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コラム

担保法制改正と刑事責任について

簡単に言うと…
  • 新しい担保権を法定する議論がなされている。
  • 現状においても担保権の内容はさまざまであり、新法が制定された場合には、その内容の把握が更に困難となる。
  • 担保物に関する刑事責任の範囲も事案毎の検討が必要となる。
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 これまで様々な刑事司法制度の法改正に関して解説をさせていただいてきました。当たり前ですが、法改正は刑事司法に関する分野でのみ行われるわけではなく、むしろ民事に関する法改正の方が盛んだといえます。
 最近の法改正に関するトピックとして、私達弁護士の中で大きな話題となっているのが、担保法制に関する内容です。
 皆様も、「抵当権」や「質権」という権利は聞いたことがあると思いますし、「譲渡担保」という言葉についても聞いたことがあるのではないでしょうか。
 我が国においては、融資を得ることなどを目的として、様々な財産を担保として提供することが認められており、どのような方法でどのような財産を担保とするのかによって、様々な担保権が認められています。
 一方で、「抵当権」や「質権」のように民法で定められている担保権だけでなく、「譲渡担保権」などのように、民法で定められていないものの、実務上多用されている担保権もあり、そのような権利の内容については、専ら裁判例における解釈などを参考に把握されており、法律解釈が錯綜している状況にあります。
 そのような状況を改善することに加え、社会の発展による財産の形の変化に対応するために、新しい形での担保に関する法制度の創設が、法務省の法制審議会において議論されています。
 議論内容については極めて複雑で、その内容について解説するには、専門的な知見が求められますので、刑事事件を中心に取り扱っている私には、やや荷が重いと言わざるを得ません。興味のある方は、法務省のHPで法制審における議論内容が公開されておりますので、そちらを御確認ください。
 一方で、融資を受けるために担保に供した財産を、融資を受けた後に勝手に第三者に売却してしまう場合など、担保物が被害物となる刑事事件はこれまでもいくつか発生しています。この場合、民事的な賠償責任にとどまらず、刑事責任が追及されてしまうことになるのです。
 現行法においても十分に権利関係が複雑なものとなっており、担保制度が改正された後、その内容を十分に把握することなく担保に関する契約を締結した場合、罪を犯す意図がなかったにもかかわらず、被疑者・被告人として捜査機関の取調べを受けることになりかねません。
 そこで、今回は担保に供された物に対して、どのような行為に及んだ場合に、どのような犯罪が成立するのかについて解説した上で、現在議論されている、新たな担保権との関係で、どのような刑事責任が認められ得るのかについて、解説させていただきたいと思います。

1.問題となる行為

 
 まずは、担保に供された物に関する犯罪行為として、どのような行為が問題となり得るのかを考えてみましょう。大別して次の2パターンになるように思います。

 AさんがBさんから融資を受けるために、何らかの財産を担保としてBさんに提供しました。その後、
① AさんがBさんに黙って担保物である財産をCさんに売却した
② BさんがAさんに黙って担保物である財産をCさんに売却した

 不動産などの財産を担保に供して融資などを得ようとしているAさんのような人のことを、担保権設定者といいます。逆に、Bさんのような人のことを担保権者といいます。
 そして、Bさんに認められる権利は、その担保物や契約内容によって、「抵当権」であったり「質権」であったりする訳なのですが、どのような権利が認められるのかについて、極めて単純に分類を試みるのであれば、以下の2つの要素を検討するのが有益です。

Ⅰ 担保物が動産か不動産か
Ⅱ 担保物の所有権者が担保権者か担保権設定者か

 そうすると、ⅠとⅡの組み合わせによって、4つの分類に分けることができます。担保権の内容の全てを4種に分類することはできませんが、まずはこのように頭を整理していただければと思います。

2.担保物の占有について

 
 ⅠとⅡの組み合わせを考える前に、担保物の「占有」の問題を最初に検討しておきたいと思います。
 というのも、担保に関する刑事責任の内容が複雑になるのは、担保物を占有している人が担保物を勝手に処分した場合がほとんどといえるからです。
 その理由として、担保物を占有していない場合には、担保物を勝手に処分することが現実的に不可能な場合がほとんどだということが挙げられます。
 さらに、担保物を占有していないにもかかわらず、その担保物を売却することなどを理由に、担保物の占有を奪う行為は、仮にその担保物の担保権や所有権を有していたとしても、第三者が勝手に盗み去っていく場合と同様に、占有を奪う行為として窃盗罪が成立することになりますから、法律的な複雑さは生じません(担保物が不動産の場合に占有を無理矢理取り返そうとする行為はあまり想定できませんが、通常の不動産と同様に不動産侵奪罪(同法235条の2)が成立することになるはずです。)
 ですから、この後の話は、いずれも担保物を占有している側の人間が、担保物を勝手に処分してしまった場合のことを考えてみましょう。

3.担保物が動産の場合


(1)担保権設定者に所有権が認められる場合

 動産を担保物として引渡すものの、動産の所有権は担保権設定者に残すような内容のことを質権といいます。このような場合に、担保権者(質権者)が質入れされた物を勝手に売却してしまう行為は犯罪になるでしょうか。
刑法

刑法

(横領)
第252条
1項 自己の占有する他人の物を横領した者は、5年以下の懲役に処する。

 この場合は横領罪が成立することになりそうです。条文に記載されているとおり、自己が占有している質物は、他人である担保権設定者が所有する物ですので、その物を勝手に処分するという横領行為に及んだものと考えられるからです。

(2)担保権者に所有権が認められる場合

 では、逆に担保として動産を提供する場合であっても、形式的には所有権も担保権者に与えてしまうような契約であった場合はどうでしょうか。その場合、担保物は担保権者の所有物になりますから、「他人の物」とは言えず横領罪は成立しないことになりそうです。

刑法

(背任)
第247条
 他人のためにその事務を処理する者が、自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、本人に財産上の損害を加えたときは、5年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。

 そうすると背任罪の成否が問題となりそうです。
 担保権者が所有権を有しているとはいえ、担保目的で所有権が譲渡されているに過ぎませんから、債務が返済された場合に備えて、弁済期が経過するまでは、担保権者は担保権設定者の為に、担保物を保管する事務を処理する必要があるにもかかわらず、その任務に背いて売却する行為は、背任と評価できるからです。

(3)流動集合動産について

 今回の法改正では、所有権も占有も担保権設定者に残すような形での担保が検討されています。これは、担保権設定者に、担保として提供した物を利用させ続けることで、債務を弁済するための資金を得させることを可能とするためです。
 例えば、流動集合動産を担保とするようなケースが典型例になろうかと思います。流動集合動産とは、例えば特定の倉庫の中に保管されている在庫品等のことです。この場合、その場所にある在庫品がまとめて担保物となるのですが、在庫品を取引することで担保権設定者は商売を続けることができますし、担保権設定者が新たに仕入れた商品についても、その倉庫に保管することで新たな担保物として扱われますから、担保物がなくなってしまうということにもなりません。
 このような契約の場合、担保物を処分することが前提となっていますから、担保物である在庫品を処分したとしても犯罪が成立することはありません。
 したがって、基本的には犯罪が成立することはないはずです。
では、既に新たな商品を仕入れる予定がないにもかかわらず、担保権者にその旨を伝えることなく、現存する在庫品を全て処分してしまった場合でも犯罪にならないのでしょうか。
 基本的には、全ての在庫品を処分してしまった場合であっても、その代金等によって弁済が予定されている場合には、犯罪が成立することにならないように思います。
 しかし、既に弁済期が経過していることなどから、残存している在庫の所有権が担保権者に移転しているケースには横領罪が成立することになりそうですし、担保権者と担保権設定者との間のやり取り如何によっては、欺罔によって融資を得たとして詐欺罪が成立する可能性すらあります。
 結局、ケースバイケースとしか言えないように思います。

4.担保物が不動産の場合

 
 不動産を担保とする場合で、その不動産の所有権を担保権設定者に残すような担保権を抵当権といいます。逆に、担保権者に所有権も譲渡してしまうようなケースを所有権留保といいます。
 所有権を有していない側が不動産を処分することは難しいでしょうから、抵当権における担保権設定者、所有権留保における担保権者が不動産を勝手に売却するようなケースが問題となります。
 この場合も、「他人の物」を処分していることになりますから基本的には横領罪が成立することになりそうですし、担保物として提供されている不動産であることを伝えることなく売却した場合には、売主との関係で詐欺罪が成立することもあるかもしれません。

5.まとめ

 
 担保権については様々なものが認められますし、現在審議されている内容も多岐に亘っているので、刑事的な問題点に絞った場合であっても、分量が多くなりすぎて、不動産が問題となる場合の解説が非常に駆け足になってしまいました。今後、実際に問題が生じるようなことがあれば、適宜解説させていただければと思います。
 いずれにせよ、融資を得る目的で担保に供している訳ですから、担保物にも相応の価値が認められる場合がほとんどですし、財産犯の刑事責任は、被害品の価値に大きく左右されますから、担保物が被害品となる場合、その刑事責任は比較的重くなることが想定され、逮捕や起訴の可能性は高くなるように思います。
 さらに、担保契約には様々なものがありますし、その背景等が明らかにならなければ犯罪の成否を判断できませんから、その調査にも時間がかかることが見込まれ、関係者が存在し得ることから、保釈も容易ではない可能性があります。
 もし、担保物に関する犯罪を疑われるようなことがありましたら、直ちに御相談いただければと思います。

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