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コラム

盗撮の罪の重罪化?盗撮罪の新設について

簡単に言うと…
  • 盗撮の罪について法改正の議論がなされている。
  • 現在の試案とおりの改正が行われた場合、法定刑が3倍重いものに引き上げられる。
  • 撮影行為自体の処罰範囲は大幅に拡大しないものの、関連する行為については処罰範囲が拡大する可能性が高い。
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 弊所は刑事事件に関するプロとして、特定の犯罪に関してだけでなく、全ての刑事事件についての御相談をお受けしています。薬物に関する御相談や万引きなどの窃盗犯に関する御相談も多いのですが、同様に多いのが盗撮に関する御相談です。
 盗撮は痴漢と同様に、国の法律である刑法が適用されるのではなく、各都道府県が定める迷惑行為禁止条例(東京都等においては、公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例)が適用され、刑罰が科されることとなっております。
 数年前までは、公の場所で撮影された場合でなければ条例違反を適用することができず、私的な団体が管理するトイレや更衣室などで発生した盗撮行為については、盗撮行為に対して刑罰を科すことができなかったため、そのような場所に盗撮目的で立ち入ったことを理由に、建造物侵入の罪などによって処罰されていた時期もありました。
 その後、条例の内容が改正され、そのような場所における盗撮行為自体を処罰できないという不自然な状態は解消されましたが、各都道府県によって微妙に条例の内容が異なっており、地域間における処罰対象の不均衡さなどは残されています。
 そもそも、盗撮は、一定の地域でのみ特に発生し易いという性質のものではなく、全国的に問題となり得る行為ですから、各都道府県の条例で取り締まるよりも、国の法律として刑罰を科すべきであるという議論は従前からなされていました。
 今回、強制性交等の罪に関する改正などと併せて、盗撮の罪を条例ではなく法律で取り締まろうという議論が、法務省の法制審議会(刑事法(性犯罪関係)部会)内で議論されており、令和5年1月17日に開催された審議会(以下、単に「審議会」と略します。)の中で、その試案が示されました。
 今回のコラムでは、試案がどのような行為を刑罰の対象にしているかなどについて解説させていただこうと思います。

1.撮影罪


(1)現在の条文

 まずは、現行法がどのように定められているのかについて確認しましょう。各都道府県によって微妙な違いが残されていますが、今回は弊所が事務所を設けている東京都の条例を確認します。

東京都公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例

第5条
何人も、正当な理由なく、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような行為であって、次に掲げるものをしてはならない。
2号 次のいずれかに掲げる場所又は乗物における人の通常衣服で隠されている下着又は身体を、写真機その他の機器を用いて撮影し、又は撮影する目的で写真機その他の機器を差し向け、若しくは設置すること。
イ 住居、便所、浴場、更衣室その他人が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいるような場所
ロ 公共の場所、公共の乗物、学校、事務所、タクシーその他不特定又は多数の者が利用し、又は出入りする場所又は乗物

 

 人を著しく羞恥させるような行為であることなどの要件が定められていますが、「下着又は身体」を、「撮影」する行為と「撮影する目的で写真機…を差し向け」る行為が処罰対象とされています。
 すなわち、実際に撮影できていなくても、撮影するためにスカートの近くにスマートフォンを差し入れる行為は、盗撮未遂ではなく盗撮行為として扱われることになるのです。
 なお、条例の第5条には刑罰の内容は定められていませんが、第8条2項1号によって、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する旨が定められています。あまり知られていませんが、痴漢行為については、同条1項2号によって6月以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する旨が定められていますので、法定刑との関係では、盗撮は痴漢よりも倍重い刑罰が予定されているのです。

(2)試案の内容

 では、撮影行為について、新たに法律で定められようとしている試案の内容を次に確認したいと思います。

審議会 試案

1 撮影罪
(1) 次のアからエまでのいずれかに掲げる行為をした者は、3年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金に処するものとすること。
ア 正当な理由がないのに、ひそかに、次の(ア)又は(イ)に掲げる姿態等(「性的姿態等」という。)のうち、人が通常衣服を着けている場所において不特定又は多数の者の目に触れることを認識しながら自ら露出しているものを除いたもの(以下「対象性的姿態等」という。)を撮影する行為
(ア)人の性的な部位等又は人が身に着けている下着(通常衣服で覆われており、かつ、性的な部位を覆うのに用いられるものに限る。)のうち現に性的な部位を直接若しくは間接に覆っている部分をいう。)
(イ)(ア)に掲げるもののほか、わいせつな行為又は性交等がされている間における人の姿態
(2)(1)の罪の未遂は、罰するものとすること。

 

 実は、この試案は他にも撮影罪が成立する行為を定めています。強制的に性的な姿態を撮影する行為や、他の人に見せないと騙したうえで撮影する行為などについても、撮影罪が構成されることになります。
 つまりいわゆるハメ撮りのような行為についても、犯罪として取扱おうとしていることになるのです。
 今回は、現在の条例と似たような、公の場所において隠れて撮影を行うような行為に焦点を絞りたいと思っておりますが、処罰対象を大きく広げる法改正がなされる可能性があるということは御理解いただければと思います。
 また、法定刑が大幅に重くなっていることも注目されます。
条例と異なり、撮影する行為を処罰する旨が定められていますが、2項で未遂も処罰する旨が定められていますので、実際に撮影できていない場合であっても、カメラを設置する行為やスマートフォンを差し入れる行為についても、これまでとおり処罰対象とされていることが分かります。

2.その他の盗撮に関する行為

 
 条例では、「人を著しく羞恥させ」又は「人に不安を覚えさせるような」という要件も定められていますが、試案で定められているような撮影行為について、人を羞恥させないような態様や、不安を覚えさせない態様は考え難いところではあるので、大きな違いはないようにも思われます。
 しかし、試案では撮影行為以外にも処罰範囲を拡大することが提案されておりますので、その点を確認しましょう。

審議会 試案

2 提供罪・公然陳列罪
(1)性的影像記録1(1)ア…の行 為により生成された電磁的記録その他の記録…を提供した者は、3年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金に処するものとする。
(2)性的影像記録を不特定若しくは多数の者に提供し、又は公然と陳列した者は、5年以下の拘禁刑若しくは500万円以下の罰金に処し、又はこれを併科するものとする。
3 保管罪
2の行為をする目的で、性的影像記録を保管した者は、2年以下の拘禁刑又は200万円以下の罰金に処するものとする。
4 影像送信罪
(1)不特定又は多数の者に対し、次のアからエまでのいずれかに掲げる行為をした者は、5年以下の拘禁刑若しくは500万円以下の罰金に処し、又はこれを併科するものとする
ア 正当な理由がないのに、送信されることの情を知らない者の対象性的 姿態等の影像送信…をする行為
5 記録罪
(1)情を知って、4(1)ア…の行為により送信された影像を記録した者は、1(1)と同様とするものとする。
(2)(1)の罪の未遂は、罰するものとすること。

 

 以上のとおり、実際に盗撮行為に及んだ方以外との関係でも、その盗撮画像や映像を提供・保管するなどの行為についても刑罰を科すことが提案されています。そして、記録罪との関係では、実際に多数に拡散された盗撮影像を記録した方との関係でも、盗撮行為に及んだ方と同じ刑罰を科すことが提案されています。「情を知って」と定められていますから、アダルト動画として被写体の方の承諾(撮影されることに加え、アダルト動画として不特定多数に提供されることについての承諾も必要です)を受けた上で撮影されたものだと誤解していた場合には、犯罪は成立しません。しかし、盗撮されているかのような内容となっている影像なのであれば、その影像を見ただけでは被写体の方の承諾の有無を判断することは難しいと思われますので、特に記録罪が法定された場合には、盗撮に関する罪の処罰範囲が大幅に拡大されることになるものといえます。

3.法改正がなされた場合の留意点

 
 今回の解説では省略していますが、いわゆるハメ撮りのような行為について、正面からそのような行為を処罰できる犯罪が存在しなかったことは、従前から改正の必要性が主張されていました。
 今回の試案でその点についての扱いが明確化されそうですので、何らかの形で法改正がなされればいいなと感じております。
 一方でこれまで条例で規制されていた盗撮の罪については、現在の試案の内容で法定された場合、単純に法定刑が3倍重くなることになります。
 これまでも痴漢より倍重い法定刑が定められていたものの、一般的に痴漢よりも重い犯罪だとは認識されていなかったように思います。それは、直接被害者に接することがないことから罪悪感を強く感じにくいことや、視認できなければ被害に遭ったことに気付くことができず、発覚し難いという理由があったように思います。
 現行法の下での扱いでは、前科前歴がない場合において、被害者の方と示談を成立させることができれば、いきなり前科を付されることは少なく、基本的に不起訴処分を得られることが多いように思います。
 しかしながら、大幅に法定刑が引き上げられたことから、今後も同様の量刑相場(処分相場)が維持されるかは不透明です。

4.盗撮の罪に関する弁護方針

 
 現在は、盗撮の罪は、公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例の中で定められていることが多く、「公衆に著しく迷惑をかける行為」の1類型として定められている訳ですから、被写体となった方の個人的な法益を侵害する犯罪として定められている訳ではありません。
 しかしながら、試案の内容が法定される場合、社会的な法益を侵害する犯罪ではなく、個人法益を侵害する犯罪として構成されることが想定されます。
 そうすると、被害者の方が被疑者を許してくれているのか、被害者の方の損害が一定程度回復しているのかという点が、被疑者の処分を定めるにあたってより重要となってきますので、示談交渉の重要性が増します。
 盗撮罪のような性犯罪の被害者の方からすれば、盗撮行為に及んだ被疑者や被疑者の関係者と直接交渉をすることは心理的に大きな負担となります。そこで、示談交渉に着手したい場合には、弁護人を選任することが非常に重要になります。

5.まとめ

 
 今回は盗撮の罪について、将来的に改正される可能性のある法律の内容について解説させていただきました。もし、今回解説させていただいた内容のとおりに法改正がなされた場合、撮影行為自体についての処罰範囲が大幅に変わることはなさそうですが、関連する行為については処罰範囲がひろがります。
 また、法定刑が大幅に引き上げられることによって、実際に検察官の処分が変わり得るのかについても注目する必要がありそうです。

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