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コラム

接見禁止とは何か

簡単に言うと…
  • 接見等禁止決定が下されると、弁護人以外の者との面会が禁止されてしまう。
  • 接見等禁止決定について定めた法律は少なく、法律を見ただけでは、実務の運用について把握することが困難である。
  • 接見等禁止決定の範囲や期間について理解するにも専門的な知見が必要であり、争い方も通常の勾留や保釈請求とは異なる問題を有するため、専門家への相談が望ましい。
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 警察官に逮捕された被疑者の多くは、そのまま警察署の留置場内に勾留されることとなります。弁護人としてはできる限り早期に被疑者を釈放するように検察庁や裁判所に働き掛けることになりますが、残念ながら一定期間、留置場内に身体を拘束されてしまうことは珍しくありません。
 警察署内に身体を拘束された場合、完全に社会から隔離されることになりますので、被疑者を襲う精神的な苦痛や圧力は凄まじいものといえます。
 このような状況下にある被疑者にとって、家族や友人のサポートは非常に心強いものになります。限られた時間ですし、事件関係についての具体的な話ができないにしても、直接顔を合わせて話のできる面会の機会は、被疑者の精神面を安定させるために極めて重要なものと言えます。
 しかしながら、裁判所が接見等を禁止する決定を下した場合、このような重要な機会が奪われてしまうことになります。
 勾留や保釈等と比較すると、あまり議論されることが多くない接見等禁止決定ですが、実は大きな問題を孕む制度といえるのです。
 今回は、接見等禁止決定について、解説させていただきたいと思います。

1.接見等禁止決定とは

(1)刑事訴訟法上の定め

 今回は、弁護人と被疑者との面会ではなく、被疑者の家族や友人等との面会(「一般面会」といわれています。)について解説させていただきます。
 そして、刑事訴訟法は一般面会や一般面会を禁じる接見等禁止決定について、次のように定めています。

刑事訴訟法

第80条
 勾留されている被告人は、第39条第1項に規定する者以外の者と、法令の範囲内で、接見し、又は書類若しくは物の授受をすることができる。勾引状により刑事施設に留置されている被告人も、同様である。
第81条
 裁判所は、逃亡し又は罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるときは、検察官の請求により又は職権で、勾留されている被告人と第39条第1項に規定する者以外の者との接見を禁じ、又はこれと授受すべき書類その他の物を検閲し、その授受を禁じ、若しくはこれを差し押えることができる。但し、糧食の授受を禁じ、又はこれを差し押えることはできない。

 つまり、刑事訴訟法は原則として一般面会が可能である旨を定めているのですが、「逃亡し又は罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由」が認められるとして検察官から請求があった場合には、面会や差入を禁止することができる旨を定めているのです。
 勾留や保釈については、基本となる条文の他にも様々な規定が設けられており、刑事訴訟規則にもいくつかの定めが設けられているのですが、接見等禁止決定については、刑事訴訟法81条しか設けられておりません。
 ですから、接見等禁止決定については、法律だけを見ても理解することは困難で、実務上の運用を理解していなければなりません。

(2)実務上の運用

 まず、刑事訴訟法は、接見等が禁止される対象を明らかにしておりませんが、基本的には弁護人以外の全ての人間が対象となります。例外的な扱いはほとんど見受けられず、被疑者が少年である場合に両親が接見等の禁止の対象から除外されるケースや、被疑者が外国籍である場合に領事官を除外することがある程度です。
 また、接見等が禁止される期間についても法律上の定めはありませんが、一般的には起訴されるまでの間と定められることが多く、被告人が事実を争っている場合などには、第1回の裁判の日まで延長されることもあります。
 次に、どのような場合に接見等禁止決定が下されるのかという点です。法律上は、「逃亡し又は罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由」が認められる場合としか定めていません。この要件は、刑事訴訟法60条1項2号、3号の定めと同じものになっていますから、法律の文言だけを比較すると、適法に勾留が認められている場合には必ず接見等禁止決定が許されてしまうかのように読めます。
 とはいえ、接見等禁止決定は勾留されていることを前提とするものですから、被疑者を勾留してもなお「逃亡し又は罪証を隠滅する」との疑いを解消できない場合にのみ、接見等禁止決定が許されるはずですし、運用としても全ての勾留に接見等禁止決定がなされている訳ではありません。
 しかしながら、検察官が接見等禁止決定を裁判所に求めた場合には、そのほとんどが却下されることなく認められているような現状であり、共犯者の存在が窺われるような場合には、罪を認めている場合であっても、接見等禁止決定が下されてしまっています。

2.接見等禁止決定の解除

(1)接見等禁止決定に対する準抗告

 そこで、弁護人としては接見等禁止決定が下されてしまった場合、その決定の取消を求めて活動することになります。
 具体的には、「準抗告」という手続によって、接見等禁止決定を争うことになります。

刑事訴訟法

第429条1項
 裁判官が左の裁判をした場合において、不服がある者は、簡易裁判所の裁判官がした裁判に対しては管轄地方裁判所に、その他の裁判官がした裁判に対してはその裁判官所属の裁判所にその裁判の取消又は変更を請求することができる。
2号 勾留、保釈、押収又は押収物の還付に関する裁判

 接見等禁止決定も、勾留に関する裁判の一種ですので、刑事訴訟法429条1項に基づき、取消や変更を求めることができるのです。

(2)接見等禁止決定に対する一部解除の申立

 もっとも、上述したとおり、接見等禁止決定については、検察官の請求に応じて幅広く認められてしまっているのが現状です。接見等禁止決定の全面的な取消を裁判所に認めさせることは極めて難しいと言わざるを得ません。
 そこで、次善の策として実務上用いられているのが、接見等禁止決定の一部解除を求める申立てです。
 接見等禁止決定自体が違法であると主張するのではなく、接見等禁止決定を前提とした上で、その一部の解除を求めるもので、特定の親族や友人等との関係においてのみ面会を許すように求めるものです。差入れに対する禁止は甘受した上で、面会のみを認めてもらうように求めることも可能ですし、特定の親族や友人等との間で、1回に限り指定された日時における面会を求めるような方法で申し立てることも可能です。
 一部解除の申立について定めた法律は存在しないため、弁護人であっても一部解除を申し立てる権利は存在しません。
 とはいえ、申立を無視されるといった経験はこれまでないのですが、問題は、申立を行う権利がないことから、その申し立てに対する判断に対して、準抗告のように不服を申し立てることもできないという点です。
 この点が、一部解除という方法の大きな弱点になっているものと言えます。

3.接見等禁止決定の範囲

 ここで一点注意すべき点があります。
 「接見等禁止決定」をこれまで解説してきましたが、「接見等禁止決定」の中の「等」とは、主に一般人からの差入を禁止することを意味します。
 面会(接見)の場合は、警察署の面会室で対面するという方法しか想定されませんが、差入については、何を差し入れるのかによって、罪証隠滅や逃亡が疑われるかどうかが異なるはずです。
 例えば、外部にいる人間との口裏合わせが懸念されることを理由に、接見等禁止決定が下されている場合、外部の人間からの手紙等の差入を禁じることには合理性が認められそうです。
 しかし、衣類や書籍等については、それを差し入れることによって、勾留されている被疑者についての事件に関する証拠が隠滅されてしまう危険性が高まるとは言えません。
 そこで、接見等禁止決定においては、接見に加えて「書類(ただし、公刊されており、かつ、書き込みがない新聞、雑誌及び書籍を除く)を授受すること」を禁止する旨が定められることが多いです。
 したがって、接見等が禁じられている場合であっても、書籍や衣類の差入は可能であることはほとんどです。
 最も取り扱いが問題となるのは写真です。一般的な感覚として「写真」は「書類」とは評価されないと思うのですが、接見等禁止決定が下されていることを理由に、写真の差入が許されないことがあります。
 しかし、手紙を撮影している写真が禁じられるのはともかく、家族の写真の差入が禁じられることに合理的な理由はありませんから、一部解除の申請をするまでもなく、写真の差入は許されなければなりません。

4.接見禁止を争う弁護活動

 刑事事件の弁護士としてまず考えるべきことは、接見禁止を外すことよりも、被疑者や被告人の身体拘束を解除することになります。ですから、逮捕、勾留された直後は、接見禁止の解除を求めるというよりは、勾留を争うことを先行して考えることとなるはずです。  
 しかし、逮捕、勾留されている被疑者、被告人にとって、家族や知人との面会は、精神的に大きな支えとなります。したがって、勾留等を争うことが難しい場合には、ほぼ平行して接見禁止の解除を求めて活動することになるのです。特に、起訴された場合にも接見禁止が継続している場合には、極めて長い間、社会とは完全に孤立した中で裁判に臨まなくてはならなくなってしまうからです。  
 勾留を争う場合と、勾留を前提とした上で接見禁止を争う場合では、刑事事件の弁護士による争い方は大きく異なりますし、御家族等、実際に面会していただく方に御協力いただく内容も異なります。  
 面会の必要性等について具体的に聴取する必要がありますから、刑事事件の弁護士がどのような主張で裁判官を説得するかは、ケースバイケースになるのです。

5.まとめ

 接見等禁止決定については、最決平成31年3月31日(集刑325号83頁)という、重要な判例があります。この事案は、裁判員裁判対象事件だったのですが、起訴後も接見等禁止決定が維持されていました。弁護人が接見等禁止の取消又は医師や家族を接見禁止の対象から除外することを求めて準抗告を申し立てたものの、準抗告が棄却されてしまったという事案です。
 最高裁は、準抗告棄却決定を取り消し、改めて準抗告について審理をし直すように命じました。
 その中で最高裁は、「原々裁判が、公判前整理手続に付される本件について、接見等禁止の終期を第1回公判期日が終了する日までの間と定めたことは、公判前整理手続における争点及び証拠の整理等により、罪証隠滅の対象や具体的なおそれの有無、程度が変動し得るにもかかわらず、接見等禁止を長期間にわたり継続させかねないものである。」と判示した上で、「医師については、特段の事情がない限り、被告人が接見等により実効的な罪証隠滅に及ぶ現実的なおそれがあるとはいえず…、被告人の妹ら他の関係者についても、勾留に加えて接見等を禁止すべき程度の罪証隠滅のおそれの有無に関し、原決定が具体的に検討した形跡は見当たらない」と述べています。
 現時点においても、必要性が明らかではないにもかかわらず、接見等が禁止される決定は下されていますが、勾留されている被疑者が、家族との面会を通じて罪証隠滅を図るという事は、通常であればほとんど不可能であるように思われます。
 接見等禁止決定が被疑者に与える影響の大きさ等が十分に理解され、適切な範囲で運用されるように、私達も努めて参りたいと思います。

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