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コラム

強制労働って何?現代日本でありうるの?

簡単に言うと…
  • 1. 暴行や脅迫によって従業員を無理矢理働かせていたという事実で、強制労働の罪で経営者が逮捕されたという報道がなされている。
  • 2. 強制労働の罪は、暴行や脅迫のような直接的な行為以外にも成立し得る罪である。
  • 3. 前時代的な雇用関係を規制するものに思えるが、現代においても十分に注意が必要な規定といえる。
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 今回も最近の刑事事件に関するニュースについて解説させていただきたいと思います。先日、強制労働の罪に関する容疑で、不動産関連会社の社長らが逮捕されたというニュースが報道されていました。

 報道によると、従業員が帰宅しようとすると鳴り響くように、事務所に人感センサーを設置し、日常的に暴行や脅迫を加え、仕事を辞めさせないようにしていたどころか、給与も月に約2万円しか支給されていなかったようです。

 報道の内容が正しければ、まさに奴隷のような扱いをされていたことになりますし、暴行罪、傷害罪、脅迫罪、監禁罪等、色々な犯罪が成立するように思われます。捜査機関は、既に傷害罪及び暴力行為等処罰法違反の罪で、起訴しているようですが、改めて強制労働の罪で逮捕したとのことでした。

 強制労働の罪については、弁護士であってもあまり聞き馴染みがないのではないかと思います。

そこで、今回は、強制労働の罪について、どのような罪なのかということを中心に解説させていただければと思います。

目次

1.労働基準法の定め

(1)労働基準法第5条

 強制労働の罪は、刑法で定められている犯罪行為ではなく、労働基準法にその定めが設けられています。そこで、まずは、その条文の内容を確認してみたいと思います。

労働基準法

(強制労働の禁止)
第5条
使用者は、暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によって、労働者の意思に反して労働を強制してはならない。
第117条
第5条の規定に違反した者は、これを1年以上10年以下の懲役又は20万円以上300万円以下の罰金に処する。

 このように、「暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段」によって、「労働者の意思に反して労働を強制」した場合に、強制労働の罪が成立することになります。

そして、「暴行、脅迫、監禁」等の手段がとられた場合には、通常は、労働者の意思に反することになるでしょうから、「暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段」がとられていたと認められるかどうかが問題となりそうです。

 今回の事案では、その詳細な内容は報道からは分かりませんが、日常的に暴行や脅迫を加えていたようですから、強制労働の罪が成立することは明らかな事案であると言えるのかもしれません。

(2)刑事罰の重さ

 強制労働の罪に対する刑罰は、「1年以上10年以下の懲役又は20万円以上300万円以下の罰金」と定められております。このような刑罰について、重いと感じる方も軽いと感じる方もいらっしゃると思いますが、下限が定められている点は、通常の刑法犯より重い刑罰が予定されていると解されています。

 多くの場合、刑罰については下限について個別に定めていないケースが多く、懲役刑自体の下限となる1月や罰金刑自体の下限となる1万円という内容が、そのまま刑の下限となるのです。

刑法

(懲役)
第12条
1項 懲役は、無期及び有期とし、有期懲役は、1月以上20年以下とする。
(罰金)
第15条
罰金は、1万円以上とする。ただし、これを減軽する場合においては、1万円未満に下げることができる。
(暴行)
第208条
暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。
(逮捕及び監禁)
第220条
不法に人を逮捕し、又は監禁した者は、3月以上7年以下の懲役に処する。
(脅迫)
第222条
1項 生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、2年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。

 このように、暴行や脅迫については、下限について個別に定められていないのに対して、逮捕・監禁の罪については、下限についても3月と定められています。

 下限が別個に定められている罪は、懲役刑や罰金刑等の最下限の罪では刑罰として不相当であると解されている罪になりますから、刑罰についても相当に重いものが想定されているものと言えるのです。

 強制労働の罪も、下限について別個に定められていることから、一定程度重い刑罰が想定されているものと解されます。

(3)「精神または身体の自由を不当に拘束する手段」の内容

 上述したように、強制労働の罪は、「暴行、脅迫、監禁」等と同様に、「その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段」が用いられた場合であっても成立しますが、先程説明させていただきましたとおり、一定程度重い刑罰を想定している罪になりますから、暴行、脅迫、監禁等と同程度に労働者に負担を与える行為でないと成立させるべきではなく、精神的な負担を与えるに過ぎないような行為については、強制労働の罪になりません。

 この点については、労働基準法の解釈に関する通達が昭和63年3月14日付けで発せられております。その中で、「精神又は身体の自由を不当に拘束する手段」に該当する例として、長期労働契約、労働契約不履行に関する賠償予定契約、前借金契約、強制貯金等が定められています。

 また、この通達の中でも触れられていますが、「不当に拘束する手段」なのであって、「不法に拘束する手段」とは定められていません。そこで、法律に違反しないような内容であっても、労働者の精神的・身体的な自由を拘束するような手段を用いている場合には、強制労働の罪は成立し得ることになります。

2.強制労働の罪に関する裁判例

 このような説明を受けても、まだ強制労働の罪に関しては、前時代的な経営者との関係で問題となり得る、極めて例外的な事態に対処する法律であるかのような印象をお持ちの方も多いように思います。

 そこで、どのような事案において、強制労働の罪が問題となっているのか確認してみましょう。

 まず、刑事事件として強制労働の罪が適用された事案として、少し古い裁判例になりますが、山口地方裁判所昭和40年12月14日判決(昭和38年(わ)第198号)があります。この事例においては、カフェを経営していた被告人が、従業員に対して、顧客に対する売掛未収金の集金責任を負わせる旨の書面を作成させ、従業員の離職を阻止させたという行為が問題となりました。単に、売掛金についての責任を負担させるだけでなく、被告人と暴力団員が親密な関係にあるように装っていたことと併せて、強制労働の罪が成立するものと認定されています。

 比較的新しい裁判例として、民事の裁判ではありますが、東京地方裁判所平成26年8月14日判決(判例時報2252号66頁)の事件でも、強制労働が問題となっています。この事案では、労働者が入社する際に会社との間で締結したCash Advance Distribution Agreement(CAD契約)及びForgivable Loan契約が、強制労働との関係で問題となりました。契約の性質が争われた裁判ではありますが、裁判所はいずれの契約も、退職の際に返還することを条件とする金銭消費貸借契約であるものと認めました。

 そして、このような契約について、「返還義務を課すことによって…一定期間…労働関係の下に拘束することを意図する経済的足止め策というべきものであり…これらの合計額は、被告の年収の約4分の3を超える額であり、退職時に一度に全額返済することは容易でないことが推認され、その返還を免れるために被告の意思に反して本件雇用契約に基づく労働関係の拘束に服さざるを得ない効果を被告に与えるものということができる」として、「自由意思に反して労働を強制する不当な拘束手段である」と認めています。

 直接的な暴行や脅迫がなくても、強制労働と認められてしまうケースはあり得るのです。

3.強制労働に関する弁護活動

 雇用契約については、使用者側から契約を終わらせるためには極めて高いハードルが課されていますが、従業員側からの退職に関しては比較的自由に行える制度となっていますので、従業員の退職を妨害しようとする行為は、一律に不適切なものといえますし、ハラスメントに該当し得る行為と言えます。
 「パワハラ」が社会問題となってから久しく、今では様々な職場でのハラスメントに名称がつけられていますが、ハラスメントに該当しただけで強制労働の罪が成立する訳ではありませんし、従業員の退職を妨害することで直ちに強制労働の罪に該当する訳ではありません。
 一方で、強制労働の罪は、上述したように、「暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段」が用いられた場合に成立することになります。従業員に暴行を加えたり、監禁するようなケースにおいては、違法性を認識しながらの行為だといえるでしょうが、「自由を不当に拘束する手段」は一律に定義できる訳ではありませんから、どのような行為に対して成立するのか直ちに判断できる訳ではありません。また、従業員に対して暴行を加えた場合に、必ず強制労働の罪が成立することにもなりません。  
 結局、強制労働の罪の成否については、雇用環境に関する全ての事実を総合的に検討して判断されることになる訳です。加えて、強制労働の成否について争われた裁判例が多く存在しているともいえず、裁判となった場合には、強制労働の罪が成立しない可能性について、争える余地は十分にあるものといえます。
 強制労働の罪のように、刑法以外の法律で定められている犯罪については、前例が多くなく、弁護方針のセオリーというものが確立していないものが多く認められます。このような事案においては、他の刑事裁判自体の経験等をフルに生かして、活用できる材料を積み重ねて弁護活動を行う必要がありますから、まさに刑事事件の弁護士の能力が試される事案だといえるでしょう。
 弊所では、労働事件も取り扱っておりますから、就業環境等の観点についても十分に精査した上で弁護活動に臨むことができます。もし、強制労働を疑われるような事態があった時には、まずは御相談いただければと思います。

4.まとめ

 このように、強制労働の罪は、実務において頻繁に問題となる罪であるとまでは言えないものの、暴行や脅迫等によって無理矢理働かせるような、所謂奴隷のような扱いをしていた事案ではなくても成立するものであって、十分に注意する必要がありますし、報道されていたように、現代においても奴隷のような働かせ方をしていたことが問題となる事例も存在します。

 強制労働だとの誹りを受けることがないように、労使関係については十分に配慮する必要があるものと言えそうです。

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