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コラム

一般人でも犯罪者を逮捕できる?その仕組みは。

簡単に言うと…
  • 副校長が学校付近でビラを配布していた他校の学生を逮捕したという報道がなされている。
  • 刑事訴訟法は、現行犯逮捕に限って、捜査機関ではない一般人にも犯人を逮捕することを認めている。
  • しかしながら、本来的には「逮捕」は犯罪にもなり得る行為であり、「私人逮捕」は慎重に行われるべきである。
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 先日、学校の前でビラを配布していた高校生が、公務執行妨害で逮捕されたというニュースが報道されていました。罪名だけ聞くと報道されるような事件には聞こえませんが、この事件は、高校生を逮捕したのが、ビラ配布していた付近の学校の副校長であったということに注目が集まり、SNS等を通じてかなり拡散されているように思います。

 多くの方は、「逮捕」というのは、警察官や検察官等の捜査機関によって行われるものであり、学校の副校長が何故「逮捕」できたのかということについて正確に理解できていないように思います。
 「副校長が高校生を逮捕した」という点にだけ着目すると、停学や退学等、学校の懲戒処分のように、副校長には学生を逮捕する権限があるかのように思えてしまいそうですが、そういう訳ではありません。そもそも、本件において逮捕された学生は、逮捕者である副校長の在籍する学校の学生ではなかったようです。
 では、どのような理由で逮捕することができたのでしょうか。それは、我が国が「私人逮捕」といって、捜査機関以外の者による逮捕も認めていることに起因しています。
 今回は「私人逮捕」について解説させていただきます。

目次

  • 逮捕とは

-刑法上の意義
-刑事訴訟法上の意義

  • 私人逮捕とは

-現行犯逮捕にのみ可能
-「私人逮捕」が認められている理由
-「私人逮捕」後の手続

  • 私人逮捕の問題点
  • 私人逮捕された事案における弁護活動
  • まとめ

1.逮捕とは

(1)刑法上の意義

 一般的な国語辞典では、「逮捕」という言葉は、人の身体を無理矢理拘束することを意味するものと説明されているように思います。
 具体的には、人の体を地面に押さえつけたり、手足をロープで縛ったりするような行為が考えられます。
 このような逮捕行為は、他人に対する暴力行為ですから、暴行罪(刑法第208条)にもあたり得ますし、単に暴力を振るわれるというだけでなく、身体を拘束され続けることになる訳ですから、暴行よりも大きな被害を受けることになります。
 そこで、刑法は、人を逮捕する行為について、7年以下の懲役という軽くない刑罰をもって処罰しています。

刑法

第220条
不法に人を逮捕し、又は監禁した者は、3月以上7年以下の懲役に処する。
第221条
前条の罪を犯し、よって人を死傷させた者は、傷害の罪と比較して、重い刑により処断する。

 法律上からも明らかなとおり、逮捕の罪は監禁の罪と同じ条文で定められています。身動きをとれなくさせるという意味では、監禁の罪と同じような性質が逮捕には認められるからです。
 逮捕が犯罪だと言われてもしっくり来ない方であっても、監禁が犯罪であることについて違和感を感じることはないのではないでしょうか。

 監禁とは、人を一定の区域から出られないように閉じ込める行為を指すものと解されており、逮捕は人の自由を奪う行為と解されています。ですから、人の移動の自由を奪うという意味で、監禁と逮捕は同質の行為であり、「逮捕」も犯罪行為の一つであることに違いないのです。

(2)刑事訴訟法上の意義

 では、私達がよく聞く、捜査機関による被疑者の「逮捕」は、上述した犯罪としての「逮捕」と何が違うのでしょうか。
 皆様も御存知のとおり、捜査機関が被疑者を逮捕する際には、被疑者に手錠をかける等することになる訳ですから、捜査機関が行う行為自体は、刑法上の「逮捕」と同じようなものです。

 刑事訴訟法上の「逮捕」とは、そのような「逮捕」行為の内、捜査の一環として適切に行われるもののことを指しています。

刑事訴訟法

第199条
1項 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるときは、裁判官のあらかじめ発する逮捕状により、これを逮捕することができる…。
2項 裁判官は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があると認めるときは、検察官又は司法警察員…の請求により、前項の逮捕状を発する。但し、明らかに逮捕の必要がないと認めるときは、この限りでない。
第210条
1項 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、死刑又は無期若しくは長期三年以上の懲役若しくは禁錮にあたる罪を犯したことを疑うに足りる充分な理由がある場合で、急速を要し、裁判官の逮捕状を求めることができないときは、その理由を告げて被疑者を逮捕することができる。この場合には、直ちに裁判官の逮捕状を求める手続をしなければならない。逮捕状が発せられないときは、直ちに被疑者を釈放しなければならない。
第212条
1項 現に罪を行い、又は現に罪を行い終った者を現行犯人とする。
2項 左の各号の一にあたる者が、罪を行い終つてから間がないと明らかに認められるときは、これを現行犯人とみなす。
1 犯人として追呼されているとき。
2 贓物又は明らかに犯罪の用に供したと思われる兇器その他の物を所持しているとき。
3 身体又は被服に犯罪の顕著な証跡があるとき。
4 誰何されて逃走しようとするとき。
第213条
現行犯人は、何人でも、逮捕状なくしてこれを逮捕することができる。

 刑事訴訟法はこのように3種類の「逮捕」を定めています。裁判官の令状をもとに被疑者を逮捕する通常逮捕、被疑者を逮捕した後に令状を取得することで足りる緊急逮捕、現行犯逮捕の3種類です。

 いずれも、被疑者が何らかの犯罪行為に及んだ犯人であるかどうかについての捜査を行うにあたって必要性が認められる場合に行われる行為です。

 逮捕は、犯罪に対する刑罰ではありませんから、捜査の必要性がない場合に、制裁として用いることができるわけではないのです。

ですから、警察官が被疑者を逮捕した場合には、検察官に被疑者とその事件を送致し、検察官に当該事件の捜査及び処分をさせる必要があるのです。

刑事訴訟法

第203条
司法警察員は、逮捕状により被疑者を逮捕したとき…留置の必要があると思料するときは被疑者が身体を拘束された時から48時間以内に書類及び証拠物とともにこれを検察官に送致する手続をしなければならない。

2.私人逮捕とは

(1)現行犯逮捕にのみ可能

 先程、逮捕には3つの種類があると説明しました。そして、その内の現行犯逮捕以外は、逮捕状が必要となります。一般人は、裁判所に対して逮捕状を請求することはできませんから、何らかの犯罪被害にあった場合であっても、自ら令状に基づいて加害者を逮捕することはできません。

 他方で、逮捕状を必要としない現行犯逮捕についてのみ、刑事訴訟法第213条は、「何人でも」犯人を逮捕できると規定しており、捜査機関以外の方でも犯人を逮捕できることとしています。これを「私人逮捕」と呼んでいるのです。
 しかし、先程説明したとおり、「逮捕」は刑法で処罰される犯罪行為です。この点はどうなるのでしょうか。
 犯人を逮捕するために、自分も罪を犯してしまうことになるのでは、「私人逮捕」という制度は機能しないこととなってしまいます。
 この点については、適法な「私人逮捕」として犯人を逮捕する場合には、刑法第35条の正当行為として、その行為は処罰対象とならないものと解されているのです。

(2)「私人逮捕」が認められている理由

 現行犯逮捕についてのみ、一般人にも犯人を逮捕することを許容しているのは、現行犯逮捕の場合、目の前で犯人の犯罪行為を目撃していることから、犯人ではない人を犯罪者と誤認して逮捕してしまうような危険性が小さく、その場から逃走されてしまうと、その後の捜査の進捗に多大な影響が出てしまうからです。
 ですから、捜査の専門家である警察官や検察官でなくても、逮捕される人間が犯人であることが明らかである犯罪行為との関係で、私人逮捕が多く問題となります。

例えば、誰かの顔面を殴打する等して怪我をさせた現場を確認することができれば、傷害罪の犯人であることは一見して明らかですから、このような粗暴犯との関係において、「私人逮捕」は問題になり易いものと言えます。今回問題となっている事件との関係でも、高校生が副校長に暴力を振るったことが問題となっているようです。
 逆に、背任や業務上横領等の経済犯においては、見ただけで犯罪行為であることが明らかといった事案は多くありません。
 例えば、会社の金庫からお金を持ち出している人を見かけたとしても、会社の備品等を買い出しに行くのかもしれませんし、直ちにお金を着服したということは言えないからです。

(3)「私人逮捕」後の手続

 被疑者を逮捕したのが一般人だったとしても、当然の話ですが、その一般人が捜査を進めるわけではありません。

刑事訴訟法

第214条
検察官、検察事務官及び司法警察職員以外の者は、現行犯人を逮捕したときは、直ちにこれを地方検察庁若しくは区検察庁の検察官又は司法警察職員に引き渡さなければならない。

つまり、犯人を逮捕した一般人は、直ちにその犯人を検察官や警察官に引き渡す必要があるのです。

.私人逮捕の問題点

 上述したとおり、現行犯逮捕についてのみ私人逮捕が許容されているのは、捜査の専門家ではない一般人に犯人を逮捕させても、誤認逮捕の可能性が小さいと考えられているからです。

 しかしながら、現行犯逮捕に限れば誤認逮捕の危険性は小さいと本当に言えるでしょうか。

 例えば、先程例としてあげた傷害事件との関係でも、目撃者が確認した暴力行為の前に、相手方から執拗な攻撃を受けており、その攻撃を止めるために必要最小限として反撃を加えただけなのであれば、正当防衛が成立する可能性はあります。

また、痴漢行為のように混雑した場所で行われる犯罪行為については、現行犯逮捕であっても、誤認逮捕の可能性は否定できないように思いますし、危険性が小さいとも言えません。

更に、「逮捕」は、捜査のために必要であるからこそ、本来的には犯罪行為にもなり得る行為について、正当な行為として扱われる訳ですが、捜査機関が全ての犯人を逮捕している訳ではないことについては皆様も御存知のことと思います。捜査機関であれば、逮捕の必要性まではなく、在宅で捜査を進めるのが相当であると簡単に判断できる事案であっても、一般人にはそのような知識も経験もない訳ですから、捜査上必要とまではいえないような場合にも、犯人を逮捕してしまう可能性があるのです。

4.私人逮捕された事案における弁護活動

 以上のとおり、私人逮捕が法律上許されているのは現行犯逮捕に限られます。当たり前かもしれませんが、捜査機関ではない者が裁判所から逮捕状を受け取って他人を逮捕するということは許されていないのです。  
 現行犯逮捕は、逮捕状なくして逮捕を許容する手続です。したがって、裁判所による事前審査がなされていない点で、逮捕状による逮捕の場合と比較して、手続的に適切さの担保がなされていません。さらに、私人逮捕の場合には、捜査の専門家ではなく、素人によるものになりますから、より一層、その適切さの担保がなされていないことになります。  
 一方で、現行犯逮捕でしか問題となりませんから、事前に私人逮捕を避けるような弁護活動を行う事はできませんし、犯罪者と誤解されるような言動を慎むという以外に、その可能性を低めることは考えられません。  
 そこで、もし私人逮捕されてしまうようなケースがあれば、御家族や知人を介して刑事時事件の弁護士に御相談いただくことになろうかと思います。当然、私人逮捕は法律で認められている手続ですから、私人逮捕であることを理由に逮捕の違法性を常に主張するべきだという事ではありません。  
 しかし、逮捕の段階で捜査機関が現場に存在しない事から、身体拘束時間の問題や、そもそも本当に現行犯としての要件を満たしているかなど、勾留決定を回避するために争い得るポイントは多く存在します。  
 逮捕されるだけでも十分に大きな不利益を被ることになりますが、10日間や20日間の身体拘束を伴う勾留を避けることができるかどうかは、極めて大きなポイントとなります。多くの刑事事件に関するHPで72時間以内というような具体的な数字と共に、できる限り早いタイミングでの刑事事件の弁護士の選任の必要性が謳われていますが、まさにスピードが重要になる事案の一つだといえるでしょう。

5.まとめ

 以上のとおり、私人逮捕は現行犯逮捕についてのみ認められているものです。そして、犯人に逃げ得を許さず、犯した罪に対して適切な刑罰を与えるという意味では、捜査機関以外の者に対して犯人を逮捕する権限を与えることは不適切なものではありません。

しかしながら、捜査の専門家ではない以上、現行犯逮捕に限定したとしても、私人逮捕には誤認逮捕の危険性が大きく認められますし、犯人を誤認していないようなケースにおいても、逮捕する必要のない事案においてまで犯人を逮捕してしまうようなケースも懸念されます。
 今回報道されたケースにおいて、被疑者を逮捕したのが不適切であったのかについては、詳細な事実関係が分かりませんのでコメントすることはできませんが、逮捕することなく捜査機関に委ねた方が好ましかったようにも思います。
 確かに、私人逮捕は刑事訴訟法で許容されている制度ではありますが、「逮捕」という行為自体は犯罪行為であるということについても、十分に理解する必要があるものと思います。

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