保釈が取り消される条件とは?その場合保釈金はどうなる?
前回までのコラムで、保釈制度及び保釈中の被告人の生活等について解説させていただきました。今回は、保釈が取り消される場合の条件やその手続等について解説させていただきます。
保釈の取消
保釈が取り消される条件
どのような場合に、許可された保釈が取り消されてしまうのでしょうか。
刑事訴訟法
第96条1項 裁判所は、左の各号の一にあたる場合には、検察官の請求により、又は職権で、決定を以て保釈又は勾留の執行停止を取り消すことができる。 1号 被告人が、召喚を受け正当な理由がなく出頭しないとき。 2号 被告人が逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき。 3号 被告人が罪証を隠滅し又は罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。 4号 被告人が、被害者その他事件の審判に必要な知識を有すると認められる者若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加え若しくは加えようとし、又はこれらの者を畏怖させる行為をしたとき。 5号 被告人が住居の制限その他裁判所の定めた条件に違反したとき
1号は、裁判の日に出廷しない場合等を意味します。また、4号についても被害者の方を脅迫したようなケースが典型例として想定されています。1号と4号は、問題となるケースが想像しやすいかと思います。 2号と3号については、保釈が被告人の勾留を前提とする制度であることを考慮すれば、罪証隠滅や逃亡を疑う相当な理由の存在も前提となっている訳ですから(こちらのコラムを御確認ください)、同じ理由で保釈が取り消されてしまうとなると、常に保釈を取り消せることになってしまいます。 したがって、2号と3号については、保釈が許可された後、新たに、逃亡や罪証隠滅を疑う事情が生じた場合が想定されています。 そして、5号が前回のコラムで解説させていただいた保釈条件に違反した場合を意味しています。 2号から4号に該当するような事情が認められるような場合、ほとんどのケースにおいては保釈条件に違反していることが想定されます。したがって、保釈条件を遵守していれば、原則としては、保釈が取り消されることはないものと考えられます。
常に保釈が取り消される訳ではありません
刑事訴訟法第96条1項は、「保釈…を取り消すことができる」と定めており、先ほどお話しした事情が認められる場合に、必ず取り消される訳ではありません。ですから、裁判官の裁量によって、保釈条件に違反した場合であっても、保釈が取り消されない場合があるのです。 私が経験したケースでは、裁判所から送達された書面を受け取ることなく、長期間放置していた件について、裁判所の書記官から連絡を受け、被告人と弁護人が裁判所に赴き、書類を受領すると同時に、顛末書等を提出することで、保釈の取り消しを免れることができました。
保釈保証金の扱い
基本的には返還されます
保釈保証金は、被告人が保釈中に罪証隠滅や逃亡を図ることがないように、担保金として裁判所に納付されるものです。 したがって、被告人が、保釈条件を遵守し、罪証隠滅や逃亡を図らなかった場合には、保釈保証金は全額返還されます。
刑事訴訟法
第91条 次の場合には、没取されなかつた保証金は、これを還付しなければならない。 1号 勾留が取り消され、又は勾留状が効力を失つたとき。 2号 保釈が取り消され又は効力を失ったため被告人が刑事施設に収容されたとき。 3号 保釈が取り消され又は効力を失った場合において、被告人が刑事施設に収容される前に、新たに、保釈の決定があって保証金が納付されたとき又は勾留の執行が停止されたとき。
この条文だけですと、保釈保証金が返還されるタイミングが分かり難いのですが、原則としては、実刑判決(直ちに刑務所に服役することを求める判決)以外の判決が宣告された場合や、実刑判決が宣告された後、被告人が実際に拘置所や刑務所に収容された場合に、保釈保証金が返還されることになります。
保釈保証金が没取される場合
では、保釈保証金が返還されないというのは、どのようなケースでしょうか。
刑事訴訟法
第96条2項 保釈を取り消す場合には、裁判所は、決定で保証金の全部又は一部を没取することができる。 同条3項 保釈された者が、刑の言渡を受けその判決が確定した後、執行のため呼出を受け正当な理由がなく出頭しないとき、又は逃亡したときは、検察官の請求により、決定で保証金の全部又は一部を没取しなければならない。
保釈保証金を返還しないことを、「没取」と言います。没収とは異なりますので、注意が必要です。 そして、保釈保証金が没取されるのは、保釈が取り消される場合等に限られますし、保釈が取り消されたからといって、必ず全額が没取される訳ではありません。ゴーン氏の件では、意図的な海外逃亡であることなどについて、悪質であるものと評価し、全額を没取したのではないかと解されます。 少し前に、パソコンの遠隔操作が問題となり、多くの誤認逮捕者を出した事件の被告人も保釈が取り消されたことが話題になったかと思います。この時には、1000万円の保釈保証金の内、没取されたのは600万円に限られました。 保釈の取り消しと同様に、保釈保証金の没取についても、裁判官の裁量が広く認められることになるのです。
保釈が取り消された後の裁判
保釈が取り消された後、被告人が拘置所等に収容された場合、裁判は特に問題なく進めることができます。被告人が自宅から自分の足で裁判所に出廷するのか、拘置所から押送されるのかの違いしかありません。 では、ゴーン氏のように、被告人が逃亡してしまった場合はどうなるのでしょうか。
刑事訴訟法
第285条 1項 …裁判所は、被告人の出頭がその権利の保護のため重要でないと認めるときは、被告人に対し公判期日に出頭しないことを許すことができる。 2項 長期三年以下の懲役…に当たる事件の被告人は、第291条の手続をする場合及び判決の宣告をする場合には、公判期日に出頭しなければならない。その他の場合には、前項後段の例による。 第286条 前三条に規定する場合の外、被告人が公判期日に出頭しないときは、開廷することはできない。 第291条 検察官は、まず、起訴状を朗読しなければならない。
上記規定の他にも、被告人が法人の場合や軽微事件の場合に関する例外規定が存在しますが、基本的には被告人が出廷できない場合には、手続を進めることができないこととなっています。 この点も、以前号泣会見で話題となった地方自治体の議員が、裁判に出廷しなかった際に問題となったことがありました。その時は、被告人は日本に居住していましたので、裁判所は勾引という手続によって、被告人を強制的に裁判所に出廷させることができました。 しかしながら、ゴーン氏のように海外に逃亡してしまった場合、被告人を勾引することはできません。結局、裁判を進めることはできないのです。
保釈取消を防ぐ弁護活動
せっかく保釈の許可を得られたにもかかわらず、再び勾留され、拘置所で拘束されたまま裁判に臨まなければいけなくなる状況は絶対に防ぐべきです。再度、身体を拘束されてしまうという意味では、逮捕されるのと同様の意味を持ってしまうからです。
そのためには、保釈条件を破らなければならないような保釈条件が付されることがないように、刑事事件の弁護士である弁護人が活動する必要があります。さらに意図せず保釈条件に違反してしまうようなケースは、被告人やその御家族が保釈条件を十分に把握していないケースもあり得ます。保釈条件は、保釈許可決定書に記載されているのですが、この書面は弁護人も被告人も、実際に釈放され得る前に受領することは少なく、釈放後に受領することがほとんどです。ですから、釈放直後に保釈条件に違反してしまうことがないように、弁護人が、想定される保釈条件についてしっかりと被告人や身柄引受人に説明する必要があります。
そして、保釈条件に違反してしまった場合であっても、必ず保釈が取り消され、保釈保証金の全額が没取される訳ではありません。保釈条件違反が意図的なものではなかったことや、悪質性を否定するための活動を行う必要があるでしょう。
まとめ
今回で、保釈に関するコラムは一段落になります。 保釈がどういった制度で、どのような場合に認められるのか、認められた後の被告人の生活内容から、保釈が取り消された場合について、解説させていただきました。 ゴーン氏が海外逃亡をしたことによって、日本の保釈制度の見直しが提案されています。刑事弁護に関わる弁護士として、私も保釈制度は見直されるべきだと考えておりますし、保釈の前提となる勾留についても見直されるべきだと考えておりますが、決して保釈の制度を厳格に運用させるような方向で見直されるべきではないと考えております。 機会がありましたら、保釈制度の見直しなどについても、私なりの意見をお伝え出来ればと考えております。
この記事を書いた弁護士
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