対する依存の改善に資する処遇を実施することが」とする。
(刑の一部の執行猶予中の保護観察の特則)
第4条1項
前条に規定する者に刑の一部の執行猶予の言渡しをするときは、刑法第27条の3第1項の規定にかかわらず、猶予の期間中保護観察に付する。
やや分かりにくいですが、薬物犯との関係では、第27条1項各号に該当しない場合、すなわち再犯者であっても、一部執行猶予の対象になる旨が定められているのです。また、薬物事犯に関する一部執行猶予付き判決との関係では、必ず保護観察に付されるという点も特徴的です。
2.一部執行猶予の意味

弁護士
岡本 裕明
刑事訴訟法は、刑の一部執行猶予について、「その刑の一部の執行を猶予する」としか定めていません。そこで、「刑の一部の執行を猶予する」とはどのような意味を有するのかが問題となります。
この点、一部執行猶予付きの判決が宣告される場合、その主文は、「被告人を懲役3年に処する。その刑の一部である懲役1年の執行を5年間猶予し、その猶予の期間中被告人を保護観察に付する。」のようになります。
このような主文の場合、全部執行猶予付きの判決と同様に、「懲役3年」という部分については、執行猶予が取り消された場合に服役する期間を意味する訳ではありません。というのも、「その刑の一部である懲役1年の執行」しか猶予されていませんので、残りの2年については直ちに服役することになるからです。
つまり、判決確定後に直ちに刑を受ける必要があるという点で、一部執行猶予は、執行猶予というよりは、実刑に近い制度ということができるでしょう。
そして、2年間服役した後、5年間の執行猶予期間が始まることになります。この期間中に何らかの犯罪行為に及ぶなどした場合、猶予されていた1年間の刑が科されることになるのです。
一部執行猶予が付されることなく、単に懲役3年を宣告された場合と比較すると、2年間服役した後から、5年間の執行猶予期間が始まる訳ですから、服役する期間は短くなるものの、判決の影響をより長く受けることになります。
3.一部執行猶予の活用状況

弁護士
岡本 裕明
では、一部執行猶予はどの程度宣告されているのでしょうか。
2024年度の検察統計によると、591人に対して一部執行猶予が付されており、その内451名が薬物犯罪に関するものとされており、大半が薬物犯罪との関係で宣告されていることが分かります。刑法犯の中では、窃盗との関係で14人に宣告されている以外には、住居侵入や性犯罪との関係で数名が宣告されているに過ぎず、積極的に宣告されていないことが窺われます。
特に、2024年度に全部執行猶予付きの判決が宣告された人数が、30000人以上いることを考えれば、その差は明らかだといえるでしょう。
何故、ここまで少ないのかという理由には様々なことが考えられます。
まず1つとして、当事者が主張しない限り、裁判所が一部執行猶予を付さないという点が挙げられます。上述したように、服役(拘禁)される期間自体は、一部執行猶予が付された場合の方が短くなりますが、判決の影響を長く受けることになりますので、被告人によっては一部執行猶予よりも単純な実刑を望むケースもあり得ます。そして、そのような被告人の意向は、主張されない限り裁判所としては把握することができませんので、一部執行猶予を付し得る事案であっても、当事者から一部執行猶予の主張がされない限り、裁判官が積極的に一部執行猶予付きの判決を宣告することは稀だといえるのです。
一方で、弁護人としても一部執行猶予付きの判決を主張するのを躊躇するケースが多く認められます。それは、上述したとおり、一部執行猶予付き判決は、執行猶予というよりも実刑の一種だといえますから、法的に全部執行猶予を付し得る事例であれば、一部執行猶予ではなく、全部執行猶予が妥当である旨の主張になってしまうからです。
薬物事犯において、一部執行猶予が活用されているのは、薬物の依存症等に対する治療や環境調整等との関係で、一部猶予が有用であることに加えて、再犯者に対しても適用することが可能であるため、法律上全部執行猶予付きの判決を目指せない場合において、弁護人が一部執行猶予を目的とする弁護活動を行い易いという側面もあるでしょう。
4.一部執行猶予と弁護活動

弁護士
岡本 裕明
一部執行猶予を付する条件は、「犯情の軽重及び犯人の境遇その他の情状を考慮して、再び犯罪をすることを防ぐために必要であり、かつ、相当であると認められる」ことです。
犯罪の軽重等については、一部執行猶予を付することとは無関係に、できる限り犯情を軽微なものとするための弁護活動が行われることになるでしょうから、一部執行猶予を得るた めに、特殊な弁護活動が求められる訳ではありません。
また「再び犯罪をすることを防ぐために必要であり、かつ、相当」という内容についても、再犯防止にあたっての環境調整等については、全部執行猶予を得ることを目標に行う弁護活動においても行われるものです。
以上のことから、全部執行猶予付きの判決を得る場合における弁護活動と、一部執行猶予付きの判決を得るための弁護活動とで、大きな差異はなく、弁護人による科刑意見の中で、一部執行猶予が相当である旨を主張するかどうかの違いでしかないとも言えるでしょう。
とはいえ、施設内処遇の一部を社会内で処遇するように求める訳ですから、一部執行猶予付きの判決を求める場合においては、社会内での更生環境が整備されているかどうかが、特に重視されることになるということは言えそうです。
薬物の依存症や病的窃盗癖等が問題となっている場合には、社会内において治療環境が整備されていることを主張することになるでしょうし、専門家以外にも、社会内における更生資源が確保できている旨を具体的に主張できるかどうかによって、一部執行猶予付きの判決が得られるかどうかは判断されることになるでしょう。
5.まとめ

弁護士
岡本 裕明
以上のとおり、一部執行猶予は、既に運用が始まってから数年が経過しているものの、薬物犯罪以外では積極的に活用されているとは言えません。
また、実刑の一種であり、一度は刑務所に服役(拘禁)することになりますから、弁護活動を行うにあたって第一の目標となり難い点も認められます。
それでも、単純な実刑判決を宣告される場合と比較すると、刑務所の中で服役(拘禁)することになる期間は短くなるわけですから、全部執行猶予付きの判決を望むことができない場合などには、一部執行猶予付きの判決を目指した弁護活動が求められることになるでしょう。
もし、御自身が一部執行猶予の対象となっているのか分からないという方や、一部執行猶予を目指すべきかお悩みの方がいらっしゃるようでしたら、お気軽に弊所まで御相談いただければと思います。









