ご家族・ご友人が逮捕・起訴されてしまったら、すぐにお電話ください!

0120-845-018

受付時間:7時~23時(土・日・祝日も受付)

初回電話
相談無料
守秘義務
厳守
東京 埼玉 神奈川 千葉

コラム

全額没取されてしまうのか?保釈金について。

簡単に言うと…
  • 保釈が許可された場合、保釈条件を遵守する必要がある。
  • 保釈条件に違反した場合、保釈が取り消されるだけでなく、保釈保証金が没取されることがある。
  • 保釈保証金は必ず全額が没取される訳ではなく、一部にとどまる場合があるものの、その際の考慮要素については一律に定まっていないため、十分な弁護活動が求められる。
詳しくみる

 諸外国から「人質司法」と揶揄されることのある我が国の刑事司法において、保釈は被告人の身体拘束を解く、最も重要な手続といえます。
 保釈が認められる場合、弁護人は被告人や被告人の家族らからお金を預かり、保釈金として裁判所に納めることになります。これは、被告人が保釈期間中に逃げたり証拠隠滅を働いたりするようなことがあった場合に、保釈金を没取することを予告しておくことによって、逃亡や罪証隠滅を防ぐ趣旨で納めさせるお金になります。
 私達が担当した刑事事件において、保釈金が没取されたということはありませんでしたし、保釈金が没取されてしまうという事態自体がそこまで頻繁に起きるものではありません。
 だからといって保釈条件を軽視していい訳では決してありません。保釈金が没取されてしまうこともそうですが、何より保釈が取り消されることによって、再び身体を拘束されてしまうことに繋がるからです。
 昨年の話になりますが、東京高等裁判所が保釈金の一部を没取しない判断を下した後、同じく東京高等裁判所がその決定を取り消し、全額を没取する判断を改めて下したケースがありました。
 保釈については、どうしても認められるまでのことに焦点が当てられがちで、認められた後のことについては話題になり難い点がありますので、保釈金の没取について、保釈期間中の遵守事項等にも触れながら解説させていただこうと思います。

1.刑事訴訟法の条文

 
 保釈に関しては、刑事訴訟法に定めがあります。保釈の許可に関しては、刑事訴訟法第89条や第90条で定められていますので、今回は保釈が許可された後のことについて定められている条文を確認してみましょう。

刑事訴訟法

第93条
1項 保釈を許す場合には、保証金額を定めなければならない。
2項 保証金額は、犯罪の性質及び情状、証拠の証明力並びに被告人の性格及び資産を考慮して、被告人の出頭を保証するに足りる相当な金額でなければならない。
3項 保釈を許す場合には、被告人の住居を制限しその他適当と認める条件を附することができる。
第96条
1項 裁判所は、左の各号の一にあたる場合には、検察官の請求により、又は職権で、決定を以て保釈又は勾留の執行停止を取り消すことができる。
1号 被告人が、召喚を受け正当な理由がなく出頭しないとき。
2号 被告人が逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があると
き。
3号 被告人が罪証を隠滅し又は罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
4号 被告人が、被害者その他事件の審判に必要な知識を有すると認めら れる者若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加え若しくは加えようとし、又はこれらの者を畏怖させる行為をしたとき。
5号 被告人が住居の制限その他裁判所の定めた条件に違反したとき。
2項 保釈を取り消す場合には、裁判所は、決定で保証金の全部又は一部を没取することができる。
3項 保釈された者が、刑の言渡を受けその判決が確定した後、執行のため呼出を受け正当な理由がなく出頭しないとき、又は逃亡したときは、検察官の請求により、決定で保証金の全部又は一部を没取しなければならない。

 第93条が保釈条件について定めています。明文で定められているのは、保釈保証金と制限住居だけですが、「その他適当と認める条件を附することができる」と定められています。
 定められる条件に制限は課されていませんから、何でも条件を附すことは可能なのですが、一般的によく定められているのは、無断外泊や海外渡航の禁止に加え、共犯者等の関係者への接触などかと思います。
 珍しいものでいえば、被告人が著名人であった場合に、記者会見等の開催を禁止されたこともありました。もっとも、このような例外的な条件は、弁護人や被告人が保釈を得るために工夫して、自ら裁判所に提案する場合が多く、裁判所側から保釈条件を提案されることは珍しいように思います。
 法改正で問題となったGPSの装着等についても、現時点において保釈条件として定めることは可能なのです。
 そして、第96条が保釈が取り消される場合について定めています。

2.保釈が取り消されるケース

 
      
 保釈が取り消される場合について、刑事訴訟法第96条が列挙して定めています。逃亡や罪証隠滅を図らないと判断されて保釈されている訳ですから、実際に逃亡や罪証隠滅に及んだり、そのような行為を試みた場合に取り消されることになります。
 保釈の取消や保釈金の没取が問題となる裁判例を見回すと、多くの事案では逃亡や裁判への不出頭が問題となっています。このような事案においては、保釈保証金を全額没取すべきかどうかという点は検討すべきだとしても、保釈が取り消されるのは仕方ないように思われます。
 他にも、もう10年程昔の話になってしまいますが、PCの遠隔操作によって複数名が冤罪により逮捕されてしまった事案の被告人が保釈された際に、真犯人を装うメールを送信した行為が、罪証隠滅行為にあたるとして保釈が取り消されたこともありました。
 この事例においても、自身の刑事責任を否定する虚偽の証拠を意図的に作出している訳ですから、保釈が取り消される可能性を理解した上で行為に及んでいるものといえます。
 他にも、保釈請求の際に定められた住居に住んでいなかったケース等も、意図的に保釈条件に違反している訳ですから、知らない間に過失によって保釈条件に違反するというケースは極めて珍しいのではないかと思います。
 個人的に、保釈が取り消される可能性を覚悟の上で、保釈条件に違反した訳ではないのに、保釈が取り消されてしまいかねないケースとして考えられるのが、裁判所からの書面を受領しなかったというケースです。
 裁判所からの書面が配達された際に自宅を不在としていただけで保釈が取り消されることはありません。しかし、不在票等をもとに、早急に再配達をお願いして受領しなければ、裁判所に書面が返送されてしまいます。そうすると、裁判所からの書面を受領するという条件に違反していることになりますので、保釈が取り消されてしまう可能性が生じるのです。保釈中は郵便物のチェックをこまめにしておくことをお勧めします。

3.保釈条件の遵守状況の確認

 
 逃亡してしまった場合には、裁判の日に被告人が出廷しないことが判明しますから、保釈条件に違反した事実は事後的に確実に判明します。
 では、他の条件との関係ではどうなのでしょうか。実は、犯罪捜査規範は、捜査機関に対して、保釈期間中の被告人を確認するように求めているのです。

犯罪捜査規範

(保釈者等の視察)

第253条
1項 警察署長は、検察官から、その管轄区域内に居住する者について、保釈し、又は勾留の執行を停止した者の通知を受けたときは、その者に係る事件の捜査に従事した警察官その他適当な警察官を指定して、その行動を視察させなければならない。
2項 前項に規定する視察は、1月につき、少なくとも1回行うものとする。
(事故通知)
第254条
1項 前条に規定する視察に当たり、その者について次の各号の一に該当する理由があるときは、これを前条に規定する通知をした検察官に速やかに通知しなければならない。
(視察上の注意)
第255条
 第253条(保釈者等の視察)に規定する視察は、穏当適切な方法により行うものとし、視察中の者又はその家族の名誉及び信用を不当に害することのないように注意しなければならない。

 省略してしまいましたが、第254条1項には刑事訴訟法第96条1項各号と同様の規定が定められております。したがって、保釈を取り消すべき事由を警察官が発見した場合には、検察官に通知がなされ、検察官から保釈の取り消しが請求されてしまうことになるのです。

4.保釈金の没取

 
 保釈が取り消されてしまった場合であっても、保釈保証金の全額が没取される訳ではありません。
 なお、保釈保証金は「没取」されるもので、「没収」される訳ではありません。「没収」は刑事訴訟法ではなく刑法に定められている刑罰の1種になります。一般の方からすれば両者を区別することに大きな意義はないのかもしれませんが、法的には全く異なる性質のものですので、調べものをする際には留意していただくといいように思います。
 さて、保釈条件を遵守することを条件に保釈を許可してもらっている以上、その条件に違反した場合には保釈保証金は全額没取されてしまうのが当然かのように思われる方も多いように思います。
 冒頭で御紹介させていただきました東京高等裁判所の決定(東京高等裁判所令和4年1月24日決定)が、この点についてどのように判示しているかみてみましょう。
 東京高裁は、「保釈保証金は…没取事由を生じさせないために納付させるものであるから、没取事由が生じた場合には、その没取事由に応じた制裁を科すことが予定されているといえるし、保釈制度が、保釈保証金没取の制裁の予告による心理的威嚇に依拠する制度である以上、実際に没取事由が生じた場合には制度趣旨を踏まえた適切な制裁を科すべきである」と判示しています。
 実際に、刑事訴訟法も「保証金の全部又は一部を没取することができる」と定めていますから、保釈が取り消される場合において、保釈保証金の全額を必ず没取することが想定されている訳ではないのです。
 では、どのような要素で保釈金の没取金額は決まるのでしょうか。
 今回の東京高裁の事例は、判決が確定して服役が決まったにもかかわらず、刑の執行のための呼び出しに応じることなく、制限住居地を離れて逃亡した事案でした。このような事案において東京高裁は、「刑の執行への影響がより大きい『逃亡したとき』に該当する事案といえる上、逃亡の期間も相応に長く、刑の確実な執行が期待し難い状況に至っていたともいえるから、本件の保釈保証金については、特に事情がない限りその全部を没取する方向で検討すべきである。」と判示しました。
 決して全ての事案との関係で、原則として保釈金の全額を没取すべきと判示した訳ではなく、逃亡期間等を踏まえて、原則的に全額を没取すべき事案であると判断したに過ぎないことに留意が必要です。
 他の裁判例を確認すると、逃亡を試みたものの最終的に自ら出頭した事実や、保釈保証金を実際に出捐した被告人の家族の経済状況などを考慮して、一部の没取にとどめたものなどがあります。逆に、今回の事案においては、被告人の家族の経済状況については、保釈保証金額を定める際に考慮されているものといえ、没取額を検討する際の考慮要素にはならないとも判示しており、裁判所においても異なる判断が生じ得る要素といえそうです。

5.保釈金の没取と弁護活動

 
 弁護人としては、保釈が取り消されるような事態をまず防ぐことが求められます。したがって、保釈の許可を得るために、遵守不可能な条件を提案することは許されません。
 また、保釈取消事由に該当する事実が認められてしまった場合であっても、軽微な違反に止まる場合などには、誓約書を提出し直すなどすることによって、逃亡や罪証隠滅を試みようとした訳ではないことについて、裁判所を説得する必要があるでしょう。
 もし、保釈が取り消されてしまった場合においても、必ず保釈金の全額が没取される訳ではありませんから、没取される金額ができる限り少額となるように弁護活動を行う必要があります。上述したとおり、どのような要素が没取金額の減額に繋がるのかについては、事案によっても異なり得る訳ですから、弁護人の手腕によるところが大きく認められる分野といえそうです。

6.まとめ

 
   
 以上のとおり、保釈については許可されればおしまいという訳ではなく、実際に保釈保証金が全額還付されるまでは、保釈の取り消しや保釈金の没取のリスクを十分に頭に入れておく必要があるのです。

Tweet

関連する記事