児童相談所に一時保護されてしまった。触法少年の身体拘束について
- 虐待だけでなく触法行為に及んだ場合も、児童相談所での一時保護が行われる。
- 親権者が同意してしまうと、裁判所の関与なく、一時保護を行える。
- 親権者の同意がなければ、一時保護状が必要となるが、一時保護状に対して、保護者や児童や弁護士は不服申し立てを行う機会はない。
刑事事件の経験はあっても、少年事件については経験したことがないという弁護士は一定数存在します。少年法が適用されるかどうかによって、手続が大きく変わるだけでなく、求められる弁護活動も変わってきます。刑事事件の経験だけでなく、少年事件についての経験を有する弁護士からのアドバイスが重要になるのです。
さらに、少年事件についての経験を有する弁護士の中でも、触法事件についての経験を有する弁護士となると、その数はさらに少なくなります。
触法事件とは、14歳未満の少年に関する事件になります。14歳以上の少年による事件と大きく違うのは、刑法第41条が「14歳に満たない者の行為は罰しない。」と定めている点です。このような触法事件の特殊性については、「触法事件について」 という記事で概要を解説させていただきましたので、そちらをご確認ください。
罰することができない以上、捜査機関は被疑者に対して行っているような犯罪捜査を行うことはできませんし、触法少年を逮捕・勾留することはできません。しかしながら、触法少年の身体が拘束されるケースは存在します。
それが、一時保護と呼ばれる手続です。


弁護士
岡本 裕明
一時保護というと、保護者らから虐待等を受けている児童を保護するための制度という印象があるのではないでしょうか。実際に、厚生労働省子ども家庭局家庭福祉課虐待防止対策推進室の報告(「一時保護の実態調査の結果(速報値)について」 )によると、一時保護の半数以上が児童虐待のおそれを理由とするものとのことでした。
他方で、保護者ではなく、14歳未満の少年自身が、法律に違反する行為に及んでしまったことを契機として、児童相談所に保護されてしまうケースも存在するのです。今回は、一時保護について、触法少年との関係で解説をさせていただこうと思います。
目次
1.一時保護とは

弁護士
岡本 裕明
まずは、一時保護とはどのような制度なのかについて、法律の条文を確認しながら説明をさせていただきます。
児童福祉法
第33条1項
児童相談所長は、児童虐待のおそれがあるとき、少年法第6条の6第1項の規定により事件の送致を受けたときその他の内閣府令で定める場合であって、必要があると認めるときは、第26条第1項の措置を採るに至るまで、児童の安全を迅速に確保し適切な保護を図るため、又は児童の心身の状況、その置かれている環境その他の状況を把握するため、児童の一時保護を行い、又は適当な者に委託して、当該一時保護を行わせることができる。
ここでいう「児童の一時保護」が、一時保護を意味しているのですが、肝心の一時保護の内容については説明がありません。児童福祉法は、一時保護の内容を定義するような内容を設けていないのです。
この条項からは、「児童の安全を迅速に確保し適切な保護を図る」、又は「児童の心身の状況、その置かれている環境その他の状況を把握する」という目的のために行われるものであることしかわかりません。
もっとも、刑事訴訟法における「逮捕」や「勾留」のように身体拘束が必ず伴うことを意味するものではありませんが、ほとんどの場合は、保護者らによる養育環境から一時的に離れさせたうえで、施設で保護することを意味する手続になります。
児童の保護を目的としている訳ですから、逃亡や証拠の隠滅を防ぐために行われる「逮捕」等と性質は大きく異なりますが、何ら保護される必要がないにもかかわらず、何らかの誤りで保護されるに至ってしまった場合、触法少年や保護者からすれば不当な逮捕と同じような印象を抱くことになるでしょう。
留置場等と比較すれば開放的な処遇となっており、逃亡することが現実的に不可能とはいえないものの、触法少年の意に反して保護施設に連れ戻すことが可能である点も、身体拘束としての側面を強くしているものといえます。
2.一時保護の要件

弁護士
岡本 裕明
では、どのような場合に一時保護が行われることになるのでしょうか。
先ほど引用した児童福祉法第33条1項では、触法少年と関連しそうな要件として、「少年法第6条の6第1項の規定により事件の送致を受けたとき」に一時保護が可能である旨を定めていました。
少年法
(警察官の送致等)
第6条の6
警察官は、調査の結果、次の各号のいずれかに該当するときは、当該調査に係る書類とともに事件を児童相談所長に送致しなければならない。
1号 第3条第1項第2号に掲げる少年に係る事件について、その少年の 行為が次に掲げる罪に係る刑罰法令に触れるものであると思料するとき。
イ 故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪
ロ イに掲げるもののほか、死刑又は無期若しくは短期二年以上の拘禁刑 に当たる罪
2号 前号に掲げるもののほか、第3条第1項第2号に掲げる少年に係る 事件について、家庭裁判所の審判に付することが適当であると思料するとき。
ここでいう「第3条1項第2号に掲げる少年」というのが触法少年を意味します。そこで、被害者を死亡させるような重大な犯罪の場合、警察官は事件を児童相談所に送致することになります。また、長期的に施設での処遇が必要だと判断される場合には、家庭裁判所の審判で決められることになりますが、少なくともそのような審判が必要だと判出される程度に、生活環境が整備されていない場合も、警察官から児童相談所に事件が送致されることになるのです。
また、一時保護を行う要件として、「内閣府令で定める場合」とも児童福祉法では定められていました。その内容は下記の通りです。
児童福祉法施行規則
第35条の3
法第33条第1項に規定する内閣府令で定める場合は、次に掲げる場合とする。…
1号 …児童虐待を受けた場合若しくはそのおそれがある場合…
2号 少年法…第6条の6第1項の規定による送致を受けた場合又は警察官から法第25条第1項…の規定による通告を受けた場合
3号 児童の行動が自己若しくは他人の生命、心身若しくは財産に危害を 生じさせた場合若しくはそのおそれがある場合又は危害を生じさせるおそれがある場合
中心となるのは児童虐待の問題ですが、触法少年と関連しそうなものとして、第2号と第3号があげられます。3号はわかりやすい内容ですが、2号については、児童福祉法第25条1項の「通告」の内容を理解する必要があります。
同項は、「要保護児童を発見した者は…児童相談所に通告しなければならない。」としか定められておらず、その内容は明確にされていませんが、直ちに一時保護が必要な程度のものに限られるわけではなく、深夜徘徊のような、場合によっては保護の必要性が高度ではないケースも多く含まれています。
3.一時保護に対する不服申立

弁護士
岡本 裕明
以上のように、一時保護を行うためには、大きく分けて2つの要件が必要となることがわかりました。1つは、「児童虐待のおそれがあるとき」や「少年法第6条の6第1項の規定により事件の送致を受けたとき」等に該当することと、もう1つは、「(一時保護)が必要があると認めるとき」という要件です。
では、これらは誰が判断することになるのでしょうか。従前は、専門家である児童相談所の判断に一任されていたようですが、令和7年6月1日以降は裁判所が判断することになるようです。
児童福祉法
第33条3項
児童相談所長又は都道府県知事は、前2項の規定による一時保護を行うときは、次に掲げる場合を除き、一時保護を開始した日から起算して7日以内に、第1項に規定する場合に該当し、かつ、一時保護の必要があると認められる資料を添えて、これらの者の所属する官公署の所在地を管轄する地方裁判所、家庭裁判所又は簡易裁判所の裁判官に次項に規定する一時保護状を請求しなければならない。…
1号 当該一時保護を行うことについて当該児童の親権を行う者又は未成
年後見人の同意がある場合
2号 当該児童に親権を行う者又は未成年後見人がない場合
逮捕状のように事前に礼状を取得するのではなく、事後的に一時保護状を求める運用になっているのは、虐待が疑われる児童を早期に保護するためでしょう。また、一時保護状が必要となるのが、親権者の同意がない場合に限られます。同意してしまうと、一時保護状がなくとも一時保護は行えることになってしまいますので、家庭での養育を望む保護者としては、一時保護に同意してはならないということになります。
特に、この一時保護状については、逮捕状と同様に、裁判官から発せられる際に、そのような保護状を出さないよう求める手続や、発せられたことについて不服申立てを行う手続が整備されていないのです。
大人の事件であれば、逮捕状が発されてしまっても、その後の勾留決定に際しては、弁護人から意見をいうことができますし、勾留決定の取り消しを求めて不服申し立てを行うことも可能ですが、触法事件における一時保護との関係では、そのような手続は一切保障されていないのです。
4.一時保護と弁護活動

弁護士
岡本 裕明
一時保護はあくまでも児童のために行われる処分です。これは虐待ではなく、触法行為に及んだことを原因とする場合でも同じです。制裁としてではなく、児童を保護するために一時的に親元から話した生活を送らせるわけです。
ですから、まずはその一時保護が本当に不適切なものなのかについて、保護者と弁護士との間で話し合いを行う必要があるでしょう。その上で、触法行為に及んでいないにもかかわらず、触法少年として一時保護されている等が明らかになるようでしたら、早期に自宅に帰ってこられるような活動を行うことになります。
とはいえ。一時保護状が発されたこと自体については不服申し立てを行うことはできません。そこで、取消訴訟を提起しつつ、執行停止を求めるという手段が考えられますが、行政訴訟を一から起こすわけですから、ほとんどの場合はこのような取消訴訟の結論が出る前に、一時保護期間が終わってしまうように思われます。
現実的には一時保護の期間は原則として2か月間とされていますから、この2か月で帰宅させてもらうことができるように、児童相談所と交渉していくことになるでしょう。
触法行為が理由となる場合、虐待を理由とする場合とは異なりますので、ご両親がいかに本人に対して適切な指導を行えるかといった点を、児童相談所の担当者に理解してもらえるかが重要になろうかと思います。
5 まとめ

弁護士
岡本 裕明
以上のとおり、一時保護については、法律が十分にその内容を定義できているとはいえず、法改正もなされたばかりであることから、運用も確立しているとは言えません。だからこそ、不当な扱いについては、しっかりと声を上げなければ、誤った運用が定着してしまうおそれもあるのです。
触法少年の事件について、お悩みがあるようでしたら、御気軽にご相談ください。









