逮捕されたらすぐ弁護士を呼べる?逮捕直後の話。
- 現行犯逮捕以外の場合は、警察官による接触前に、事前に弁護士に相談することができる。
- 逮捕前に弁護士に相談していない場合であっても、逮捕された時に警察官を通じて弁護士に連絡をすることは可能。
- 弁護士が釈放に向けた活動を円滑に行えるように、警察官からの接触前に、弁護士に相談することは有意義。
弊所では多くの刑事事件についての御相談を受けております。その中には、既に御家族が逮捕されてしまっているケースや、逮捕されていないものの、警察署に何度か呼び出しを受けているケースもあります。
このようなケースでは、御依頼を受けた後、直ちに警察署や検察庁に弁護人選任届を提出することになりますから、その後、捜査機関や裁判所は、私達を弁護人として把握できることになりますし、私達も弁護人として活動することができます。
また、捜査機関から接触がない場合であっても、自首をするために警察署に弁護士が同行する場合には、弁護人選任届を事前に作成し、その書面と共に警察署に赴くことになりますから、自首をしたにもかかわらず、逮捕されてしまった場合であっても、直ちに弁護活動に着手することが可能です。
しかしながら、捜査機関による接触がまだなく、刑事事件として捜査を受けることになるかどうか分からない状況で、自首についても検討していないという場合には、弁護人として弁護活動を行うことは当然ながらできません。
では、このような場合に弁護士へ相談することは無意味なのでしょうか。
事前に弁護士に相談することによって、被疑者として取り扱われた場合の手続の流れや、取調べに対してどのように対応するべきかについて、事前にアドバイスすることは可能です。
それを超えて、逮捕された際に、直ぐに弁護人として面会することは可能なのでしょうか?
特に、突然警察官が逮捕状と共に家に訪れるようなケースですと、警察官が臨場した段階で、携帯電話を使用して弁護士に相談することは事実上困難になりますから、自分では逮捕されることになることを弁護士に伝えることができません。
では、どうすべきなのか。この点について今回は考えてみたいと思います。
目次
1.逮捕の種類
突然警察官から連絡があった場合であっても、逮捕されることさえなければ、取調べを受ける前までに、弁護士に携帯電話等を使って相談する機会を作り出すことはできそうです。問題は逮捕されたケースです。
まずは、逮捕とは何なのか。逮捕された後に、どのような手続が予定されているのかについて、刑事訴訟法の定めを確認してみましょう。
刑事訴訟法
第199条
…司法警察職員は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるときは、裁判官のあらかじめ発する逮捕状により、これを逮捕することができる…。
第210条
…司法警察職員は、死刑又は無期若しくは長期3年以上の懲役若しくは禁錮にあたる罪を犯したことを疑うに足りる充分な理由がある場合で、急速を要し、裁判官の逮捕状を求めることができないときは、その理由を告げて被疑者を逮捕することができる…。
第213条
現行犯人は、何人でも、逮捕状なくしてこれを逮捕することができる。
弁護人は、罪を犯してしまった方や罪を犯したと疑われている方の身の潔白を晴らすために弁護活動を行う存在です。犯罪後のリスクを軽減させるための存在ではありません。ですから、弁護士に相談した上で犯罪を行い、現行犯逮捕された後に、相談を受けていた弁護士が弁護活動を行うことは想定していません。
また、別件で事前に相談をしていたことで、現行犯で逮捕された方が弁護を依頼する候補となる弁護士の連絡先を知っていたとしても、現行犯逮捕される際に弁護士に連絡するということは困難です。通常逮捕や緊急逮捕の場合にも、警察官が自宅周辺に集まっていることを逮捕前に察知できた場合には別ですが、逮捕される直前に弁護士に相談することは難しいでしょう。
そうすると、弁護士に連絡できるタイミングとして考えられるのは、いずれの種類の逮捕であっても、逮捕されて警察署に連行された後ということになりそうです。
2.逮捕後の手続
しかしながら、逮捕されて警察署に連行されてしまった後は、被疑者の方が自身の携帯電話等を用いる機会はありません。どのように逮捕された事実を弁護士に伝えることになるのでしょうか。
ここでは逮捕後にどのような手続がとられるのかが問題となりますので、この点についての法律の定めを確認してみましょう。
刑事訴訟法
第203条
1項 司法警察員は、逮捕状により被疑者を逮捕したとき…は、直ちに犯罪事実の要旨及び弁護人を選任することができる旨を告げた上、弁解の機会を与え、留置の必要がないと思料するときは直ちにこれを釈放し…なければならない。
2項 前項の場合において、被疑者に弁護人の有無を尋ね、弁護人があるときは、弁護人を選任することができる旨は、これを告げることを要しない。
3項 司法警察員は、第1項の規定により弁護人を選任することができる旨を告げるに当たっては、被疑者に対し、弁護士、弁護士法人又は弁護士会を指定して弁護人の選任を申し出ることができる旨及びその申出先を教示しなければならない。
第209条
…第78条の規定は、逮捕状による逮捕についてこれを準用する。
第78条
1項 勾引又は勾留された被告人は、裁判所又は刑事施設の長若しくはその代理者に弁護士、弁護士法人又は弁護士会を指定して弁護人の選任を申し出ることができる。ただし、被告人に弁護人があるときは、この限りでない。
2項 前項の申出を受けた裁判所…は、直ちに被告人の指定した弁護士、弁護士法人又は弁護士会にその旨を通知しなければならない。
第203条第1項は、逮捕した後、直ちに被疑者に弁護人を選任できることを説明しなければいけない旨を定めています。ですから、事前に弁護士に相談したことがない被疑者も、この段階では遅くとも弁護人を選任する権利があることを理解することができます。
既に、弁護士に相談しており、その弁護士に弁護を依頼している場合には、その旨を警察官に伝えることができます。
そして、第78条2項は、勾留の事実を弁護士に通知する必要がある旨を定めており、第209条が同項を準用する旨を定めていますから、逮捕の際に被疑者から弁護人がいる旨を警察官に伝えた場合、警察官は弁護士に逮捕した事実を通知しなければいけないのです。
この規程によって、弁護士は逮捕された日の内に、被疑者が逮捕されたことを知ることができるのです。
3.事前に弁護士に相談する意味
以上のように、被疑者は逮捕された場合であっても、警察官を通じて弁護士に逮捕された旨を通知することが可能です。
そうであれば、事前に弁護士に相談する意味はあるのでしょうか。
後述するとおり、被疑者が逮捕された旨を知らされた弁護士は、まず最初に被疑者に接見に向かい、状況を把握することになりますが、その後に最初に行う弁護活動は、無罪や減刑の主張の準備ではなく、釈放に向けたものになります。
つまり、逮捕状は被疑者を2、3日の間、拘束する効力しか有さず、裁判官が被疑者の勾留を決定しなければ、早期に被疑者を釈放させることができるため、勾留請求を回避又は却下させる活動が重要になるのです。
そして、勾留請求を回避又は却下させるにあたっては、被疑者の罪証隠滅や逃亡を疑う理由が存在しないことを主張する必要があります。
この内、罪証隠滅の可能性については、問題となっている被疑事実の内容や、被疑者が逮捕されるに至った経緯等から、被疑者と接見した際に得られた情報から弁護人が意見書を作成することはある程度可能です。
一方で、逃亡の可能性については、被疑者の監督を誓約してくれる存在がいない場合には、説得力のある意見を書くことが困難となることが多いです。個人的には、前科のない被疑者による違法薬物の自己使用の罪などのように、残りの人生を逃亡者として過ごす覚悟を決めることがあり得ない事案は多く、逃亡の可能性がほとんど存在しないケースは存在すると感じているのですが、現在の裁判所の運用ですと、監督者の不在のみを理由に逃亡の可能性が認定される可能性は大きく認められます。
つまり、勾留請求の回避や却下を主張するにあたっては、弁護人が監督者となり得る被疑者の家族等と繋がっている必要があるのです。
事前に相談を受けており、家族の連絡先等を共有していれば、直ちに家族に連絡した上で、協力して弁護活動に着手することができます。逮捕されてから勾留までの手続は迅速に行われることになりますから、タイムラグが発生しないことは大きなメリットになります。
4.逮捕前後の弁護活動について
自首をしない場合、逮捕前に相談を受けていたとしても、弁護人が積極的に捜査機関に働き掛けるべきシチュエーションは多くありません。そこで、被疑者として逮捕された場合に備えた準備活動の支援が主たる弁護活動になることが多いです。取調べ対応へのアドバイスはその中心となります。
逆に、逮捕された後の弁護活動としては、上述したとおり早期釈放に向けた活動を迅速に行う必要があります。
御家族の方に身元引受書を作成いただくことになるのですが、単に同居して被疑者を監督する旨を誓約するだけでなく、犯罪の現場となった場所や被害者と遭遇する可能性のある場所に出向くことがないように監督するなど、事案に応じて身元引受書の内容を検討する必要があります。
特に、身元引受書の作成は、基本的には逃亡の可能性を否定する証拠として用いることを念頭において行いますが、罪証隠滅の可能性を否定する事情を含ませることができないかどうかについても、十分に検討して作成する必要があるのです。
そして、逃亡や罪証隠滅の可能性を否定するために使える事情は、御家族からの身元引受書の作成に限りません。被害者の有無や共犯者の有無によっても、勾留請求の回避及び却下に繋がり得る事情は変わります。この点は、経験のある弁護人の手腕が試されるところといえるでしょう。
5.まとめ
今回は、逮捕された場合にどのように弁護士に弁護を依頼することができるのか、そして弁護人はどのような弁護活動を行うのかについて、解説させていただきました。
刑事訴訟法は、できる限り早いタイミングで弁護士からのアドバイスを被疑者が受けられるように定めています。しかし、逮捕前に弁護士からのアドバイスを受けていない場合には、どうしても弁護士からのアドバイスを受ける前に、取調べを受けることとなってしまいます。
また、逮捕後に速やかに釈放に向けた活動を行うために、御家族との連携を図るにあたっても、警察官からの接触前に弁護士に相談しておくことは極めて有意義なものといえるのです。