持続化給付金詐欺が社会問題に。どんな内容なのか。
- 1. 持続化給付金詐欺による逮捕事例が報道されており、多くの方を巻き込む社会問題となっている。
- 2. 巻き込まれてしまいがちである一方で、詐欺罪に該当するため、逮捕・起訴される可能性も認められる。
- 3. 刑事事件との関係で自首すべきかどうかの検討が必要であることに加えて、延滞金等の支払の問題もあり、早期の相談が望ましい。
緊急事態解除宣言がなされてから数カ月が経過し、従前の経済活動を取り戻そうと多くの方々が努力をされています。そして、日本政府も、そのような方々をサポートするために、助成金等の様々な政策を打ち出しています。
しかし、昨今、このような政策を悪用する犯罪が多発しております。その中でも、目立って相談の数が多いのが持続化給付金に関する御相談です。
先日も、虚偽の情報をもとに持続化給付金を詐取したとして、未成年の被疑者が逮捕された旨のニュースが報道されていました。
弊所にも持続化給付金の詐欺に関する御相談が数多く寄せられております。その多くが、知人等から何らかの給付金を受け取る資格がある旨を伝えられ、知り合いの税理士等に依頼すれば簡単に多額の金銭を受け取ることができると誘われ、言われるがままに御自身の名義で給付金の申請をしてしまうというケースです。
何故、ここまで大きな社会問題となってしまっているのか、持続化給付金詐欺とはどのような内容なのかについて、解説させていただきます。
目次
1.持続化給付金とは
(1)制度の内容
持続化給付金という制度自体は御存知の方が多いかもしれません。給付金を受領した方も多いのではないでしょうか。
まずは、この制度の内容について確認しましょう。
持続化給付金とは、コロナウイルスの拡大によって、営業の自粛等に追い込まれた事業者の方々に対して、今後も引き続き事業を継続して行ってもらうために、自粛等によって生じた損害を補填するために支払われる給付金です。
持続化給付金給付規程(個人事業者等向け)
第1条
持続化給付金(以下「給付金」という。)の給付については、この規程に定めるところによる。
第2条
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大に伴うインバウンドの急減や営業自粛等により、特に大きな影響を受けている中堅企業、中小企業その他の法人等(以下「中小法人等」という。)及びフリーランスを含む個人事業者(以下「個人事業者等」という。)に対して、事業の継続を支え、再起の糧とし ていただくため、事業全般に広く使える給付金を給付することを目的とする。
したがって、この給付金は、あくまでも事業者に向けた給付金です。コロナウイルスの拡大によって、学生や会社員の方も大きな損害を被っている訳ですが、事業を営んでいなければ受け取ることができない性質のものと言えます。
また、今後も事業の継続を予定していなければならず、コロナウイルスの影響によって、その事業収入が半減していなければ、給付金を受領することはできません。
持続化給付金給付規程(個人事業者等向け)
第4条
1項 給付金の…申請者が、個人事業者等の場合には、次の各号のいずれにも該当しなければならない。ただし、給付金の給付は同一の申請者に対して一度に限るものとする。
1号 2019年以前から事業により事業収入…を得ており、今後も事業を継続する意思があること
2号 2020年1月以降、新型コロナウイルス感染症拡大の影響等により、前年同月比で事業収入が50% 以上減少した月…が存在すること…対象月の事業収入については、新型コロナウイルス感染症対策として地方公共団 体から休業要請に伴い支給される協力金等の現金給付を除いて算出するものとする。
(2)特徴
持続化給付金の最大の特徴は、簡易な手続で大きな金額の給付を受けることができる点にあります。
持続化給付金給付規程(個人事業者等向け)
第5条
給付金の給付額は、100万円を超えない範囲で、2019年の年間事業収入から対象月の月間事業収入に12を乗じて得た額を差し引いたものとする。
第6条
3項 申請者は、次に掲げる情報(以下「基本情報」という。)を事務局に提出すること。
1号 屋号・雅号
2号 業種
8号 2019年の事業収入
9号 対象月の月間事業収入、2019年の対象月と同月の月間事業収入
10号 申請者本人名義の振込先口座に関する情報
4項 前項の申請にあたっては、次に掲げる書類等のデータ(以下「証拠書類等」という。)を事務局に提出すること。
1号 青色申告を行っている場合は、次のイからホの全て。
イ 2019年分の確定申告書第1表の控
ロ 対象月の月間事業収入がわかるもの
ハ 申請者本人名義の振込先口座の通帳の写
ニ 別表1に定める本人確認書類
ホ その他事務局が必要と認める書類
まず、持続化給付金について、個人事業主に対する上限額は100万円になります。コロナウイルスによって大きな損失を受けた個人事業主をサポートするために、この金額が十分かどうかについては意見が分かれるところではありますが、決して小さな金額ではありませんから、違法な手段によって給付金をだまし取ろうと考える者が出てきても不思議ではありません。
そして、この金額を入手するための申請は、インターネットを介して行うことができ、市役所の方等と直接やりとりをする必要がありません。
この点は、本当にサポートを受けたい方に対するサポートが遅れてしまうと、給付金を受け取れる前に、事業が破綻してしまう恐れもありますから、申請しやすい環境を整備してくれている訳です。
ですから、確定申告の書面等、一般的にその内容の真実性が担保されていると思われるような書面の提出は求められているものの、極めて簡易な手続によって給付金を得られる点に特徴があるものと言えます。
2.持続化給付金詐欺
(1)何故大きな問題となっているのか
持続化給付金詐欺が大きな問題となっているのは、上述したとおり、極めて簡易な手続で100万円という大きな金額を入手することができるからです。
さらに、持続化給付金詐欺の被害者は公共機関であって、社会問題となっているオレオレ詐欺のように、高齢者を被害者とする犯罪ではありません。国や地方自治体が被害者であれば犯罪がし易いということは全くないのですが、高齢者が被害者となるようなケースと比較して、心理的なハードルが低いように思われているのも、社会問題となっている一因のように思われます。
また、今回のコロナウイルスの蔓延によって、国や地方自治体は、当該ウイルスの蔓延の影響を受けた方々に、様々なサポートを行っており、その全てを正確に把握することは困難な状況となっております。
そこで、「あなたも国や地方自治体から給付金をもらうことができるよ」等と誘われた場合、最初は犯罪行為だということに気付かず、犯罪に関与することの自覚なく、持ち掛けられた話に乗ってしまいやすいという点も、持続化給付金詐欺に関与してしまう理由と言えるでしょう。
しかしながら、持続化給付金詐欺もその名のとおり、詐欺であることに変わりありません。
また、冒頭で持続化給付金詐欺に関与してしまうケースの典型例をお伝えしましたが、このような場合に、必要な書面を作成するのは税理士を自称する者であっても、申請行為自体は御自身でなさっていることがほとんどであり、その給付金の振込先も御自身の口座を指定されていると思いますので、詐欺罪との関係では共犯ではなく実行犯という扱いになってしまいます。
更に、当初は犯罪行為としての認識が薄かったとしても、申請する際には、自身が一切行っていない事業に関する書面を添付して申請しており、そのことを認識して申請している訳ですから、詐欺罪についての故意がないと主張することも困難です(詐欺だとは知らずに関与してしまったという言い訳が通用しないという意味です)。
したがって、捜査機関によって被疑者として扱われた場合、無罪を主張することが困難となってしまいます。
3.持続化給付金詐欺に関与してしまった場合
上述したとおり、持続化給付金詐欺に関与してしまった場合、詐欺罪を犯してしまっているケースがほとんどだと言えそうです。
一方で、給付金が振り込まれる前に自首した場合や、振り込まれた後であっても、そのお金を引き出すことなく自首した場合については、捜査機関としても関与者全員を逮捕するような扱いとはしておりません。
お金を引き出してしまった場合であっても、どのような経緯で持続化給付金詐欺に関与することになってしまったのかを正直に伝えることで、逮捕を避けられる可能性は大きくなりますし、被疑者として扱われない可能性すらあります。
一方で、詐欺罪を犯してしまっていることに変わりありませんから、自首をするかどうかの判断は慎重に行う必要があります。
弁護士に依頼するかどうかは後で判断するので構いませんので、まずは御相談いただければと思います。
持続化給付金詐欺に関与してしまった場合、詐欺罪の被疑者として捜査を受けるかどうかという点は上述したとおりです。一方で、詐欺罪の被疑者として取調べを受けただけでは、手元に違法な方法で受領した給付金が残ってしまいます。
したがって、違法な手段で給付金を受け取ってしまったことが判明した場合には、早い段階でその給付金を返還する手続が必要となります。
持続化給付金給付規程(個人事業者等向け)
第10条
2項 給付金の不正受給に該当することが疑われる場合は、長官は、事務局を通じ、前項の対応に加え、次の各号の対応を行う。
1号 不正受給を行った申請者は、前項第2号の給付金の全額に、不正受給の日の翌日から返還の日まで、年3%の割合で算定した延滞金を加え、これらの合計額にその2割に相当する額を加えた額を支払う義務を負い、事務局は当該申請者に対し、これらの金員を請求する旨の通知を行う。
2号 不正受給が発覚した場合には、事務局は原則として申請者の屋号・雅号等の公表を行う。
3号 事務局は、不正の内容により、不正に給付金を受給した申請者を告発する。
そして、不正受給者に対しては、上述したような対応が予定されております。早急に返還をしないと、延滞金に加えて、その2割に相当する金額が加算されてしまいますから、返金手続を放置してしまうと、その分、返済しなければいけない金額が増加してしまうおそれもあるのです。
4.持続化給付金詐欺の事案における弁護活動
持続化給付金詐欺は特殊詐欺の1つと分類されて説明されています。特殊詐欺の事案においては、一人の犯人で遂行することは困難で、組織的な背景が認められることが多いため、共犯者の存在を意識する必要があります。
すなわち、共犯者間での口裏合わせが問題となることから、この点の解消に努めなければ、逮捕、勾留は不可避なものと考えられますし、その勾留期間をできる限り短期にとどめ、早期に保釈を認めてもらうためにも、人間関係が一新されることについて、刑事事件の弁護士によって裁判官に説得的に伝えなければなりません。
一方で、持続化給付金詐欺は、これまで社会問題となってきた「オレオレ詐欺」や「投資詐欺」のような他の特殊詐欺の事案とは大きく異なる特色があります。
その内の一つが、被害者が個人でなはなく公共機関であることから、示談交渉ができないという点です。財産犯の一種ですから、被害金の賠償の有無という点も判決に大きな影響を及ぼす事情の一つとなるのですが、持続化給付金の場合申請者でないと返金手続が行えないため、共犯者の立場では賠償すら困難になるのです。
したがって、共犯者の弁護人等と協力して、申請者を通して返金手続が行われるように、刑事事件の弁護士としては動かなくてはなりません。
もう一つの特徴が、特殊詐欺の事案の特徴でもある組織性が薄いという点です。持続化給付金の申請手続は、コロナ禍に苦しむ事業者を迅速に救済するために、極めて簡易な手続が定められています。したがって、「オレオレ詐欺」の場合には、被害者の情報を得るためにも、捜査機関に露見しないように行動するためにも、様々の情報や道具が必要となり、そのような材料を入手するために反社会的勢力と繋がるようなケースが多く見受けられます。
持続化給付金詐欺の場合には、そのように事前に必要となるものが多くなく、数名で犯行に及ぶことが可能ですし、主として問題となるのは申請者を集めるためのリクルーターという立場の人間になります。
組織性が薄いことから、どのような経緯で持続化給付金詐欺に関与することになったのかについても、人それぞれですし、違法性をどこまで認識した上で犯罪に関与しているのかもケースバイケースです。この点も、犯罪の悪質さを判断する際の一つの事情となりますので、不当に重い刑罰を科されることがないように、刑事事件の弁護士が十分な弁護活動を行う必要があります。
組織性が不要であることから、他の特殊詐欺と比較すると、末端の構成員だけでなく、首謀者も逮捕、起訴されているケースが多いように思われます。この場合、末端の構成員と首謀者との間で供述に差異が生じ得ますので、いずれの立場で弁護活動を行うにあたっても、共犯者の供述の信用性には慎重な検討が求められることになるのです。
特に、「オレオレ詐欺」のような特殊詐欺の場合には、末端の構成員である「受け子」等を担っていた被告人に対しても、懲役刑の実刑が宣告されることが多いのですが、持続化給付金の場合には執行猶予が付されることも多く認められるので、刑事事件の弁護士の役割はさらに重要になるものと言えます。
5.まとめ
今回は、持続化給付金詐欺について解説させていただきました。
持続化給付金制度は、コロナウイルスによって大きな損失を受けた事業者を救済する目的で立ち上げられており、そのような制度を悪用して給付金を詐取しようとする者については、厳しく非難されるべきです。
また、既に逮捕者も発生しているとおり、社会問題ともなっておりますから、早期に対応しなければ、逮捕・起訴等の大きな問題に派生する可能性があります。
御心配な点がありましたら、御気軽にご相談いただければと思います。