会社を裏切ったら何でも背任罪?特別背任罪について
- 背任罪として処罰される例は多くない。
- 取引先に損害を与える場合や、上司の命令に従った場合であっても、背任罪が成立する可能性はある。
- 逮捕・勾留を避けることのできる可能性はあり、早期に弁護士への相談が求められる。

弁護士
岡本 裕明
昔、「横領罪と背任罪の違い」というコラムを作成させていただきました。
この時は、横領罪と背任罪だけでなく、窃盗罪や詐欺罪との違いについて説明させていただきましたので、背任罪についての解説が薄くなってしまっていました。
上述したコラムでは、背任罪について、「背任罪は『任務に背く行為』が問題となる」旨を解説させていただきましたが、「任務に背く行為」と一口で言っても様々な行為があり得ると思います。
漫画やドラマ等において、営業マンが営業先に出かける旨を上司に報告した上で、喫茶店でサボっている姿が描写されることがあります。間違いなく、「任務に背く行為」であるとはいえそうですが、背任罪という犯罪が成立する犯罪行為なのでしょうか。
また、背任罪という犯罪が社会的によく理解されていないことの背景には、実は背任罪という犯罪があまりメジャーなものではないという点もあります。
2024年度の検察統計調査によると、同年度において受理された背任罪の件数は180件です。180件とだけ言われても、多いのかどうか判断しかねると思いますが、同種の犯罪としてその差異を説明させていただいた横領罪については、8696件も扱われています(遺失物横領や業務上横領を含む)。
以前、虚偽告訴の罪について「虚偽告訴。被害者が逆に加害者に」というコラムで解説させていただいた際に、虚偽告訴は比較的珍しい犯罪であると説明させていただきました。そのコラムでは、警察庁の統計を用いて解説させていただきましたので、検察統計調査とは違うデータにはなるのですが、2024年度の検察統計調査によると154件が受理されているようです。
したがって、乱暴な表現になってしまいますが、背任罪は虚偽告訴罪と同程度に珍しい犯罪ということができるのです(特別背任罪として会社法違反として受理されているものもありますが、受理されることが多い犯罪とはいえません)。
今回は、どのような場合に背任罪が成立することになるのか、解説させていただこうと思います。
目次
1.法律の定めについて

弁護士
岡本 裕明
まず、背任罪がどのように定められているのか条文の内容を確認してみましょう。
刑法
(背任)
第247条
他人のためにその事務を処理する者が、自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、本人に財産上の損害を加えたときは、5年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金に処する。
会社法
(取締役等の特別背任罪)
第960条1項
次に掲げる者が、自己若しくは第三者の利益を図り又は株式会社に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、当該株式会社に財産上の損害を加えたときは、10年以下の拘禁刑若しくは1000万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
1号 発起人
2号 設立時取締役又は設立時監査役
3号 取締役、会計参与、監査役又は執行役
問題となる条文は、刑法の背任罪と会社法の特別背任罪になります。
そして、背任罪では「本人」とされている部分が、特別背任罪では「株式会社」とされていることに加え、特別背任罪の主体となるのが取締役等、各号に定められている役職者に限定されている以外は、いずれの条文も、「自己若しくは第三者の利益を図り又は本人(株式会社)に損害を加える目的で、任務に背く行為」を問題視しています。
したがって、基本的には刑法も会社法も同じ行為を処罰対象としており、会社を被害者とする背任罪において、加害者が特別な役職にある場合にのみ、重く処罰しようとしているものと理解できます。
2.他人のためにその事務を処理する者

弁護士
岡本 裕明
営業マンは会社の役員ではなかったとしても、会社から雇用され、営業先で自社の商品を営業してくるように業務命令を受けているはずです。そうすると、会社からの「事務を処理する者」として背任罪の適用対象になってしまうのでしょうか。
この点について、神戸地方裁判所昭和56年3月27日判決は、会社の機密資料を外部に持ち出した従業員の行為について、「雇用契約に基づく一般的忠実義務違反としての責任を生じることはあっても刑法247条の背任罪にいう事務処理についての任務違背として評価することはできない。」と判示しています。
したがって、単に会社の業務をサボったに過ぎない場合には、一般忠実義務違反が成立するにとどまるものといえ、背任罪として犯罪が成立することまではなさそうだということが分かります。
喫茶店で仕事をすることなく営業をサボることによって、会社に不利益が生じ得ることは否定できませんが、基本的に背任罪として起訴されている事件のほとんどは、会社が利益として得られるはずであった財産的価値を、自分自身や第三者に帰属させるような行為であるものといえます。
逆に言うと、「その任務に背く行為」という抽象的な行為を処罰する旨が定められていることから、会社に不利益で自身や第三者に利益が生じるような行為については、背任罪が成立するリスクが常に認められることになる訳です。
3.最近の裁判例

弁護士
岡本 裕明
では、実際にどのような行為が背任罪として処罰されているのでしょうか。最近宣告された裁判例を確認してみましょう。
例えば、岐阜地方裁判所令和元年5月31日判決は、アミューズメント施設の運営等を目的とする株式会社の代表取締役であった被告人が、当該施設の施設利用料の一部を、自身が経営する他の株式会社の売上げに付け替えていた行為に対して特別背任罪の成立を認めています。
このような行為は会社の売上を直接減少させる行為ですから、会社のお金を着服するような横領行為に近いものといえ、特別背任罪を成立させることに違和感はないと思います。
また、特別背任罪ではなく背任罪の成立を認めた裁判例としては、名古屋地方裁判所平成30年9月26日判決があります。被告人が、被害会社に対して架空請求を行い、被害会社の営業部長に決裁させる一方で、営業部長に対してはその対価として現金を交付していたという事案です。
こちらも、会社が実体のない請求に応じさせることで、会社に損害を負担させている訳ですから、何らかの犯罪を成立させることに違和感はないと思います。
着目すべきは、この事件の被告人となっているのは、損害を被っている会社の役員ではなく、その取引先の代表取締役であるということです。
被告人の会社からすれば、架空請求であるにもかかわらず、当該請求に応じてくれるわけですから、経済的には利益が生じているともいえます。損害を被っているのは被害会社であって、被告人が在籍している会社ではありません。このようなケースでも背任罪が成立する営業部長の共犯者として、背任罪に問われることがあるのです。
4.上司の指示や内部決裁に従った場合

弁護士
岡本 裕明
自分自身の利益のために行った行動について、背任罪等の成立が認められてしまうことに違和感はないと思います。しかし、自身の会社との関係では利益となっているのに、背任行為に及んでいる取引先の役員の共犯として背任罪に問われる可能性があることは上述したとおりです。
この場合、自分の会社のために行っていた行為であっても、上述したような取引先の関係者からの指示に従うようなケースにおいては、背任罪の犯人となってしまうケースが想定できるのです。
他に、積極的に背任罪を犯すつもりがなかったにもかかわらず、背任罪が成立し得るケースとして、自身としては会社に不利益が生じ得ることを理由に、行うべきではないと考えていたにも関わらず、上司などからの業務命令に従って会社に不利益な行為に及んでしまった場合が考えられます。
このようなケースに関してはきわめて古い裁判例になりますが、大審院昭和8年7月20日判決が、信用組合の事務員が常務理事の命令に従って無資力者に金銭を貸し出した行為について、背任罪の成立を認めています。
この裁判例については、上司の命令に反対して抵抗していた場合にも、一律に背任罪が成立することになり不当であるように感じる側面がありますが、上司の命令に単に従った訳ではなく、当該行為に及ばないように何度も反対していたとしても、そのような行為が必ず背任罪を否定する事情になる訳ではないという点を理解しておくといいでしょう。
5.背任罪と弁護活動

弁護士
岡本 裕明
どのような罪との関係でも同じですが、刑事手続においては起訴・不起訴等の終局処分の前に、被疑者を逮捕・勾留するかという身体拘束の問題が生じます。背任罪については、会社等が被害者になることが多く、関係者が多数存在することが前提となる犯罪ですから、関係者と口裏合わせを行うことなどによって、罪証隠滅のおそれがあると判断され易い類型といえます。
一方で、背任罪として取調べを受けている方の大多数が逮捕・勾留されているかというとそういう訳ではありません。それは、背任罪の法定刑が、「5年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金」という、窃盗や詐欺等と比較すると軽く定められていることが影響しているものといえます。
したがって、弁護士と相談の上で、取調べにどこまで応じるかどうか等、弁護方針を明確に決めた上で臨むことによって、逮捕・勾留の可能性を減少させることが肝要といえるでしょう。
また、背任罪の成否についても、上述したとおり、会社に損害を与えているのか、また行為者に会社に損害を与える認識があったのか等、背任罪の成立を争える事案は珍しくありません。
結果的に会社に不利益が生じただけでは、業績を残せなかったというだけで犯罪が成立する訳ではありませんから、委任をうけた弁護人としては、背任罪の成否についても十分な精査が求められることになるでしょう。
6.まとめ

弁護士
岡本 裕明
背任罪は冒頭でお伝えしたとおり、立件される数が多い訳ではありません。しかし、法律の定め方が抽象的ですし、「窃取」や「欺罔」、「横領」等と比較すると、「任務に背く行為」として処罰される範囲が一見して分かりにくいものとなっており、意図的に犯罪行為を行おうとして行為に及んだ場合でなくても、背任罪の容疑をかけられてしまう可能性があります。
また、痴漢や暴行と異なり、現行犯で逮捕されるということが考え難く、警察官による捜査の前に、被害者となる会社によるヒアリングが先行することも特徴であるといえます。この段階で、被害会社と話し合いを行うことが出来れば、刑事事件化を防げる可能性もあるのです。
背任罪についてお困りの方は、御遠慮なく直ちに弊所まで御相談ください。






