ミスでも犯罪が成立する?外国人の雇用に関する問題
- 不法就労活動者を働かせていた場合、雇用していなくても不法就労助長の罪は成立する。
- 就労できる資格を有していないことに故意がなくても、過失がある場合には不法就労助長の罪は成立してしまう。
- 不法就労助長の罪を犯した側が外国籍の場合、執行猶予が付された場合であっても、退去強制事由に該当してしまう。

弁護士
岡本 裕明
昨今、外国籍の被疑者・被告人による犯罪行為についての報道が目立つように感じています。その背景には様々な要因が含まれていると思いますから、実際に外国籍の方による犯罪の件数が増えているのか、日本人と比較して犯罪行為に及んでしまう方の割合が高いのかなどについては、今回解説の対象とはしません。
他方で、日本で生活する中で、外国籍と思われる方と接触する機会は、十数年前と比較すると増えてきているように感じるのではないでしょうか。実際に、厚生労働省が公表している、外国人雇用状況の届出状況についての資料によると、令和5年10月末日の集計の際に、外国人労働者の数が初めて200万人を超えたことが記載されていました。そのことに伴って、外国籍の従業員を雇用している事業者の数も、右肩上がりに増加しているようです。
先日、日本国籍の有無によって、成立する犯罪や手続に違いが生じるのかどうかについて解説させていただいました(「日本人であればこれまでの生活は維持できるのに…退去強制の事案 」)。詳細は、こちらの記事を確認していただければと思いますが、法律的に異なる刑罰や手続が予定されていることはほとんどありません。
しかし、日本国籍を有する方との関係では問題とならず、日本国籍を有しない方との関係でのみ、犯罪が成立するケースが例外的に存在します。それが、在留資格との関係で問題となる犯罪です。具体的には、出入国管理及び難民認定法(以下、「入管法」といいます。)違反の事案です。
典型例が、許可された期間以上に日本での生活を続けてしまっているオーバーステイの事案でしょう。日本国籍を有していれば、日本で生活していること自体が犯罪を構成することはありませんので。
一方で、オーバーステイ等の入管法違反の事案において、日本国籍を有している方であっても、刑罰が科されてしまうケースがあります。その典型例が不法就労助長罪ではないでしょうか。
外国籍の労働者数が増加していることを考えると、働かせてはならない外国籍の従業員を働かせてしまうことによって、同罪による刑罰が科されることがないように、特に事業を営んでいる方は注意が必要です。
特に、意図的にオーバーステイの方を雇用している場合には、法律に違反していることを覚悟しているのかもしれませんが、採用時点で十分な調査を行わなかった結果として、雇用できない従業員を雇ってしまった場合にも、同罪が成立するとなると、綿密な調査が採用時に求められることになります。
今回は不法就労助長の罪について、解説させていただきます。
1.法律の定め

弁護士
岡本 裕明
不法就労助長罪については刑法ではなく、出入国管理及び難民認定法(以下、「入管法」と略します。)に定めがあります。まずは、その内容を確認してみましょう。
入管法
第73条の2
1項 次の各号のいずれかに該当する者は、3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
1号 事業活動に関し、外国人に不法就労活動をさせた者
2号 外国人に不法就労活動をさせるためにこれを自己の支配下に置いた者
3号 業として、外国人に不法就労活動をさせる行為又は前号の行為に関 しあつせんした者
2項 前項各号に該当する行為をした者は、次の各号のいずれかに該当することを知らないことを理由として、同項の規定による処罰を免れることができない。ただし、過失のないときは、この限りでない。
1号 当該外国人の活動が当該外国人の在留資格に応じた活動に属しない収入を伴う事業を運営する活動又は報酬を受ける活動であること。
2号 当該外国人が当該外国人の活動を行うに当たり第19条第2項の許可を受けていないこと。
3号 当該外国人が第70条第1項第1号、第2号、第3号から第3号の3まで、第5号、第7号から第7号の3まで又は第8号の2から第8号の4までに掲げる者であること。
基本的には、「外国人に不法就労活動」をさせた場合に、不法就労助長の罪が成立することになります。
では、「不法就労活動」とはどのような活動を意味するのでしょうか。
不法就労活動については、入管法第24条3号の4イで定義されており、「第19条第1項…の規定に違反する活動…」とされています(他にも不法就労活動とされるケースはありますが、今回の解説の対象となりそうなもののみをとりあげていますので、気になる方は法律の原文を御確認ください。)
そして、第19条第1項は次のように定めています。
(活動の範囲)
第19条1項
別表第1の上欄の在留資格をもつて在留する者は、次項の許可を受けて行う場合を除き、次の各号に掲げる区分に応じ当該各号に掲げる活動を行つてはならない。
1号 別表第1の1の表、2の表及び5の表の上欄の在留資格をもって在 留する者:当該在留資格に応じこれらの表の下欄に掲げる活動に属しない収入を伴う事業を運営する活動又は報酬(業として行うものではない講演に対する謝金、日常生活に伴う臨時の報酬その他の法務省令で定めるものを除く。以下同じ。)を受ける活動
2号 別表第1の3の表及び4の表の上欄の在留資格をもつて在留する者:収入を伴う事業を運営する活動又は報酬を受ける活動
こちらも別表の内容が理解できないと、何を禁止しているのか分かり難い内容となっています。別表まで引用してしまうと、今回のコラムが入管法の条文を引用下だけの内容になってしまいますので、こちらも気になる方は法律の原文を御確認ください。
別表第1の1の表では、教授、芸術等の在留資格が定められていますから、このような資格に関連する内容以外の活動で、報酬を受けることが禁止されているのです。また、2号は、もともと日本で報酬を得る活動を行うことが想定されていない短期滞在等の在留資格の場合、報酬を受ける活動を全面的に禁止する内容となっているのです。
2. 雇用していなければ不法就労助長には該当しないのか

弁護士
岡本 裕明
以上のとおり、不法就労助長の罪の構成要件については、同罪についての罰則を定めている第73条の2の条文を確認しただけでは把握できず、入管法の様々な条文を確認する必要があるため、非常に分かり難いものとなっています。
そこで、どのような事案において不法就労助長の罪が問題となっているのか確認してみましょう。
不法就労助長の罪に関する報道を検索してみると、在留期間更新や変更をしないままで在留し続けた従業員を就労させていた法人の代表者らが逮捕された旨の報道が散見されます。
裁判例について検索してみても、そもそも在留資格がない方を就労させているケースが多く、意図的に不法就労活動を行わせ、捜査機関や入管にその事実が露見しないように事業を営んできたようなケースが多く認められます。
在留資格がない方を働かせていたことが発覚した後、被告人となった事業主らの弁解等の中には、在留資格がない方が働いていた事実は認めつつも、雇用していた訳ではない旨の主張が散見されます。
しかし、入管法では「報酬を受ける活動」が禁止されているのであって、雇用されることを禁止している訳ではありませんから、業務委託のような形であっても不法就労助長の罪は成立します。さらに言うと、実際に報酬を支払っていなくても、不法就労助長の罪は成立し得るのです。
例えば、スナックにおいて外国籍の女性を働かせていたとして、スナックの店長に対する不法就労助長の罪が問題となった事例(東京高等裁判所平成6年11月14日判決)では、「不法就労活動」とは、「不法残留者等が同号の主体である者から報酬その他の収入を得る行為をいう、と限定して解釈しなければならないものとは考えられない。」と判示されています。つまり、店から報酬を支払うのではなく、スナックの利用客から売春等の対価として報酬を受けていた場合であっても、スナックの店長に不法就労助長の罪が成立すると判示されたのです。
ですから、在留資格のない方を働かせたような場合には、雇用していない場合であっても、直接報酬を支払っていない場合であっても、不法就労助長の罪が成立し得るということに注意する必要があります。
3.故意

弁護士
岡本 裕明
不法就労助長の罪は、不法就労活動を行う外国籍の方がいなければ成立しません。そして上述したような、意図的に在留資格がない方を働かせているケースを除くと、不法就労活動を行う側も、自らが不法就労活動に及んでいることを隠そうとするでしょう。
そのようなケースでは、不法就労活動を行う側が悪質だったのであって、そのような者を雇用していた事業主側は、騙された被害者としての側面もあるように思います。
そして、刑罰については、原則として故意が認められる場合(語弊がある表現ですが、意図的に犯罪を行った場合)にしか成立しません。刑法第38条1項が
「罪を犯す意思がない行為は、罰しない。」と定めているとおりです。
しかし、同項は但し書きで「法律に特別の規定がある場合は、この限りでない。」と定めていますので、法律で過失犯についても刑罰を科す旨が定められている場合には、例外的に故意がない場合であっても処罰されることになります。
そして、不法就労助長罪との関係については、この点について特殊な定めを設けています。第73条の2第2項で「次の各号のいずれかに該当することを知らないことを理由として、同項の規定による処罰を免れることができない。ただし、過失のないときは、この限りでない。」と定めているのです。
つまり、適法に就労するための許可や在留資格を有していなかったことを知らなかった場合であっても、知らなかったことについて過失が認められる場合には、犯罪が成立する旨を定めているのです。
ですから、外国籍の方を雇用するなどする場合には、適法に就労させることができるかどうかについて、適切な確認・調査を行うことが求められることになるのです。
また、在留資格については適宜更新する必要がありますから、採用時点では不法就労活動にあたらなくても、在留資格の更新等の手続を怠った結果として、途中から不法就労活動に該当してしまうことも考えられます。
名古屋地方裁判所令和2年10月14日判決は、「採用後であっても、不法滞在の疑いが生じた場合は、在留カードの原本を提示させて、その記載内容、ホログラムや印刷状態等を確認し、関係官署に相談するなどして、正規在留者であることが確認出来れば雇用を継続し、確認出来ず不法滞在の疑いが残る以上は雇用継続しなければすむ話」などと判示しています。
この判決は、被告人に故意を認めていますので、過失について判断したものではありませんが、採用後も適切な調査などを行っていなければ、過失が認定され、不法就労助長の罪が成立する可能性が高いものといえるでしょう。
4.不法就労助長と弁護活動

弁護士
岡本 裕明
以上のとおり、不法就労助長の罪との関係では、故意がなかった場合であっても、過失が認められることによって、同罪の成立が認められてしまい、無罪の主張に繋がらないことがあります。
私達は刑事事件を取り扱う事務所ですから、就労する資格のない方を働かせてしまった場合のことについて主としてお話しさせていただいておりますが、厚生労働省のパンフレット等によって、外国籍の方を雇用する際の注意点等が説明されていますから、まずは不法就労活動にあたる方を働かせることがないように御留意いただければと思います。
もし、不法就労助長の罪で被疑者・被告人として扱われることになってしまった場合、上述したとおり、故意を否定しただけでは無罪を主張することになりませんから、無罪主張を前提とする場合、採用時等において在留資格を適切に調査したにもかかわらず、不法就労活動を行っていた人間が在留カードを緻密に偽造していたなどの理由で、適切な在留資格を有していなかったことに気づけなかったことなどを主張することになるでしょう。
過失まで否定しなければいけないのは非常にハードルが高い側面が認められます。しかし、不法就労助長の罪に関しては、入管法第24条4号ヘに「第73条の罪により禁錮以上の刑に処せられた者」と定められていますから、禁錮刑以上の刑が科された場合、助長していた側も退去強制事由に該当してしまうことになります。外国籍の方を多く雇用するのは、外国籍の方であることも多いので、不法就労助長についての弁護活動を行う際には、執行猶予付きの判決を得ただけでは、退去強制事由に該当してしまうかもしれないという点に注意しなければなりません。
5.まとめ

弁護士
岡本 裕明
不法就労助長の罪について解説させていただきました。
不法就労助長と一口に言っても、就労させてはいけないことを十分に認識しつつ、そのような人を働かせているケースや、過失は認められるものの、意図的に就労させていた訳ではないケースなど、その内容は様々です。
また、就労させていた不法就労活動者の数などによっても、その悪質性は異なってきます。前科のない初犯の方による犯行であっても、直ちに起訴されることはあり得るのです。
更に、不法就労助長罪との関係では、必ず不法就労活動者という犯罪の関係者が存在しますので、当該関係者との接触することによって、罪証隠滅を図る可能性などを理由に、逮捕・勾留されてしまう可能性が高く認められるのです。
もし、不法就労助長の罪との関係で、取調べ等を受けているような状況にあるようでしたら、直ちに御相談いただければと思います。
