警察署に出頭すれば自首になるの?自首について。
- 1. 自首をすることによって、刑の減軽及び逮捕・勾留の可能性を下げることが期待できるが、全てのケースで妥当する訳ではない。
- 2. 警察署に出頭して犯罪を告白すれば、全て「自首」として扱われる訳ではない。
- 3. 自首については、専門的な判断が必要なことが多く、まずは弁護士への相談をお勧めする。
罪を犯してしまった場合、その罪を償うことは道徳的には不可欠なものと言えます。そして、贖罪の方法には様々なものが考えられますが、捜査機関や被害者に露見することなく犯罪を完遂できてしまった場合、最初の贖罪の方法として頭に思い浮かぶのは「自首」という手続になるのではないでしょうか。
一般的な方々からすれば、罪を犯してしまった方が「自首」をすることなく、捜査機関による取調べや刑事裁判を受けないままで生活することについて、「反省していない」、「罪を償おうという意思が感じられない」との印象をお持ちになると思いますし、そのような感覚が間違っているとは思えません。
一方で、私達弁護士が自首についての相談を受ける際に、「反省しているのであれば自首をすべきです」と回答していたのでは、そのような法律相談に価値はありません。弁護士は道徳の教師ではないからです。とはいえ、捜査機関の捜査から抜け出す方法について伝授するようなことも許されません。
弁護士としては、「自首」をすることでどのような効果が認められ、「自首」をした後どのような手続が予定されるのかという点などを詳細に説明し、贖罪や他の目的を達成するための手段として「自首」という手段をとるのかどうかについて適切に検討するための手助けをすることが求められるものと考えています。
本日は、「自首」をテーマに解説させていただきたいと思います。
目次
1.「自首」は何のために行うのか
(1)減刑の要素となり得る
まず、「自首」が法律上、どのように定められているのかを確認します。
刑法
第42条
1項 罪を犯した者が捜査機関に発覚する前に自首したときは、その刑を減軽することができる。
2項 告訴がなければ公訴を提起することができない罪について、告訴をすることができる者に対して自己の犯罪事実を告げ、その措置にゆだねたときも、前項と同様とする。
刑法は、「自首」をした場合に、「その刑を減軽することができる。」と定めています。「できる」という定めですから、必ず刑罰が軽くなる訳ではないことに注意が必要ですが、刑法の定めからすれば、「自首」は、刑罰を軽くすることを目的に行うことになりそうです。
確かに、殺人や現住建造物等放火等、極めて悪質だと考えられている犯罪との関係で「自首」した場合には、刑を減軽する一定の効果が認められ易いように感じていますが、初犯の痴漢や盗撮等、比較的その犯情が悪質だとは考えられておらず、示談の成否によって検察官の判断が分かれることが多い事案との関係においては、「自首」を理由に不起訴処分を見込めるかというと、必ずしもそうではないように感じています。
そうすると、刑罰の減軽を目的とする場合、「自首」を積極的に検討すべき場合とそうでない場合があることになりそうです。
(2)逮捕・勾留される可能性を小さくし得る
また、「自首」についての規定に定められている訳ではありませんが、逮捕・勾留を避けるために「自首」をするということも、法律事務所のHP等において説明されています。これは、次の刑事訴訟法の条文に関係があるのです。
刑事訴訟法
第60条
1項 裁判所は、被告人が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある場合で、左の各号の一にあたるときは、これを勾留することができる。
1号 被告人が定まった住居を有しないとき。
2号 被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
3号 被告人が逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
刑事訴訟法第60条1項は勾留の際の要件について定めた条文ですが、警察官が被疑者を逮捕する場合にも、ほぼ同じ要件が求められます。そして、多くの場合において問題となるのが、刑事訴訟法第60条1項2号及び3号の定める「罪証隠滅」「逃亡」を疑うに足りる相当な理由という要件です。
「自首」をする場合、自ら警察署に出頭して自身の犯罪行為を告白することになりますから、「罪証隠滅」や「逃亡」とは正反対の行動ということができます。したがって、「自首」は、「罪証隠滅」や「逃亡」を考えていないことを裏付ける事実ということができ、上述した要件を満たさないことに繋がるために、逮捕・勾留の可能性を小さくすることができるのです。
とは言え、重大な犯罪を犯してしまった場合には、自ら警察署に出頭したという事実だけでは、「罪証隠滅」や「逃亡」を否定することができず、「自首」をした場合であっても、逮捕・勾留されてしまう可能性が残ってしまうのです。
(3)贖罪としての自首
以上のとおり、「自首」に法的な効果が認められるかどうかは、一律に説明することは困難ですから、一度弁護士に相談されることをお勧めします。
一方で、法的な効力が認められない場合であっても、自身の犯した罪を償うために、自首することを希望される方も一定数いらっしゃいますし、そのような考え方は決して否定すべきものではないと考えております。
とはいえ、犯した罪を償う方法は自首に限られませんし、自首をすることが贖罪になるのかという点も、明確に肯定することは困難なように思います。この点については法的な話とは少し異なってきますから、できれば御家族等と共にしっかりと話合った上で、弁護士の話も参考に決めていただく他ないように思っております。
2.裁判上で「自首」が争われる場合
(1)自首の要件
警察署に出頭したにもかかわらず、「自首」として扱ってくれないケースも珍しくありません。刑法第42条には、「罪を犯した者が捜査機関に発覚する前に自首したとき」としか定められていませんが、単に警察署に出頭しただけでは「自首」に該当しない場合があるのです。
まずは、当然の前提のように思われるかもしれませんが、犯人が自発的に自身の犯罪事実を申告する必要があります。ですから、職務質問等を契機する場合には、自発的な申告とは認められません。
また、「自首」と評価されるためには、自身の訴追を含める処分を求めるものである必要があります。したがって、正当防衛等を主張する場合や、意図的に犯罪事実の一部を隠して申告するような場合には、「自首」とは評価されないケースがあるのです。
(2)反省は不要
一方で、このような要件を満たしているような場合には、反省しているという理由以外の動機に基づくものであっても、「自首」は否定されません。
例えば、捜査機関に自身の犯罪が露見していると誤解した場合や、共犯者間で仲違いをした場合などの場合でも、「自首」として扱われることになります。
この点について、逮捕を免れることを目的に警察署に出頭したものの、警察官から逮捕されそうになったことを契機に、警察署を立ち去ろうとしたケース等において、上述した要件の内、自身の訴追を含める処分を求める申告ではないとして検察官に争われたケースがありました。
しかしながら、逮捕・勾留等の手続を全て甘受する意思がなければ、自身の訴追を含む処分を求める申告と評価できないという訳ではありませんし、通常の場合、警察官が自首してきた犯人を逮捕しようと考える前には、自身の犯罪事実の申告であると認めることが可能なケースが多いものと思われます。
裁判において「自首」の成立が否定された場合や、検察官が「自首」の成立を争っているケース等については、是非とも弁護士に相談していただければと思います。
3.自首事案における弁護活動
自首についての弁護活動については、上述したように自首をする段階において求められる弁護活動と、自首したことを裁判官に評価してもらうための弁護活動に分けることができます。
まず、自首する際の弁護活動としては、何よりも逮捕を避けるという目標を達成する必要があります。逮捕されてしまうと、その後に勾留されてしまう可能性が高くなり、日常生活を送ることができなくなります。これでは、自首をした意味がほとんど失われてしまいますから、逮捕、勾留を避けるという目的を達成できる確率を最大限のものとするために、弁護士が自首に付き合い、意見書を提出する等、逮捕の要件を否定するような弁護活動が必要となります。刑事事件の弁護士の存在は非常に大切なのです。
一方で、「自首」は法的な概念ですので、単に警察官から取調べを受ける前に、警察署に出頭すればいいというものではありません。実際に、自ら警察署に出頭したにもかかわらず、裁判所に「自首」と認定してもらえないケースはありますし、「自首」と認定してもらえても、そのことが刑を減軽する理由にはならないと判断されるケースもあります。
そのようなことがないために、「自首」が成立することや、「自首」が真の反省の気持ちに起因するものであることを明確に主張できるように、その主張を基礎づける事実関係を確保しておくこと等、この段階においても刑事事件の弁護士の役割は極めて大きいのです。
4.まとめ
「自首」をすべきかどうかについては、法的な問題点が多数認められますし、警察署に出頭して犯罪を打ち明けたとしても、必ず「自首」として認められる訳ではありません。
一般的な用語として定着している「自首」ではありますが、高度に専門的な知識が必要となるケースがほとんどです。「自首」に関する問題についてお悩みがありましたら、まずは御相談いただければと思います。