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コラム

虚偽の自白で無罪判決になることも。証拠の王様「自白」の扱いは?

 11月26日にショッキングなニュースが報道されました。自宅で覚せい剤を使用したとして起訴され、大阪地方裁判所で有罪判決を宣告されていた被告人に対し、大阪高等裁判所は大阪地方裁判所の判決を破棄し、無罪を言い渡したという内容です。  薬物犯罪について、無罪判決が宣告されることは珍しいことではありません(当然、無罪判決自体が珍しいのですが)。しかし、この事件の特徴は、被告人の女性が、当初、覚せい剤を使用していたことを自白していたということです。  また、女性は、弁護人からも、早期に釈放されるためには、嘘の内容であっても、覚せい剤を使ったことを認めた方が望ましい旨の助言を受けたと話しているようです。本当に、女性の弁護人がそのような助言をしたのであれば、弁護人が冤罪を作りあげたと言っても過言ではないと個人的には思います。  今回の事案のように、犯罪を行ったことについて自白していた場合であっても、結果として無罪判決が宣告されるケースは、過去に何件も存在します。 今回のコラムでは、「自白」について解説させていただきます。

「自白」という証拠がどう扱われるか

「自白」は証拠の王様

 「自白」とは、被疑者や被告人自身の言葉で、犯罪を行ったことを認める内容のものをいいます。捜査機関によって取調べを受けている全ての事実について認めている必要はなく、その一部について認めるような内容のものも「自白」にあたります。  被告人の有罪を証明するための証拠の中で、「自白」は非常に大きな意味合いをもっていました。それは、被告人が実際に犯罪をしたかどうかについては、被告人自身が一番知っているはずですから、その被告人が犯罪を行ったことを認めている以上、それ以上に証明力の高い証拠はないと考えられたからです。  そのような意味で、自白は、古くから証拠の王又は女王と呼ばれてきました。 今でも、自白は日本の刑事裁判手続において重要な位置づけにあります。自白の有無によって、裁判の手続も大きく変わり得るのです。

自白のみで有罪とすることはできない

 上述したように、自白は証拠として重用されてきたのですが、被告人による犯罪行為を証明する際に、自白を過重に評価することの危険性は、昔から懸念されていました。  ですから、刑事訴訟法第319条2項は、「被告人は…その自白が自己に不利益な唯一の証拠である場合には、有罪とされない。」と定めており、自白以外にも被告人による犯罪行為を証明する証拠がなければ、被告人に対して有罪の判決を宣告することができない旨を定めています。 同項は、自白を過度に重視することによって、誤った判断を生じさせないために設けられた規定と解されております。  しかし、上述したように、自白が証拠の王様と理解されている所以は、真実に一番近い位置にいる被告人の言葉だからだったはずです。自白を重要視し過ぎることに何の問題があるのでしょうか。 それは、自白の内容が虚偽である可能性が十分に認められるからです。

嘘の自白をする背景

誰かをかばっての「身代わり出頭」

 「自白」は犯罪を行ったことを認めるものですから、何も犯罪行為をしていない人が、自分に不利益な自白をすることは通常考えられません。何も悪いことをしていないのに、刑罰を科されてしまうかもしれないからです。  しかしながら、それでも虚偽の自白がなされた事例は珍しくありません。例えば、家族や友人を庇う目的で、身代わりで出頭するようなケース等は、あえて虚偽の自白をしてしまう動機も分かりやすいのではないかと思います。 もっとも、今回報道された事案のように、誰かを庇うことにも繋がらない事案においても、虚偽の自白がされてしまう危険性は十分に認められます。

甚大な精神的苦痛を伴う刑事手続から逃れるための自白

 多くの方にとって、警察官や検察官から取調べを受けるという経験は初めてのことです。しかも、逮捕・勾留されてしまっている場合には、社会から隔離され、周囲の協力やサポートが得られにくい状況に陥っています。  最初は、自身の身の潔白を証明しようと考えていたとしても、警察官や検察官から犯人であることを前提に、厳しく追及を受け続けた場合、捜査機関に抵抗をし続け、無罪を主張し続けることは、大きな精神的苦痛を伴います。 そのような極限の状況から抜け出すために、虚偽であっても自白をして楽になりたいと考えるのは、決しておかしな考え方ではありません。  特に、罪を認めたとしても、執行猶予付きの判決に期待できてしまうような事案においては、前科がついたとしても、早く楽になりたいという気持ちから、虚偽の自白をしてしまう危険性が強まります。  ですから、弁護人が、被疑者や被告人の心の支えとなり、冤罪を作り上げることのないように努めなければならないのです。

自白の信用性を争う弁護活動

嘘の自白をさせないことが大前提

 もし、捜査機関に対して虚偽の自白をしてしまった場合、その自白を証拠として、有罪判決が下されてしまう可能性がありますから、裁判において徹底的に争う必要があります。  しかしながら、本来的には、そのような自白をさせてしまった段階で、捜査段階における弁護活動は失敗です。  弁護人として、罪を否定している被疑者に対しては、真実を丁寧に捜査機関に説明させるか、黙秘させるのかを丁寧にアドバイスする必要があります。  虚偽の自白を勧めることは考えられません。  ですから、虚偽の自白を捜査機関にしてしまった段階で、弁護人が被疑者の心の支えになりきれず、弁護人のアドバイスに従えなかったことになるのです。 弁護人としては頻繁に被疑者に面会に行き、捜査機関からの圧力に屈することのないように適切なアドバイスをする必要がありますし、捜査機関による取調べが不適切な形で行われているような場合には、捜査機関に対して抗議文を送るなどする必要があります。

自白が虚偽であったことを示す事実

 被疑者が虚偽の自白を捜査機関にしてしまった場合で、裁判においてその自白の内容が虚偽であったことを主張する場合、自白に関する証拠の信用性が低いことを裁判官に理解させる必要があります。  しかし、捜査機関も、自白を得られた場合、その自白の内容が不合理なものとならないように、しっかりとその内容を証拠化しますから、証拠の内容の不合理さのみを主張するのでは、重箱の隅をつつくような主張になりがちです。  そこで、何故虚偽の自白をするに至ったのかについての動機や、その内容が客観的事実に反していることなどを丁寧に主張する必要があるのです。  今回の事案においては、捜査機関に虚偽の自白をする際のシナリオのようなものが証拠として提出されたと報道されておりました。  形式的には、検察官が自白の内容が真実であることを証明する必要があるのですが、自白がなされている場合には、自白が証拠の王様として扱われていることもあり、虚偽であることを示す積極的な証拠を、弁護人側から示すことが求められているといえるでしょう。

まとめ

 今回は、自白について、その内容が虚偽である可能性を中心に解説させていただきました。  被疑者は被告人の家族は、被疑者や被告人が犯罪に関与するような人間ではないと信じているケースがほとんどです。ですから、捜査機関から、被疑者や被告人が罪を認めていると聞かされた場合、大きなショックを受けることになります。しかしながら、お伝えさせていただいたとおり、そのような自白が真実であるかどうかについては、しっかりと見極める必要があるのです。  他方で、被疑者や被告人が犯罪行為に及んでおり、反省の情から捜査機関に真実を伝えているケースも当然のことですがあり得ます。そのような場合に、家族や友人が、被疑者や被告人の無実を強調することは、被疑者や被告人を精神的に強く追い詰めることになります。  ですから、自白がされている事件だからと言って、弁護人のサポートの重要性が下がるという訳ではないのです。弁護人は、常に被疑者や被告人の味方であることを、十分に理解させ、最善の弁護活動を行う必要があります。

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