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コラム

強制的に採尿することは適法なのか。強制採尿手続について

簡単に言うと…
  • 強制採尿について直接定めた法律は存在しない。
  • 捜索差押令状によって強制採尿は可能であるが、最後の手段として許されているに過ぎない。
  • 捜査の違法性を理由に無罪判決が宣告されることもある。
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弁護士
岡本 裕明
被疑者・被告人の尿から違法な成分が検出されるかどうかによって、違法薬物に関する使用の罪の成否が決まるといって過言ではありません。しかし、法律には強制採尿に関する定めがありません。今回は、強制採尿とはどのような手続なのかについて解説していきたいと思います。

 「強制採尿」という言葉を聞いたことはありますでしょうか。強制的に尿を採取する手続であることは、文言から容易に想像できると思います。
 そして、薬物事犯の中の使用の罪については、体内に違法な薬物の成分が含まれていることを立証できれば、違法な薬物を摂取することなく、そのような成分を人体で生成することはできませんから、体内に違法な薬物成分が含まれているかどうかの捜査が決定的に重要となります。
 家宅捜索によって自宅から覚醒剤が発見され、被疑者が覚醒剤を使っていたことを自白しており、その身体に注射跡が発見されている場合であっても、体内から覚醒剤成分が発見されなかった場合には、覚醒剤所持についてはともかく、覚醒剤使用の罪で有罪判決が宣告されることは考えられないでしょう。
 体内に違法な薬物成分が含まれているかどうかを捜査する手法として、尿以外にも、血液や毛髪を確認する方法はあります。もっとも、詳細はここでは省略させていただきますが、尿についての鑑定書が最も有効な証拠として考えられているのです。
 そのように決定的に重要な手続であるにもかかわらず、「強制採尿」に関する直接の定めは刑事訴訟法には見当たりません。したがって、法律を確認するだけでは、強制採尿が許されるのかどうか、どのような場合に違法となるのかについて理解することはできません。また、「強制採尿」について適切に理解できていないと、捜査機関から任意に尿の提出を求められた場合に、どのように対応すべきかどうかの判断もできません。
 そこで、今回は、強制採尿について解説していきたいと思います。

強制的に採尿することは適法なのか。強制採尿手続について

1.強制処分法定主義

弁護士
岡本 裕明
そもそも強制採尿手続が有効に行えるのかどうかが問題となるのは何故なのでしょうか。強制処分法定主義という考え方が問題となるので、確認してみましょう。

 強制採尿の手続やその問題点を理解する前提として強制処分法定主義という考え方があります。

刑事訴訟法

第197条1項
捜査については、その目的を達するため必要な取調をすることができる。但し、強制の処分は、この法律に特別の定のある場合でなければ、これをすることができない。

 つまり、「強制の処分」に該当するような捜査については、そのような捜査を許容する法律の定めがなければ行うことができないと定められているのです。
 どのような捜査が「強制の処分」にあたるのかという点は、司法試験においても毎年出題されるような難しい問題です。もっとも、後で詳細に述べますが、強制採尿はカテーテルを尿道に挿入するような行為ですから、強制的に行われる「強制の処分」にあたることは明らかです。
 そうすると、強制採尿について定めた法律がないにもかかわらず強制採尿を行うことは、強制処分法定主義に違反してしまうように思われます。

2.捜索差押の一種

弁護士
岡本 裕明
強制採尿に関する直接の法的な定めがないとしても、現実に強制採尿という捜査は行われています。何故、適法に強制採尿を行うことができているのでしょうか。

 しかし、法律に定められていないことを理由に、強制的に尿を採取する捜査が全面的に違法であるという結論には違和感を覚える方が多いのではないでしょうか。現実に行われていることをご存じであるから違法と言われてもしっくりこないという点もあるのかもしれませんが、上述したとおり、体内に違法な薬物の成分が含まれているかどうかを明らかにしなければ、違法な薬物を使用した罪に問えないことを考えれば、強制採尿が一切できないことになってしまうと、違法な薬物の使用罪をほとんど検挙できないことになってしまいます。
 そこで、実際に法律に定められており、「強制の処分」として許容されている捜査手法を用いることによって、強制採尿を行うことができないか検討されることになりました。
 この点については、様々な見解が提唱されていたのですが、最高裁判所が次のように判示したことで解決されることになります。

最高裁判所昭和55年10月23日決定

「体内に存在する尿を犯罪の証拠物として強制的に採取する行為は捜索・差押の性質を有するものとみるべきであるから、捜査機関がこれを実施するには捜索差押令状を必要とすると解すべきである。ただし、右行為は人権の侵害にわたるおそれがある点では、一般の捜索・差押と異なり、検証の方法としての身体検査と共通の性質を有しているので、身体検査令状に関する刑訴法218条5項が右捜索差押令状に準用されるべきであって、令状の記載要件として強制採尿は医師をして医学的に相当と認められる方法により行わせなければならない旨の条件の記載が不可欠であると解さなければならない。

 家の中を捜索して、その中に保管されている証拠物を押収するような手続と、人の身体の中から犯罪に関する証拠である尿を採取する手続が類似していると本当に言えるのかという点については疑問を抱かれる方もいらっしゃるかもしれませんが、上記最高裁の決定によって、現在においても、捜索差押令状によって強制採尿は行われているのです。
 一方で、人の尿道にカテーテルを挿入するような行為は専門家の医師によって行わせなければ、重篤な傷害を対象者に負わせかねません。そこで、通常の捜索差押令状には求められない、身体検査令状に関して求められる記載も必要とされており、採尿のためにそのような記載が付されている捜索差押令状のことを、実務上、強制採尿令状と呼んでいるのです。

3.適法に強制採尿を行える要件

弁護士
岡本 裕明
強制的に尿を採取することが法律上可能であることはわかりました。とはいえ、常にそのような捜査が許される訳ではありません。どのような場合に強制採尿が行われてしまうかについて考えてみましょう。

 強制採尿を適法に行うことが可能であることについては説明しました。しかしながら、現時点においても(令和6年9月)、強制採尿についての法律が定められている訳ではありませんから、法律を見ていても、どのような場合に強制採尿が許されるのかについてはわかりません。
 この点についても、先ほどの最高裁決定が判示しています。

最高裁判所昭和55年10月23日決定

「被疑事件の重大性、嫌疑の存在、当該証拠の重要性とその取得の必要性、適当な代替手段の不存在等の事情に照らし、犯罪の捜査上真にやむをえないと認められる場合には、最終的手段として、適切な法律上の手続を経てこれを行うことも許されてしかるべきであり、ただ、その実施にあたっては、被疑者の身体の安全とその人格の保護のため十分な配慮が施されるべきものと解するのが相当である。」

 以上のように、「犯罪の捜査上真にやむをえない」と認められる場合には最終的な手段として許容されることになります。そして、「真にやむをえない」といえるかどうかについては、「被疑事件の重大性、嫌疑の存在、当該証拠の重要性とその取得の必要性、適当な代替手段の不存在等の事情」から判断されることになるのです。
 上記最高裁決定は、「覚せい剤自己使用の罪は10年以下の懲役刑に処せられる相当重大な犯罪である」と判示しています。そして、過去にはシンナーの使用に関して強制採尿が行われた事件についての報道がありました。シンナーについては、毒物及び劇物取締法で使用が禁止されているのですが、「2年以下の懲役若しくは100万円以下の罰金又はこの併科」が刑罰として定められています。覚醒剤と比較すると極めて軽い犯罪との関係でも、強制採尿が認められていることからすると、「被疑事件の重大性」という要件はかなり緩やかに解釈されているように思われます。
 シンナーの件については裁判例を見つけることができませんでしたし、強制採尿を適法に行えるかどうかについては、他の要件次第になります。しかし、シンナーよりも重い法定刑が予定されている以上、今後、使用が罪になることが決まっている大麻との関係についても、基本的には強制採尿を行われ得る事案であると考えられるでしょう。
 詳細は弁護活動の箇所で解説させていただきますが、強制採尿の適法性が問題となるケースにおいては、事案の重大性ではなく、「嫌疑の存在、当該証拠の重要性とその取得の必要性、適当な代替手段の不存在等の事情」や、その他の事情が問題となることが多いと言えるでしょう。

4.どのように尿を採取するのか

弁護士
岡本 裕明
強制採尿がどのような場合に許されるのかについて説明しました。では、実際に強制採尿がどのように行われるのかについて考えてみましょう。

 では、強制採尿を行うことになった場合、どのように尿を採取するのでしょうか。私は医師ではありませんので、細かい内容についてはわかりません。
 ですから、かなり大雑把な内容になってしまうのですが、カテーテルの先端を減菌した上で、尿道口から尿道にカテーテルを挿入し、膀胱の圧力を利用して尿を採取するといった方法のようです。
 尿道にカテーテルを挿入すると聞くだけで痛そうに感じてしまいますし、実際に強制的に採尿された被告人の中には、強い痛みを感じたという方もいらっしゃいます。他方で、医師が適切な方法で行えば、通常であれば痛みを伴うことはないとの説明も散見されますし、実際に痛みを感じなかったとする被告人の話を聞いたこともあります。
 強制的に尿を採取される場合、任意に尿を提出することを拒んでいる場合でしょうから、採取の際に暴れていることも考えられ、痛みを伴うかどうかはケースバイケースとしか言えません。
 また、当然ですが、このような行為は医師でなくては行えません。また、清潔な場所でなければ行えませんから、路上やパトカーの中で医師を呼んだ上で行うのではなく、病院で医師が行うことになるのです。
 病院に対象者を連行しなければ、そもそも尿を採取することができませんから、強制採尿令状には、病院に対象者を連行することを許す効力も付されていると考えられているのです。

5.強制採尿と弁護活動

弁護士
岡本 裕明
捜査機関に対して尿の提出を拒んだ場合、強制的に採取されてしまう可能性がある訳です。では、弁護人としてどのような弁護活動が考えられるのでしょうか。

 裁判所は、強制採尿を最終的な手段として考えています。したがって、捜査機関としても、違法な薬物を使用しているのではないかと考えた場合に、直ちに強制採尿令状の取得を試みる訳ではありません。まずは、任意に尿を提出するように働きかけることになろうと思います。
 もっとも、この任意の尿の提出を拒んだ場合、警察官としては、対象者が違法な薬物を使用しているのではないかという容疑を深めることになります。上述した、強制採尿を適法に行う要件としての、「嫌疑の存在」が高まってしまうことになるのです。そして、違法な薬物の使用に関する犯罪を立証するためには、尿等の証拠が必要不可欠ですから、「証拠の重要性」についてはほぼ常に認められてしまうでしょうし、任意の尿の提出に期待できない以上、「代替手段の不存在」という事情を満たすことになってしまいます。
 このように考えると、尿の提出を求められた段階で、どのように対応しても、適法に強制採尿が行われてしまうように感じてしまうかもしれません。しかし、この種の事案においては、捜査が違法であることを理由に、無罪判決が宣告されるケースも少なくないのです。
 それは、強制採尿手続に至る前にも様々な捜査が行われることが多いからです。例えば、最近の裁判例ですと神戸地方裁判所令和5年4月18日判決は、被告人の尿を強制的に採取する前に、被告人の部屋に無断で立ち入っていることが違法な捜査にあたることを主たる理由として、被告人に無罪判決を宣告しています。同種の裁判例はいくつも散見されます。
 ですから、弁護人としては強制採尿の手続自体ではなく、その前に行われている捜査を含めて、違法な捜査が行われていないかを検討する必要があるのです。

6.まとめ

弁護士
岡本 裕明
今後の議論についても見守る必要がありますが、現段階の議論は把握できましたでしょうか。おさらいしてみましょう。

 強制採尿について解説させていただきました。
 法律に定めがないことから、最高裁判所の決定に従って、強制採尿令状を取得して行っていることや、無罪判決が宣告されることも珍しくないことについても説明させていただきました。
 一方で、尿の提出を求められた場合に、捜査機関の要望を拒絶することが事実上困難であるという背景もあります。強制採尿が行われる現場に弁護士を呼ぶことはなかなか難しく、私達に御相談いただく際には、既に強制採尿又は任意の提出によって、捜査機関に尿が採取されてしまった後であることが多いように思います。
 それでも、そのような捜査が適法に行われているかどうかについて弁護士が指摘できることはあり得ます。逆に、捜査の違法性を主張するのではなく、できる限り早期に薬物事件の裁判を終えるという方針もあり得ます。
 適切な弁護方針を定めるにあたって、是非、お気軽に刑事事件について専門的な知見を有する弁護士に御相談いただければと思います。

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